タラと入れ替わって、まだ慣れない生活を私は楽しんでいた。
時々、「性格がおかしくなった」と言われることも多いが、それほど気にしていなかった。
タラの体だから、好き勝手することはできないけど、非日常的なことにワクワクしていた。
いじめの対処も難しいことではなかった。
「いいもりさーん」
七海さんと鈴木さんが、席に座っている私の前に立って名前を呼んできた。
「調子乗ってるみたいだけど、なに?まさか神原くんと話してないよね?」
何故そうなるんだろう。タラは神原さんに好意を持っていないはずだ。もちろん中身の私も神原さんに好意なんて持っていない。
「なんで?あれから話したことないよ」
正直に答えた。私を睨む鈴木さんの顔は、苛立ちが滲み出ていた。
鈴木さんは「嘘つかないでよ!」と私の机を軽く蹴った。その振動で机の上に置いてあった消しゴムが落ちてしまった。
「嘘なんかついてないよ」
「生徒指導の矢守先生にチクっていい?」
ニヤニヤ笑っている七海さんが、落ちた消しゴムを拾いながら聞いてきた。
七海さんたちが頼りにするような生徒指導、どれほど怖いのだろうか。だけど、私は生徒指導に訴えられるような悪行を行っていない。
「その矢守だかイモリだか知らないけど、言ったところで何も起こらないと思うよ」
私は続けた。
「そもそも私が神原さんに好意を持っている証拠は?勘違いならやめてよね」
気がつくと、教室はしんと静まり返っていた。
「飯森すげえ」「つえー」などという声が教室から漏れた。
七海と鈴木は面食らっている。
「勘違いとか、そういうのじゃねえし」
鈴木が言ってから、七海は拾った消しゴムを私に投げてきた。
勘違いじゃないなら、何なのだろうか。
「飯森さん…なんか、性格変わったね」
その声にはっと我に返る。
加藤さんだった。いけない、タラの体なのに好き勝手に言い返してしまった。
「そんなことないよ!」
慌てて首を横に振る。タラの憧れの人、この人に嫌な偏見を持たれるのは避けたかった。
タラへのいじめに腹が立って言い返してしまったけど、タラの気持ちも大切にしたいのだ。
「あはは、なんかすっきりした」
引かれたと思ったのに、加藤さんは笑って「最高」と拍手をしてくれた。
周りの人たちも「飯森さんすごいね」「鈴木さんたちに言い返すとか強すぎ」とこそこそ話していた。
どうやらタラに味方はたくさん居るようで、少し安心した。
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