テラーノベル
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――九年の月日が、静かに流れた。
幼い身体で光を暴走させていた私は、
気づけば十二歳になっていた。
鏡に映る少女は、
かつての面影を残しながらも、はっきりと変わっている。
絹のように透き通る白銀の髪。
宝石のような青い瞳。
視線を向けられるたび、
息をのむ気配を感じるようになった。
(……慣れないな)
美貌だけではない。
成長とともに、魔力も確実に増大していた。
光属性は安定し、
癒やしも浄化も、短時間なら問題なく使える。
けれど――
(……闇は、まだ)
感情が揺れたとき、
胸の奥で、別の力が目を覚ます。
だから私は、
怒らず、泣かず、笑うことを選んだ。
みんなを、心配させないために。
「今日はここまでだ、ルクシア」
兄――ユリウスは、成長しても変わらない。
背は伸び、表情は大人びたのに、
私を見る目だけは、昔のままだ。
「無理するな」
「顔色が少し悪い」
「大丈夫だよ」
そう言うたび、
彼は少しだけ、納得しない顔をした。
レオンハルト王子も同じだった。
王子としての立場と責任を背負いながら、
私の前では、相変わらず距離が近い。
「ちゃんと寝てる?」
「食事、抜いてない?」
(過保護は健在)
エリオス、セレス、カイ、ノアも、
それぞれの役割と自覚を身につけていった。
護衛の数は増え、
外出は制限され、
魔法の練習は短時間のみ。
――守られている。
けれど、
自由ではなかった。
そして、告げられた。
「明日、王立魔法学院へ入学する」
ユリウス。
レオンハルト王子。
エリオス、セレス、カイ、ノア。
全員、十六歳。
当然の進路。
当然の未来。
――私だけが、取り残される。
入学前夜。
誰もいない庭で、夜風に髪を揺らした。
(……いなくなるんだ)
胸の奥が、少しだけ苦しい。
翌朝。
王都は、学院入学の日特有の賑わいに包まれていた。
制服に身を包んだ六人の姿は、
もう“子ども”ではなかった。
「……行ってくる」
ユリウスが、私の前でしゃがむ。
「絶対、無理するな」
「毎日、連絡する」
「分かってる」
レオンハルト王子も、視線を逸らさず言う。
「何かあったら、すぐ知らせて」
「ボクは、すぐ戻る」
「うん」
エリオスたちは、それぞれ短く言葉を残した。
「待ってて」
「帰ったら、また遊ぼう」
「……ちゃんと、元気で」
馬車に乗り込む背中を、
私はただ、見送ることしかできなかった。
遠ざかっていく背中。
九年のあいだに、
私は確かに成長した。
でも――
(……まだ、追いつけない)
胸の奥で、
光と闇が、静かに揺れた。
王立魔法学院への道が開かれるその日まで、
私は、この場所で待つ。
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