第弐話:万屋の寝息と雲雀の鳴き声
るな「あのぉー、夏留土様ぁ…」
刀稽古をしようと、準備を進めていると衣麻琉…るなが変な顔をして声をかけてきた。
手をにぎにぎしながら、狐につままれたような、やけに,にこにこしている。
どぬく「"様"なんて、改まってどうしたの?」
るな「お願いが…」
どぬく「あー、そういうことね。」
どうやらるなは人に頼み事をする時、いつものように振る舞うことができないらしい。
縁側から庭の石畳に降りて、苦笑した。
どぬく「で、なに?」
るな「服…と、刀を買って欲しいです…」
どぬく「…。服はいいとして、か た な ?」
圧をかけると、るなは過敏に反応したようで
るな「ごめんなさいぃっっ!!」
こんなことになった。
るな「この前、お散歩がてら町を練り歩いていたんですけど…その時なんか何時の間にか盗まれました。」
てへへと言わんばかりの顔。
どぬく「…はぁ、しょうがない。買ってあげる」
るな「ありがとうございますぅぅぅ!」
どぬく「で、服ってのは?」
るな「あ…」
本当に面白い子だ。こんな子があの、瀬織津姫の娘だなんて…言われても信じられないぐらいだよ。
神社のある、小高い山を降りて町に出た。石畳が敷かれ、店やら家やらが建ち並んでいる。
甘味処や鍛冶屋と思しきもの、紙屋、薬屋、酒屋…腹の減る匂いや、客引きの賑やかな声で心が踊る。
るな「どちらに?」
どぬく「ん?、万屋にいこーかなって」
るな「刀を万屋で?!」
どぬく「まーまー、着いてきなって!!」
るな「え~、心配だなぁ」
少し歩いてから、やたらと大きな建物が一軒道を遮るようたっていた。
入口の上には「万屋 百桃屋」[ヨロズヤ モモヤ]と書かれた木製の大きい看板が打ち付けられていた。
入口の扉は全開で、風鈴がいくつも吊るされている。中に踏み入ると、そこはとても綺麗だった。ごちゃごちゃと、物が多いけれど珍しい物や、光り輝くもの…目を奪われる程の物で溢れかえっている。
前方を見ると、一段あがった所に胸辺りまでの高さの机が置いてあった。これだけ高いのは多分、一段あがっているからで実際は腹辺りであろう机だ。
どぬく「すみませーん」
るな「…誰もいませんね。」
と、るなが言うとどこからか寝息が聞こえてきた。
どぬく「ん?…すみませーん!!」
頭か何かを打ち付ける音がきこえた。
「ぃったぁ…んん、は~い?」
女が1人、机からぬらりと現れた。
肩あたりまである長い髪。少し睨み混じりの力強い視線を生み出す瞳。
るな「ひっ!…」
どぬく「大丈夫だよ、」
「んんー?あんた…ど、どぬくさんかい!?」
どぬく「うん!久しぶり、江渡さん。」
るな「えと…さん?」
「嬢ちゃんは初めましてだね?私は__」
江渡「江渡燈花[エト トウカ]だよ。えとって呼んでね。よろしく。」
そう言って机に肘をつき、手をるなに差し伸べた。
るな「よろしく、お願いします…」
強い握手を、してひとつ欠伸をした。
えと「嬢ちゃん名前は?」
るな「有水衣麻琉です!字は瑠那!瀬織津姫の娘で、祗園白夏留土様の一番弟子です!!」
どぬく「一番弟子にした覚えないなぁ」
るな「えっ?!」
えと「せおりつひめのむすめぇぇ?!」
るな「はい…?」
えと「なら、私のお母さんと知り合いだ!!」
るな「えぇぇっ!?」
どぬく「ほんと、?」
えと「私のお母さん、昔瀬織津姫に助けて貰って、それからずっと友人だって…」
にやり、子供のような笑みを浮かべていた。
えと「貴方のお母さんに助けて貰ったから、今此処に私がいるんだよ。本当ありがとう。」
るな「私のおかげじゃないですけど、嬉しいです!!」
えと「…あははっ!!きみ、面白いねぇ~」
どぬく「でしょう?だから弟子にしたの。」
えと「どぬくさんも中々見る目あるね」
彼女の笑顔はいつ見ても、太陽のようだ。笑いにつられてしまう、こんな素敵な人がこんな所にいるなんて…と、おもってしまう。
えと「それでー?今日はどうしたの?」
どぬく「るなに、袴と小袖と…刀くれない?」
えと「おー、いいよん!ちょうどいいのも作ってたんだよね~!」
やたらと、うきうきしながら彼女の背後のにある暖簾[ノレン]をくぐって奥の部屋に進んで行った。
えと「これは、どうかな?」
るな「うわぁ!!すっごい、綺麗ですねぇ」
えとさんが持ってきた袴と小袖にとても目を奪われた。紺青色の袴[ハカマ]に白い小袖[コソデ]、そして白藍の羽織[ハオリ]だった。白藍の羽織には空色に近い色で染められた糸で、袖には菊水文様が、前下がりには流水文様が縫われていた。
どぬく「絶対高いじゃんかよぉ」
えと「ふふ、大丈夫。今回はただでいいよ。」
るな「えっ?!」
えと「特別ねー」
どぬく「ありがとう!」
えと「…刀なんだけどさ、丁度切らしてて…」
るな「ぇ…」
どぬく「どうにかならない?」
