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後方、王国南門、数㎞前の最前線。カーズがヨルムと共に大半の魔物を大地と共に穿った為、残りは眼前の約1万弱。士気も高く、このままいけば時間は掛かったとしても殲滅可能だろう。アヤが主だが、アリアも攻撃と共に援護にも回っている為、軽い負傷者はいても重傷者はほぼいない。だが騎士団の団長が二人揃って敵陣に飛び込んでいるので、指揮系統が乱れ、戦場は混戦と化していた。
「うーん、このままチマチマと狩るのも飽きてきましたねー」
(アヤちゃーん、ユズリハー、こっちに来てくださーい)
アリアからの念話が2人に届く。
(えっ?! アリアさん?! 気付かなかった、すぐ行きます!)
テンションが上がりまくっていたユズリハは我に返り、念話の聞こえた方へ走った。
(私も近くにいるので、すぐ向かいますね!)
見える位置にいたアヤもすぐさま合流。
「ではではー、そろそろ飽きてきたので一気に残りを壊滅させます。二人共、アヤちゃんは聖属性、ユズリハは雷の魔力を私の手の上に全力で注いでください。融合と合成魔法の発動は私が更に魔力と神気を込めて行いますから。エリックには他の冒険者達や味方戦力と一緒に下がるように指示して下さーい」
「わかったわ、何かとんでもないことやるのね!」
(バカエリック――!!! 周りの味方と一緒に一旦退きなさい! アリアさんの魔法に巻き込まれるわよ!)
(げぇっ! マジか! すぐに退くぜ!)
「おい、お前ら!! 一旦最後尾まで退け! 死ぬぞ!!!」
周囲の味方に大声で指示を出すエリック。それに気付いた者達は直ちに撤退を始める。
(クレア、レイラ、あなた達も一時撤退しなさい。団長が揃いも揃って指揮も執らずに敵陣で暴れるとは……、少しは冷静になりなさい。今から極大魔法を撃ちますよー)
ユズリハ同様、我に返る二人。
(う…っ、すみません、アリア殿。では他の冒険者達と一時撤退致します)
(っ…、カーズ殿から頂いた武器で我を忘れてしまうとは……。私は何という未熟者なのだ……)
シュンとして撤退する二人。
「前線で闘っている者達! 今から極大魔法が放たれる! 今すぐ退け! 巻き込まれるぞ!!!」
「死にたくない奴はさっさと退け!! 塵も残らねーぞ!!!」
クレアとエリックの大声で、前線で闘っていた者達は急ぎ、一斉に撤退する。そしてアリア達の後方まで全員が退いたが、ここぞとばかりに大軍が押し寄せて来る。
「うーん、邪魔されると嫌ですねー、|フリージング・シールド《凍結盾》!」
バキキイッ、ピキィイイイイ――ン!!!
魔物の大軍を前方から囲むように巨大な檻の様な氷の壁が展開される! 凄まじい魔力と効果範囲の魔法に、後方の味方からは溜息や驚きの声が上がる。
「さあいきますよー、二人共先程言った魔力を全力で注ぎなさい!」
「「はい!!」」
アヤからは聖属性、ユズリハからは雷の魔力が、アリアが上に向けた右掌の上に注ぎ込まれ、アリアのコントロールで巨大な球状になっていく。
「ふふふー、いいですねー。さて仕上げといきましょうかー」
アリアが更に特大の魔力と神気を注ぎ込む! 2つの属性をコントロールし、極大の光と雷の融合した魔法がバチバチと凄まじい反発音と共に、アリアの掌の上に具現化される!
「いきますよー、これが神の力……。万物よ、原初の彼方へと消え去りなさい! |スターバースト・ライトニング《星を爆砕する神の雷光》!!!」
ドオオオオオオオオオオ――――ン!!!!!
