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心狼@_shiro🤍🐺
「叔母は、私が全額返すまで取り立てるでしょうね。そういう人ですから」
「俺が翠々の力になる。任せろ」
「いえ、琉輝さんを巻き込むだなんてそんな……」
「大丈夫」
彼にそう言われたら、本当に全部解決できそうな気がするから不思議だ。
いつだって琉輝さんはやさしさだけでなく元気も分け与えてくれる。私にとってはヒーローだ。
「あ! 私、カフェで支払いを済ませてなかった。戻らなきゃ」
カフェのテーブルの上に伝票が残っていた記憶はある。
どんなに好奇な目で見られようとも、最後に支払いをしなくてはいけなかったのに、私はそのまま出てきてしまった。
ハッと気づいて立ち上がったが、隣にいる彼に腕を引かれて再びストンと椅子の上に落ち着いた。
「あそこはうちの系列のカフェだから。あとで俺が払っとく」
どういう意味なのかと考えていると、私の肩に掛けられた上着の左胸にキラリと光る社章が目に入った。
金属バッヂのデザインは誰もがよく知っているマークだ。
「琉輝さんが働いてる会社って、スターレイルだったんですか?」
スターレイルエアホールディングスは、日本国内と世界各国を就航する日本の航空会社だ。
社名までは詳しく聞いていなかったものの、どうやら彼がアメリカで働いていた会社もスターレイルグループらしい。
「正確に言うと、フライト管理とかオペレーションの実務を担ってるスターレイル・エアポートっていう会社」
「そうなんですね」
琉輝さんは優秀だから、出世して日本に栄転になったのだろうなと容易に想像がついた。
一緒に食事をしようと誘われたが、琉輝さんはまだ仕事が残っているようだったし、私もコーヒーまみれでひどい格好だったので、また次の機会にということになった。
肩に掛けてくれていた上着を返そうとしたら、着て帰ればいいと言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。白いブラウスに広範囲に広がった茶色いシミが隠せるからありがたい。
「送ってやれなくてごめん」
「謝るのは私のほうです。迷惑をかけてしまって……」
琉輝さんがうつむく私の頭をポンポンとやさしく撫でる。私はこの大きな手の平が大好きだ。
ペコリとおじぎをして背を向ける。
歩き出したあとにそっと振り向くと、そこにはまだ彼がいて、笑みをたたえながら軽く手を振ってくれた。
私はちっとも琉輝さんを忘れていなかった。それどころか、出会ってからずっと恋をしたままなのだと思い知った。
一週間後の夕方、仕事を終えた私は再び空港へ向かった。
クリーニングに出していた琉輝さんのスーツの上着とハンカチを返すために。
先ほど琉輝さんには会社に届けるとメッセージを入れたけれど、仕事が忙しいのか既読が付かない。
仕方がないので、私はスターレイルエアのサービスカウンターに立ち寄ることにした。
空港での実務を担っているスターレイル・エアポートという会社だと言っていたから、おそらくここにいるスタッフは彼の同僚だろう。
「あの、すみません」
カウンターで声をかけると、綺麗な営業スマイルを貼り付けた女性スタッフが対応してくれた。
「白川といいます。こちらの会社の鳴宮さんにこれを渡していただきたいのですが」
ペーパーバッグを掲げながら伝える私に、女性は一瞬考え込んだあと再び私に笑みを向けた。
「鳴宮……どちらの部署かわかりますか?」
「え、部署……」
そこまでは聞いていなかったから返答できずに困ってしまう。こんなことなら名刺をもらっておけばよかった。
「えっと……鳴宮琉輝さんなんですけど」
「弊社の社長でしょうか?」
「……は?」
なにを言っているのかわからなくて、女性スタッフの顔を呆然と見つめた。
“琉輝”という名前は珍しいと思って伝えたのだけれど、彼女はなにを勘違いしたのだろう?
「違うと思います。私の言う鳴宮さんはまだ二十代の男性なので、社長さんではないですよ」
「失礼いたしました。しかし鳴宮琉輝という名前の社員はほかには……」
私がカウンターを間違えたのかもしれないと混乱したが、ここはスターレイル・エアポートで間違いないし、彼女が付けている社章は琉輝さんがしていた物と同じだ。
「すまない。もう大丈夫だから」
突然真後ろから声がして、驚いて振り向くと琉輝さんが立っていた。
声をかけられた女性スタッフはホッと安堵した表情を見せ、こちらにていねいにおじぎをしてくれた。
「そういえば、翠々には俺の家のこと、話してなかったよな」
いったいどういうことだろう?
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