テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
1,541
花月夜れん
1,949
「今の術式って……」
意識を失い、倒れている少年が使った魔法。空中に文字を書き記し、そこから放たれる炎の鳥。カエデが使う術式と同じ、赤い魔法使い一族が使用する術式構築の方法である。
「同じですね……。しかし……魔力が込められているペンではなく、落ちている木の枝を使っての術式構築……そんな効率の悪い方法……」
倒れている少年の元へ駆け寄り、抱き抱えるアルテア。
「魔力の使いすぎでしょう……すぐに目が覚めると思います……」
「この子供の家がアマテラスなのか、夕凪港なのか……それとも別の街なのかはわからんけど、とりあえず安心できるところに連れて行こう。そこで誰かこの子を知っている人に会えるかもしれないしな」
「そうですね。ひとまず予定通りアマテラスへ向かいましょう」
そう言い、野営の片付けを終えた後に子供を背中に背負うフィニス。
出発の準備ができ、アマテラスへ向けて歩き始めた。
⸻
視界がゆっくりと開けて行く。目の前には木目調の屋根。所々痛む身体をゆっくりと起こす。
「目が覚めましたか?」
声の方に視線を送ると、朧げながらに見覚えのある女性。
「ここはアマテラスの修道院だ。怪我はアルテアが全部直してくれたみたいだから、寝かせてもらってただけだけど……悪いな。お前の家がわからなかったから、勝手に連れてきちまって」
その奥には同じく見覚えのある2本の剣を腰に携えた男の人。
その瞬間、さっきまでの出来事が夢では無かったということを理解した少年は、俯き、ぎゅっとかけられていた毛布を握りしめた。
「……大丈夫……ではないと思いますけど……ご両親の件はすみませんでした……」
そっと少年の手に温かい手を重ねて謝る女性。
「大丈夫です……」
女性が悪いわけではない。自分が死んでいないだけ運が良かったと言える。それに……
「本当のお父さんとお母さんではないですから。……それに、僕の力が弱かったから……守れなかっただけです……」
涙ながらに答える少年。
しばらく続いた無言の後、奥の赤髪の女の人がガサゴソ動いているのがわかった。
「力って……これのこと?」
手に持っているペンで空中に文字を記しはじめる。するとそこからいくつもの小さく赤いオーブが出現し、ゆっくりと点滅し始めた。
「その魔法……!」
「あなたが使っていた術式と同じよ」
自分と同じ方法で魔法を使っている人を初めて見た少年は、涙を止め、カエデのことを見つめ続けていた。
「私はカエデ。あなたの名前は?」
「……ホムラ」
ゆっくりと答えるホムラに優しく笑うアルテア。
「私はアルテア、あちらにいる方がフィニスさん」
軽く手を上げ、少年をみて笑うフィニス。
「あそこにいる大きな盾を持っている方がルシオさん」
同じく軽く手を上げるルシオ。
「あそこにいる杖を持った黒い髪の女の人がニティアさん」
ぺこりと小さく頭を下げるニティア。
「あそこで寝ているエルフの方がエラリスさんです」
座って壁にもたれかかりながら寝ているエラリス。
「皆さん……ありがとうございました……」
少年は皆に深々と頭を下げた。
⸻
怪我も完治しており、精神的にも比較的落ち着いていたホムラ。無理のない範囲で話を聞こうと会話をしたフィニス達。
ホムラは別の街の孤児院出身で、数年前に孤児院を閉じることになった際に、別の街に住んでいたあの親達に引き取られた。
夕凪港に用事があり、アマテラス経由で街に帰ろうとしたところを鵺に襲われた。
最近は魔物の出没が著しいという噂は聞いていたが、まさかあんな凶暴な魔物がアマテラスの近くにいるとは思わなかった。
本当の親は知らない。他に自分を引き取ってくれる人はいない。
魔法は物心ついた時には使えたが、アマテラスではあの魔法は気持ち悪がられることが多く、使わないようにしていた。その為、力の使い方も分かっておらず、家族を守れるような実践レベルの魔法は使えない。
話疲れて眠っているホムラの部屋から出たフィニス達が、以上の情報を整理しながら今回の件やホムラの今後についての話をまとめていた。
「結構複雑なのね」
エラリスがポツリと呟く。
「かつて魔女狩りにあった一族ですから。特に閉鎖された島国です。一度迫害・差別の対象となると、いつまでもその弊害が残り続けます。私も親を知りませんし、それで奴隷としてアクリムへ流されましたし」
胸元から取り出したペンをくるくると回すカエデ。
「生きるためには……居場所は必要です……。何にせよ……決めるのはあの子ですが……」
「……」
黙っていたニティアがゆっくりと呟く。
「力の使い方……教えてくれる人は必要だもんね」
かつての自分の師を頭に思い浮かべたのだろう。少しだけ悲しそうな顔をしながら、それでも微かにニティアは笑っていた。
コメント
1件
うわあ、ホムラくん、自分と同じ魔法を使うカエデさんに出会えて本当によかったですね……。「同じ一族」というタイトルがじんわり沁みます。もう孤児じゃない、ちゃんと自分の力を理解してくれる人がいる——その希望が、読んでいるこっちにも温かく広がりました。ニティアさんの「教えてくれる人は必要だもんね」も、さりげないけど優しさが詰まってて好きです。