天上から、アリアが放った大魔力の光と稲妻の融合した極太の柱が、残りの魔物全てを飲み込み粉々に破壊する、神気を纏った極大の一撃! これこそが神の闘技。1万以上の魔物の群れは最小粒子まで砕かれ、跡形もなく消滅した。だが……、その凄まじい威力に大地には底の見えない程の巨大な穴がポッカリと空いてしまった。
「アハハー、ちょーっとやり過ぎましたかー」
「うーわ…、相変わらずとんでもないわ……。これって私達が協力した意味あるの……?」
「…もうこれは…、超巨大隕石が落ちたのと変わらないね……」
後ろにいた冒険者達や騎士団もあまりの威力にポカーン、中には腰を抜かす者もいるほどだ。
「ふぅ、危ねえ……。あんなのに巻き込まれたら……ぞっとしねえ。とりあえず退くときに粘って闘ってたエルフの嬢ちゃんを拾って来たぜ、危なかったしな」
エリックが肩に担いでいた短い髪のエルフを降ろす。
「申し訳ありません。御迷惑をお掛けしました……」
武器にはヒビが入り、身に着けている軽鎧も傷だらけだ。
「ん――? あれ? アンタ、イヤミーナじゃないの。よくそんな武器と軽装で闘ってたわね」
「ユズリハ……。わたくしはあなたに救われた。そしてあなた達のリーダーであるカーズ様に、新たに『ディード』という名を与えて頂いたのです。あの時瀕死で運ばれていたわたくしに、彼は強力な|リジェネレーション《自動治癒》を隠蔽してかけてくれました……。その御陰で傷もすぐに癒えました。今迄の贖罪も兼ねて、彼と共に闘いたいと思ったのです。勿論、わたくしの罪がそう簡単に許されるとは思っていませんが……」
「カーズ…、相変わらず甘いというか優しいんだから……。まあ、あの変な髪型よりはよっぽどマシよ」
溜息を吐くユズリハ。
「また無自覚に誑し込んで……。後でお仕置きね……」
静かにピキピキとアヤがキレる。だが彼のそういうところに自分も惹かれてきたのだ。だから今更仕方がないなと諦めた。
「しかしあの子は何も知らずに名を与えたんでしょうねー。まあとりあえずは一旦休憩です。カーズは今敵の親玉の魔人らしき者と対峙しているようですし、無事を祈りましょうかー。今のあの子が負けることはまずないでしょうけどねー」
敵陣の最奥で巨大なドラゴンの頭に乗り、敵の大将格と向き合うカーズを、一同は遠目に見つめるのだった。
最後尾から、アリアにアヤとユズリハの魔力が一つになって炸裂した魔法の光と余波が届いて来た。空中の魔物はまだ多少いるみたいだが、地上の魔物は逃げ出した奴らくらいしか探知には反応がない。
「どうやら後ろも片が付いたか。どうするんだ、悪魔大将サマよ? 何か策があるならさっさと出しとけよ。後悔することになっても知らねえぞ、お前はこれから俺に斬られて消滅するんだからな」
こいつはあの上位魔人のメフィストより200程レベルが高い程度だ。いつでも瞬殺できる。邪神召喚とかされると厄介だが、今は情報収集が先だ。
「フハハハハ! 吾輩を斬る? ユーモアの欠片もないとはこのことだな! 我が権能は女を意のままに操ることができるのだ。さあ受けるがいい、マーベラス・テンプテーション!!」
右目を隠していた髪の毛をたくし上げると、現れたその赤い瞳が魔力を伴って怪しく光った、魔眼か? だが俺には何の変化もない、何かしらの影響を受けたようにも思えない。
「何だよ今のは? 目が光る手品か?」
「バカな…、女に吾輩の術が効かないなど……っ?!」
あー、こいつは俺のことを女と思っていたのか? ……ガチでアホだな。
「俺は男だぞ。お前は相手のことも知らずに挑んできたのか? バカここに極まるって感じだな」
「なにぃ!? その美しさで男だと? 吾輩の傀儡にして愛でてやろうと思ったというのに。アーシェス様の情報と異なるとは……!?」
ほほう、あの性格悪そうな奴の情報ね、わざとだろうな。しかしこいつに美しいとか言われてもキモイとしか感じない。更に言わせてもらえば発言がナルシスト全開で軽く引く。
「天界で会ったときは魔力が足りなくて女性体だったな。嘘は吐いてないが、お前はお遊び程度の扱いにされたんだろうさ。まあいいぜ、じゃあ女性体になってやるからもう一度今のやってみな」
スッと力と全身の魔力のコントロールを緩める。胸がデカくなって邪魔だが、闘うのに特に影響はない。しかし…、こいつの能力もアレのそのまんまだな……。
「ほら、女性化してやったぞー」
「愚かな……、ならばもう一度受けるがいい!」
パキィン!
