〝都市開発 立ち退き〟
出来うる限りの情報をと、この二日間ネットで検索して調べたものの私達にどうやら抗う術がないようだ。
再開発は行政が決めたもので拒否しても強制的に退去させられるとインタビューに書かれていた。
私は、自分の大切な場所すら守る事ができない。
19時からの説明会には健ちゃんと行くことになっている。少し早めに迎えにきた。
健太 『鈴、この前は本当に申し訳・・・』
鈴花 『やめて、もう忘れた・・・お互い酔ってたって事でいいでしょ』
説明会が始まると淡々と原稿を読むだけの、いかにも形だけの説明に出席者からは怒号が飛び交った。
抵抗したところで、退去せざるを得ないのだ。要はいかにいい条件で立ち退くかが争点となる。
私の腹は決まっている。あの場所に居れないのなら私は私ではいられないのだから。
大人の醜い姿はこれ以上見たくない。席を立ち帰ろうとした時、思いがけない人の姿に時が止まった。
司会者『時間も押しておりますので、先に開発にあたり新しい商業施設の設計を依頼しております〝×××建築設計の一条〟 さんより、施設についてのご説明をいただきたいと思います』
鈴花 『翔太・・・』
スーツに身を包んだ彼は、神妙な面持ちで登壇すると新たな街づくりについて雄弁に話し始めた。
私の知らない彼がそこには居た。
鈴花 『そうか・・・最初から住む世界が違いすぎた・・・健ちゃん私帰るね』
翔太 side
鈴ちゃんが俺の顔を見るなり、面食らったような顔を一瞬見せたものの、次の瞬間には口を一文字に結んで席を立ち、長いロングスカートを翻しながら退出するのが見えた。俺にはどうしようもないこの状況は、彼女に説明する権利すらない。彼女に出会う前には既に設計は終わっていた。一概に悪い話とも言えないだろう。新しく商業施設が完成すれば、立退料はもちろん新しいテナントに優先的に入れる。
施設の説明を終えると、鈴ちゃんの家へ向かった。
アトリエの電気が点いていたので覗くと、机に突っ伏している鈴ちゃんがいた。
翔太 『すず?』
反応がない、怒っているのだろう。
翔太 『ごめんね、すずちゃ』
鈴花 『あなたが謝る必要ないでしょ』
冷たい、感情のない言葉が返ってくる。また〝あなた〟俺は名前を呼ぶ価値もない男とでも言いたいのだろう。
翔太 『今日は帰ったほうが良さそうだね。またちゃんと話させて』
鈴花 『・・・どうする事もできないんでしょ?』
翔太 『そうだね・・・』
鈴花 『置いていって・・・鍵』
翔太 『すずちゃん』
鈴花 『無理よ。もう、2度と会いたくない。さようなら』
翔太 『また来るから・・・』
鈴ちゃんは一度も僕の方を見てはくれなかった。一方的に別れを告げられたが到底受け入れられない。