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夜。
ひろは、帰り道、恒の言葉を思い返していた。
「今は、ちゃんと届く感じ。」
その言葉が、ずっと耳に残っていた。
声が変わったことに気づかれるのは、
少し怖かった。
でも、恒の言い方は、
“変わったね”じゃなくて“今のほうが届く”だった。
それが、ひろには少しだけ救いだった。
家に着いて、鍵を回す手が止まった。
届くって、なんだろう。
前は、届いてなかったのかな。
それとも、僕が届かせようとしてなかったのか。
部屋に入ると、静かだった。
でも、恒の声だけは、まだ残っていた。
恒は、ひろの声を聞きながら、
何も言わずに作業を続けていた。
低くなった声は、
前よりも、言葉の重さがある。
それが、今のひろらしさだと思う。
恒は、ひろの左側に立ちながら、
自然に話しかけた。
「今日、冷蔵庫の音、また変だったよ。」
「また? 昨日叩いたのに。」
「叩き方が足りなかったんじゃない?」
「じゃあ、恒が叩いてみてよ。」
「俺が叩いたら、壊れるかもしれない。」
「それはそれで、見てみたい。」
ふたりの会話は、静かに続いていた。