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#白い結婚
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フォルトナー王との会談。セラは席を立つと、自身の胸もとに手を当てた。
「私たちは、アルゲナムを奪還します」
堂々と、白銀の姫は宣言した。
「魔人軍はすでにリッケンシルトをその手中に収めようとしていますが、私たちはこれと戦い、同国より敵を駆逐するつもりです」
「……!」
王は目を見開いた。予想外の言葉だったのだろう。セラは続けた。
「現在、リッケンシルトに展開する魔人軍を攻撃する計画を立てており、そのための兵の集結、後方兵站線の準備を行っております」
「準備……」
フォルトナー王は眉間にしわを寄せた。
「兵力は? リッケンシルトにいる敵に対抗可能なのか?」
「現在のところ、ウェントゥス傭兵団を中心とする戦力のみですが」
セラは少し考えるように間を取った。
「東方にあるジパングーという国より、援軍が駆けつける見込みとなっております」
「ジパングー……? 聞いたことがない国だ」
それはそうだろう――慧太は心の中で呟いた。この世界に日本などない。出まかせもいいところだ。
「私もつい先日、こちらのケイタ団長より聞かされました。実際のところ、ジパングーからの先遣隊はすでに到着しており、まだ百にも満たない数ですが、順次増員される見込みです」
「何故、そのジパングーという国は、貴女に援助を?」
怪訝さを隠そうともせず、王は問うた。亡国の姫を助ける、という理由で国ひとつが軍を派遣するだろうか。そこに何かしらの関係か、約束事がなければとても考えられない。
「貴女は、彼らとどのような関係なのか」
「私自身には、関係はありません。ですが、かの国は、ケイタ団長に大きな貸しを持っている様子――」
「ええ、そうです」
視線を向けられた慧太は答えた。
「内乱鎮圧に協力を……」
あぁ、とフォルトナー王は、それだけでどこか納得したような顔になった。
「それは、ジパングーの指導者には大きな借りと言えるだろうな。わかった」
それで――王はセラへと視線を戻した。
「我がアルトヴューに何を望むか? 我が国からも兵の派遣を要請するか?」
「そうできたなら、大変ありがたいのですが」
セラは首を横に振った。
「ライガネンから戦いに必要な物資、食糧などを輸送する手はずとなっています。その輸送の際、貴国の街道を利用することをお許しいただきたい。あと検問などを通さず、こちら側の輸送隊を無条件で通すという陛下の許可とその証明を頂戴したく」
「……戦争物資の無条件での通過」
「なにぶん、ライガネンからは遠くありますから。しかし補給については迅速に必要となります」
「なるほど。戦争には、確かに補給は重要だ」
フォルトナー王は腕をくみ、じっとセラを見つめた。
「それで、その条件を呑んだ時、貴女は我らに何をもたらす?」
タダではやらん、ということだろう。以前ユウラも言っていたが国家への頼みごととなれば、利権などが絡んでくる。
王の言葉に、しかしセラは怯むことなく答えた。
「我々がリッケンシルトで戦闘を展開する限りにおいて、貴国へ攻撃しようとする魔人軍の行動は大きく制限されるでしょう。万事上手くいけば、敵はアルトヴューへ侵攻すら出来なくなる可能性もある。……それは間接的に貴国の防衛にも貢献できると思いますが?」
「万事上手くいけば、だがな」
「もちろん、戦いというのはやってみなければわかりません」
セラは頷いた。
「ですが、ウェントゥス傭兵団のほうで、魔人軍に多大な損害を与える計画が練られております……」
セラがユウラへと視線を向けた。青髪の魔術師は立ち上がった。
「発言の許可を」
「許可する。申してみよ」
「恐縮です。我々は、魔人軍に対し、冬季攻撃作戦を立案、実施いたします」
「冬に動くと言うのか?」
食糧確保の難しい冬。そこに大規模な兵員を動員した戦争は困難だ。魔人軍でさえ、先日、国境を越えて攻撃してきたが、すぐに引き返している。冬に仕掛けるだけの兵站、主に食糧が不足しているからだと見られる。
基本的に、冬に戦争はしない――それが各国の常識である。
フォルトナー王が驚いたのは、その常識を覆して戦いを仕掛けると、青髪の魔術師が発言したからだ。
「食糧の確保が難しい、だから行動ができない。それがわが方の利に繋がります。敵は大規模な兵力を動かす余裕がないため、各地にその戦力を分散配置させております。敵が相互に支援しづらい今なら、各個撃破も難しくありません」