えと「ううん…」
「えとさぁぁぁぁぁぁ」
えと「おっ!丁度いいところにぃ~」
「なんか食べ物無いー?って…どぬ?!」
どぬく「誰?…じゃ、じゃっぴ?!」
少しボサついた髪型が特徴的だった。
えと「2人とも、何年ぶり?」
どぬく「8年…ぐらい?」
るな「え?あの、話についていけないんですけど…」
じゃっび?「きみ…有水?」
るな「え?」
じゃっぴ?「えとさん?、その羽織…瀬織津姫の…」
えと「やっぱわかるかぁ」
るな「ん?ん?」
どぬく「どういう…」
えと「実はね?この羽織、瀬織津姫さんのなの。昔私を助けてくれた後忘れてっちゃったんだ。」
えと「返せてよかった。とてもいいものだったし、私が着るのは勿体ないと思っていたから。」
るな「それで…ただ。」
どぬく「なるほど、」
えと「うん。ただって上からだけどね(笑)」
じゃっぴ?「ごめん。自己紹介が遅れたね。」
「俺、赤坂龍太郎[アサカサ リュウタロウ]ってんだ。」
るな「私、有水衣麻琉です」
龍太郎「みんなにじゃぱぱって呼ばれてる。」
るな「字ですか?」
じゃぱぱ「いや、違う。」
るな「なんで?どこから?どうして?」
じゃぱぱ「昔、悪してたとき邪破羽ってよばれてたんだ。それの名残だよ。」
どぬく「俺が、間違えてじゃぱぱって読んだの。」
えと「あれは笑ったなぁ…」
じゃぱぱ「めちゃ腹たったよ。あれ、」
えと「あははっ…あ、じゃっぴ」
じゃぱぱ「んー?」
えと「るなちゃんに、刀つくってよ。」
じゃぱぱ「ん?、今から?」
どぬく「おねがぁい」
るな「よければ…ていうか、刀つくれるんですね…」
じゃぱぱ「しゃーなーいな!いっちょ、やるか!!」
どぬく「ありがとー!」
じゃぱぱ「高くつくぞ。」
えと「さいてい」
どぬく「さいあく」
じゃぱぱ「嘘だって…泣くよ?」
久しぶりの再会だった、赤坂龍太郎。彼の容姿はとても魅力的だ。赤に近い黒い髪に、光に満ちている目。黒い袴に緑色の小袖を着ている。
腰の刀は、鞘から出すと目を疑う程輝いている。刀身が光に当たると、炎のような赤に染まる。俺の刀も、勿論龍太郎…じゃっぴに打ってもらった。
じゃぱぱ「かなり、時間がかかるよ?」
るな「…はぁ、私があの時ドジしなければ…」
どぬく「…それまで、家に泊まってなよ。」
えと「いいじゃん!」
るな「どぬくさん…ほんと、感謝です!」
じゃぱぱ「俺は?」
るな「あ、もちろん。」
じゃぱぱ「付け足しってか?」
るな「はい!あ、ちがっ…」
えと「やっぱ面白い子だねえー!」
どぬく「ふふ、」
ピチョピーチョピチョキョピョピー
外からうるさい鳥の鳴き声がきこえてきた。
どぬく「!!」
「万屋 江渡」から飛び出し、上空を舐めるように見回す。
るな「どぬくさん?」
追って出てきたのはるな。
どぬく「__だよ。」
るな「え、じゃあ…」
どぬく「うん、その通り。勘づいてるよね。」
ピチョピーチョピチョキョピョピー!!
真後ろで聞こえて振り向くと、一羽の雲雀[ヒバリ]が飛んできた。肩に乗ると、雲雀より倍大きい梟[フクロウ]に変化した。
どぬく「ありがとう。見せて、」
梟は足に紙をがっちり掴んでいた。
どぬく「るな。龍太郎に刀を貰ったら、すぐ出るよ。」
るな「はい。承知しました。」
どぬく「ねぇ、__大丈夫だと思う?」
話しかけると、頭に語りかけられた。
_かなり、強いぞ。死ぬかもな。
どぬく「そっか。」
_墓にはいれてやるぞ(笑)
どぬく「あは、よろしくね(笑)」
_それよりじゃぱぱを急かさないと。お前より先に民が沢山死ぬぞ。もう既にひとつの村が潰されてる。直に、もうひとつ無くなるぞ。
どぬく「うん。わかった。ありがとう」
どぬく「赤坂龍太郎。衣麻琉の刀、任したよ」
じゃぱぱ「…急ぐ。できるだけ」
えと「お握りなら握ってあげる。」
るな「ありがとうございます!」
どぬく「寝てばっかの姉御も役に立つね。」
えと「何回殴って欲しい?」
どぬく「ごめんってぇ!!」
第弐話:万屋の寝息と雲雀の鳴き声[完]
追記,毎回コメ欄に参考資料を載せておきます。(他連載でも同様です。)
コメント
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待って夢小説でこんなめちゃくちゃ良い小説初めて見たんですけど神ですか????
あの、今更気づいたんですけどっ なんかセンシティブになってる?! サイトパトロールか通報か知りませんが、全くもってセンシティブじゃないんですけど!!! キレていいですか?
~参考資料~ ・万屋[ヨロズヤ]...なんでも屋みたいなお店のこと ・雲雀[ヒバリ]...僕の家の近くにいるうるさい鳥𓅿聴きたいなら僕の家に来てください(?) ・暖簾[ノレン]...和食屋とかの入口に掛けられてる薄い布のこと お役に立つことを祈ります(。-人-。)