先程よりは多少影響があったのだろうが、俺の精神系スキルに弾かれる。
「ん? 終わったか?」
「な、なぜだっ?! なぜ全ての女共を従わせる吾輩の魔眼が……?!!」
……こいつは自分に酔ってるし、女性を意のままに操ることに愉悦を感じているようなクズだ。所詮魔人だから碌な奴などいないだろうけど、絶対殺そう。
「俺に精神攻撃は一切通用しない。そんな程度が悪魔大将で総司令官ね…。もっと相手のことを調べるべきだったな。『敵を知り己を知れば百戦危うべからず』、孫子の兵法も知らんのか? お前が司令官じゃ、どこの軍隊を率いたとしても勝てねーよ」
まあ知ってる訳ないけどね。
「おのれ…、ならば我が剣で葬ってくれよう……!」
懐からステッキの様な棒を取り出した。取っ手が傘のそれみたいに曲がっている、赤に白の縞模様のついた派手なものだ。あの中に仕込み杖みたいに剣が仕舞ってあるのか……超ダセえ。本職のサーカスのピエロさんに謝れ。
「そっか、でも片手でそのおもちゃを上手く扱えるのか?」
「何を言っている? っ…、なっ! 吾輩の左腕が切断されているっ!? しかも再生しない! ど、どうなっているのだっ……?!」
今俺が放ったのは抜刀術の|飛天《ひてん》だ。こいつ程度では抜刀する瞬間すらも見えないか。
「ただの抜刀術だよ。見えなかったのか? 敵を前にして油断し過ぎだろ。それに神気でお前の左腕の|陽子《ようし》を破壊したんだ、再生なんかできるわけないだろうが。真正のバカなのか?」
「くっ…、おのれえええ……!」
「じゃあ本当の魅了を見せてやるよ……、魔眼解放・テンプテーション!」
カッ!!
俺の魔眼に魅入られたサタナキアは体の自由を奪われ、目の焦点も合わなくなる。他愛無いな。こいつとまともに会話するのはヴァカ過ぎて時間の無駄だ。強制的に吐かせた方が手っ取り早い。
「質問だ、お前に爵位を与えた三人の神は皇帝やら君主、大公爵なんてのを名乗ってやがるのか?」
「ぐっ、うぐ……、その通り、皇帝ファーレ様、バルゼ様は君主、アーシェス様は大公爵を名乗っておられる……」
「やっぱりか。そしてお前みたいな爵位を与えられた魔人、悪魔は全部で6匹。宰相か首相がルキフゲ・ロフォカレ、お前の下にはアガリアレプト、フルーレティ、サルガタナスにネビロス。そしてそれぞれに3匹の配下がいるな?」
「はっ、はい……、その通り、だ、で、ございます……!」
懸命に|レジスト《抵抗》しようとしているが、たかが悪魔程度に神から与えられた魔眼が破れるはずがない。
「お前らはそれが何を意味するものか知っているのか?」
「し、知らぬ……、ただ、与えられた|役割《ロール》を演じて、人界に破滅をもたらすのみ……! この軍勢も、あの方々から与えられたのだ…、うぐっ……!」
こいつ、知らないのか。こいつらが模倣しているのは中世に流行ったとされるサタンの福音書、大奥義書とも呼ばれるグラン・グリモワールというただのフィクションの魔導書だ。ただそれを演じて遊んでるってことか? だが、遊びにしてはやり過ぎたな。そいつら全員細切れにしてやらんと気が済まん。
「じゃあナギストリアは、他の三神はどこにいる? 言え」
「し、知ら、ない……。あの方々は思念波のようなものでこちらに指示をされる……。それに、例え知っていたとして、他言した瞬間に、吾輩など、消し炭にされる…はずだ……っ!」
まあそれもそうか、メフィストとやり方は同じだ。それにこいつら程度、簡単に捕らえられる。そしたら情報など簡単に漏れるしな。もう特に聞くこともないか。魔眼の魔力を解く。
「ぐっ、がっ、はあ……、吾輩、は、一体……? …おのれ、何という威力の魔眼なのだ……!」
「もういいぜ、お前の配下とやらもここに喚べよ。俺が1匹残らず滅却してやる。遊び半分で進軍してきたことを後悔するんだな」
「舐めやがって……、この隷属の首輪をつけたドラゴンもここにはいるのだ。バハムートよ! |息吹《ブレス》でこいつを消し去ってしまえ!!」
まあ鑑定で視えていたが、本当に竜王バハムートとはな。RPGで誰もが憧れるドラゴンを遊び半分で操りやがって、許せんな。
「主よ、あんなもので竜族の誇りを汚すとは、あやつは許せんぞ」
ヨルムも同意見か。さっさと片付けて解放してやろう。
「グ、ガ、ガ……、グアアアアア――!!! メガフレア・ブレス!!!」
ドゴオオオオオオオオオオオオ――――!!!
ブレスが放たれる。凄まじい威力だが、やはり魔力か。ならば何の問題もない!