「果たしてそう上手くいくかな?」
王は片方の眉を吊り上げた。
「食糧確保が難しいのは、貴殿らも同じであろう?」
「そのためのライガネンからの支援です」
ユウラは、よどみなく言った。
「それに、我々傭兵には伝統的な、物資調達方法もございますゆえ」
伝統的な調達方法――現地徴発を意味していることだろうことを臭わせる。セラは、わずかに顔をしかめ、フォルトナー王もまた口元を引きつらせた。
「そのための少数精鋭でもあります。あまり多くの兵を動員しては、こちらも食糧確保に苦労することになりましょうから」
それに――ユウラの目が光った。
「それをするのは、リッケンシルトの地です。フォルトナー陛下の国ではそのようなことは致しません」
「もちろん、そうでなくては困る。……我が国で、その貴殿ら傭兵の伝統的調達を行おうものなら、そちらの要請は認められん」
「御意にございます」
ユウラは頭を垂れた。フォルトナー王は、セラを見やる。
「本当に、わが方からの兵は必要としていないのだな?」
「もちろんいてくれれば頼もしいですが、それは今でなくてもよいかと」
セラは一礼した。
「リッケンシルトでの戦いの推移を見守られたのちに、判断していただければと思います。万が一にも我らが失敗するようなことになっても、陛下の国を守る者たちは誰ひとり失うことにはなりません」
もっとも――セラは微笑を浮かべた。
「失敗するつもりなどありませんし、リッケンシルトから敵を駆逐し、アルゲナムを解放いたします」
「ふふ……ふはははっ」
フォルトナー王は声をあげて笑った。
「いや、結構結構。貴女がリッケンシルトで戦う限りは、我が兵に犠牲は出ないか。……それが本当であるなら、反対する理由はないな。よかろう、やりたまえ。あなたの軍の補給隊が我が国の街道を利用する許可を与える。もちろん、無条件通過の書状も出す」
王はグラスの中のワインを飲み干した。
「そして私も一つ約束しよう、セラフィナ姫。貴女がリッケンシルトを魔人の手から解放したら、アルゲナム解放のために我が軍を派遣しよう」
「! ……感謝いたします、陛下。必ずやご期待に応えて見せます!」
白銀の姫の表情がパッと花が咲くように明るくなった。
これで、ここでの目的を果たしたことになる。通行許可をもらったことで、これで心置きなく、戦争ができるというものだ。
セラにとっては、故郷を取り戻すための戦い、その第一歩である。
その彼女が喜んでいる顔をみて、慧太は自然と表情が緩んだ。……正直にいって、何故自分がここにいるのか、今だよくわかっていないが、セラにとってはいい結果になったようでよしとしよう。
ふた回り以上年上だろう国王を前にしても堂々と話す。セラはアルゲナムの姫だから王族との付き合いはあるのだろうが、それでも戦場にいるのとは別の頼もしさを感じる。さすがである。
――ほんと、オレがいなくてもユウラがいればよかったんじゃないかな。
慧太も残っているワインを飲み干した。相変わらず、味覚がほぼ死んでいるので、何となく甘いかな、程度しかわからなかったが。
その時だった。遠くで爆発のような音がしたのは。
唐突な出来事に、フォルトナー王は声をあげた。
「なんだ? 今の音は――?」
・ ・ ・
花びらを広げた中に無数の歯を生やした頭部、植物の蔦が絡まりあったように伸びる首が複数。球形の胴体は半ば地面に埋もれ、さらに無数の触手を伸ばす。毒々しいまでの緑と紫色の身体。植物とも動物ともつかぬ異形の花。
ツヴィクルーク。
かつて、グルント台地地下に落ちた慧太、セラたちが遭遇した、巨大な化け物。それと同じものが、石畳を割って地表へ姿を現した。
しかも、四体も。
コメント
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第268話、読み終わりました。セラの堂々たる交渉、カッコよかったです。王を前にして一歩も引かないその姿勢に、ちゃんと「姫」としての貫禄を感じました。ユウラの冬期攻勢の提案も、傭兵団の実戦経験に裏打ちされた具体的な戦略で説得力がありましたね。それにしても、最後の最後でツヴィクルークが四体も…! 和平交渉がようやく成立した直後の展開としては、あまりにもタイミングが悪すぎます。しかも以前遭遇したあの化け物が、なぜ今この場に? 伏線が一気に回収されるのか、それとも新しい局面の始まりなのか、続きが気になって仕方ないです。