「あ、また光った。ねぇ、これってゲリラ雷雨じゃないの?」緊張感の無い声で南川が言う。
「お仕置きも程々にして切り上げないと、レオナたち濡れちゃわない?」
「それもそうだな−−ッ!?」
南川の問いに答えかけた和田が身を強張らせる。
「誰か居るぞ」
和田の一言で、イジメ・グループのメンバー全員と根岸の視線は、和田が指差す方向に注がれた。
街灯の光が、円錐状に闇をくり抜いている。その外側に誰かが立っている。
野球場のナイター照明と違って、街灯は光量が少ないから ‘誰か’ の姿はおぼろげだ。背が高いことと髪が長いことが辛うじて判る程度だ。
「誰だ?」
位置的に ‘誰か’ に一番近い場所にいる増田が、やや上ずった声で謎の人物に問いかけた。
問いかけに応じるように、謎の人物が一歩踏み出す。ジャリッ。靴底が小石を踏み締める。
雷光。空全体が真っ白に輝く。間を置くことなく雷鳴が轟く。
謎の人物が街灯の光の下に現れた。
女だ。
小麦色の肌と背中まである白銀色の髪を持つ、大柄な女性。均整の取れた逞しい体に黒いノースリーブシャツとショートパンツ
を身に着け、白•黒•灰色が斑になった都市迷彩のジャケットを上から羽織っている。
「へ……外人?」
メンバーの一人がポツリと呟く。
根岸のいる方向に歩を進めながら、謎の女性は鈴の鳴るような声で、奇妙な自己紹介をした。
「私の名前はMF36。親しい者たちは、私を36号と呼びます。どうぞ、宜しく」
「へ?何?」
思いもよらぬ謎の女性の発言に、増田が拍子抜けしたような返事をした。
パシンッ。
次の瞬間、鋭い破裂音とともに増田の顔が歪み、彼の上半身が大きく仰け反った。
常人の目には捉えられない程の速度で、36号と名乗る女性が、増田の顔面に裏拳を放ったのだった。
「へぶっ。は、はにゃが……」
派手に出血した鼻を押さえ、増田が背中を丸めて呻く。「にゃ、にゃにしやがるッ」
「い、いきなりなんだよ、この外人。ヤバ過ぎんだろ……」
「増田、離れろ!」
暴力を振るう側から振るわれる側になった途端、一同に恐怖が走った。
閃光と雷鳴が、彼らの頭上で同時に展開する。
おもむろに36号が動き、増田の頭を鷲掴みにする。奇しくもそれは、数分前、和田が根岸に対して行ったのと同じ構図だった。
獲物を飲み込もうとする蛇のように、36号が顔を増田に近づける。
彼女の顔を間近で見て、増田は気付いた。36号の血よりも赤い真紅の虹彩と、蛇のような縦長の瞳孔を。
え、ちょ、マジ? コイツ、人間じゃない?
「貴方が「誰だ」と聞いてきたから、私は名乗ったのですよ」先程と変わらぬ落ち着いた口調で36号が言う。
「でも、何ですか、その失礼な態度は?他人の自己紹介に対して、へ?はないでしょう。へ?は」
増田の頭を掴む36号の指に力が加わる。怒った猫のように、彼女の瞳孔が広がる。まるで頭の上にセメント袋を一気に何袋か置かれたような圧迫感を、増田は感じた。
増田以外の