「ハッ! |スペル・イーター《魔力食い》!」
至近距離から放たれたブレスに合わせるように右手をかざして巨大な魔法陣を展開! そこへ全てのブレスが吸い込まれていく! 吸収した魔力を俺の魔力へと変換してMP回復完了、ごちそうさま。
「なあ――っ?!! 竜王のブレスを吸収するなど、何なのだそれは!?」
「今から死ぬテメーに教えるだけ無駄だ。ヨルム、バハムートを抑えておけ、今からこいつを灰にする」
「心得たぞ我が主! 目を覚ませ竜王よ!!」
ズゴオオオーン!!!
ヨルムが体当たりでバハムートを後ろへ吹き飛ばし、距離を取ってくれた。空中に残ったのは俺と、このアホなナルシストだけだ。
「くっ、いいだろう! 来い! 我が配下、プルスラス! アモン! バルバトスよ――!!!」
サタナキアの後ろの黒い瘴気のオーラから3匹の配下の悪魔がゆっくりと姿を現す。でも隙だらけだぜ、わざわざ待ってやる義理はない!
チキッ! 鍔を右手の親指で押し上げる。
「アストラリア流刀スキル」
ズヴァアッ!!! ザンッ!!!!!
「|六連嵐剣舞《ろくれんらんけんぶ》・三連」
「「「グギャアアアアア――――!!!」」」
「ぐ、があっ! な、何も、見えな、いとは…、うぐっ、吾輩の体が、配下達が、一瞬の内に…、崩れて、い、く……っ! がはあああああああ――!!!!」
「二度と実体化などしない灰となって消え失せろ」
キィーン!
今放ったのは俺のオリジナル。剣閃を加速させるために、抜刀術を利用し、超加速させた刀スキル六連嵐剣舞。それを瞬時に3回放った、18連斬だ。
ナギストリアはアリアの技を全て知っているとほざいていた。だがこの力を自分自身のものなのだと強く意識し、認識してから、幾らでも応用が利くということを理解した。既存の型から斬撃数、斬撃方向を変えるだけでも大きな違い、別の技の様にも自在に変化するということだ。
恐らくこれがアストラリア流の神髄なのかも知れないな。まだまだ改良の余地はあるし、二刀のスキルは使ってもいない。次はこいつを使いこなせるようになる必要がある。
とは言え、先程は危なくもあった。俺の未来視が捉えたのは奴があの大軍をアンデッド、所謂ゾンビ的なものとして復活させる術を発動させようとしていたところだ。|リザレクト・《不死者としての》|アンデッド《復活》、あんなのを発動されていたら戦局が一気にひっくり返されたかも知れない。さっさと滅却して正解だったな。
おっと、ヨルムを忘れていた。ここから離れた山のある場所で、まるで大怪獣決戦をしているかのようだ。リアル特撮だなあ……。さっさとあの隷属の首輪とやらを破壊してやるか。竜王と話をしてもみたいし。
「ヨルム! こっちに引き付けてこい!」
「む、主よ、承知した!」
ヨルムを追って、バハムートがこちらへ飛んで来る。
チキッ!
深呼吸。そしてすれ違う、その一瞬に意識を集中させる。
「これでその状態から解放してやるからな……。アストラリア流抜刀術」
バハムートが俺の眼前を横切るその瞬間、禍々しい闇属性魔力を放つ巨大な首輪に向け、輝く二連の剣閃を繰り出す!
ズガァンッ! バキーン!!!
「|水鏡《みかがみ》」
首輪が砕ける。そのまま自らの制御を失うように落下していくバハムート。その巨体が徐々に小さくなり、人の姿に変わる。
「ヤバい、危ねえ!!」
全力で飛翔し、その体を受け止める。
「なっ……、女の子?」
黒い和服の着物のような衣服を身に着けた少女が気を失っている。側頭部から後ろへ伸びる二本の小さな白い角。髪の毛は綺麗な黒髪だ。まるで日本人形のような少女、この子が竜王なのか?
「主よ、どうやら龍人族のようだ。幼く見えるのは力を使い果たしたからであろう」
「そうか……。ヨルム、今回は助かった。お疲れ様、ゆっくり休んでくれ。ありがとうな」
「うむ、いつでも喚ぶがいい。主よ、ではな」
光の粒子となり、体に吸い込まれた。さて、これでさすがに終わりだろ。空の魔物もアヤやユズリハ、他の魔法職の冒険者達が撃ち落としてくれている。他に特別怪しいものは|探知《アホ毛》に反応はない。
魔力操作をしてから男性体へと戻り、俺はその少女を連れてみんなのいる南門の前まで転移した。
ここで章タイトル回収、長かったww
皆様の御陰で祝50話です。ありがとうございます!