テラーノベル
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干潮が終わって、バイトの前半がひと段落した。
休憩室のベンチに、ひろと恒は並んで座っていた。
間には、ペットボトル一本分くらいの距離。
恒がキャップを開ける音だけが、静かに響いた。
「……前より、動き速くなったね。」
ひろは、少し間を置いてから答えた。
「そう?」
「うん。前はもうちょっと、慎重だった気がする。」
「……まあ、いろいろあったし。」
恒はそれ以上言わなかった。
ひろも、ペットボトルを傾けて口をつけた。
沈黙が落ちる。
でも、どちらもその沈黙を壊そうとはしなかった。
恒が、ふと前を向いたまま言った。
「納品、助かった。俺、ちょっと遅れてた。」
ひろは、ペットボトルを机に置きながら言った。
「見てた。だから、拾いに回った。」
恒は、少しだけ笑った。
「……ありがと。」
「別に。恒が後ろにいると、動きやすい。」
恒は、うなずいた。
「俺も、ひろが前にいると安心する。」
それきり、会話は途切れた。
でも、休憩室の空気は、さっきより少しだけやわらかくなっていた。
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