テラーノベル
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大怪獣が東京に出現した。
都合よく立川基地と有明基地それぞれの管轄内にまたがるように。
第3が先に本獣と相対し、それに合流する形で第1がトドメを刺した。
戦闘終了直後の混沌で、
保科の回線は第1部隊のとある人物とつながっていた。
オペレーター以外が繋いでくることなんてまずない。
たまたまなぜかつながったのか、向こうが故意につなげたのか。
「…何ですか、鳴海隊長」
今忙しいねんとの怒りを静かに声に乗せる保科。
ノイズが走る通信の向こう、無愛想で気怠げな男の声。
「は??お前…保科か!?チッ繋ぐ回線間違えた」
「こっちからただただ迷惑なんですけど」
ただでさえカオスな惨状なのに。
「なぁ。そっちは風、吹いてるか」
「吹いてますね。何の質問です?」
「こっちも吹いてる」
「え何の話??」
どうでもいい確認だとは思いつつも。
本獣を倒した後息もつかせず、四宮キコルに張り合うように余獣の掃討に向かった鳴海。
本獣撃破後、その場から少し離れてしまった保科の位置は特定出来なかったらしい。
「今どこにいるんだ」
「それが分からんのですよね」
「何だよ分からんって」
「ちょうど電波悪くて…」
「いやは?どゆこと?」
「嘘です」
「嘘かよ」
鳴海は、何を言ってものらりくらりの保科に苛立ったように声のトーンをあげる。
「で?今どこ」
「お手数ですけど第3のオペレータールームから僕のスーツのGPS辿ってもろて笑」
「めんどくせえな」
「言うと思いました」
「何か目印になるものでも見えないのかよ」
「いえ、何も見えません」
「何も?」
「はい」
「何かしらあんだろ」
「見えないんですって」
「???」
「鳴海隊長は今どこに…す……か?」
保科の飄々としてどこか実体のない声は、急にノイズにかき消されて酷く回線が荒れた。
「あのさ」
「はい」
「ボクは失敗したんだ」
「…はい?」
あのプライドの高い、もはやプライドの塊の鳴海が自分のミスを認めた。
さすがの保科も思考停止を食らう。
「やらかした。どう考えても9割ボクのミスだ」
「何を?」
「今回の怪獣は強かったか?」
「え…えー、いや」
「ボクとお前なら瞬殺できるくらいの雑魚だったよな」
「…あ、はい」
「でもな…一個だけ、どうしても読みきれなかったんだよ。明暦の大怪獣の攻撃さえ見切れたこのボク様でも、それだけは見きれなかった」
「そんな攻撃ありましたっけ」
「あった。ボクはちゃんと刃で受けたからクリティカルはもらわなかったけど」
「…いや見切れとるやないですか…」
「違う…っ!ボクが見切れなかったのは」
――折れた刃の軌道だよ!!
「な、保科」
鳴海は片手にゲーム機を持って保科を見下ろしていた。
画面が砕けて、血のこびりついた傷だらけのゲーム機。
初めてやるはずの保科がハイスコアを叩き出したゲーム機。
ムカつくから保科に預けてたゲーム機。
「言ったよな、お前ごと斬る気でやんぞって」
保科は、避けれるんで良いですよって笑って言った。
「ほんとに、斬られるとは思わなかったんだろ」
攻撃を真っ向から受けて折れた鳴海の銃剣の刃は、真上に飛んだ。
「お前だけなら避けれたんだろ?」
すぐ後ろには、運悪くお前がいた。
余裕で避けられる距離。
だけど。
折れた刃に気を取られていた鳴海に本獣の攻撃が迫っていた。
「お前さぁ、ボクの方が強いんだから…さ…守らなくても良かったのに」
本獣の攻撃も捌いて、真上から迫る刃も凌ぐなんて不可能だから。
保科は迷わず鳴海を押し倒した。
保科に致命傷を与えたのは、他ならぬ鳴海の武器の破片で。
それなのにあいつはいつの間にか戦線をさらりと離脱して、どこかへ行っていた。
今、ボクの目の前でこいつは。
胸を深々と貫く刃によって、目の前でその火は吹き消された。
人を守るための武器が、人の命を奪った。
「何で庇ったんだよ…ボクが受ければ良かったのに…っ」
壊れかけのゲーム機がバグを起こし、勝手に電源が入る。
保科が塗り替えたハイスコア。
何で戦場に持って来ていたのかは知らないが、保科にとってこれは。
「大切…だったのか?」
今のボクにとっては呪いの数字でも、あいつにとっては楽しかった思い出だったっていうのか。
「やっぱ、ボクのミスだ」
自分のせいで死んだこいつの声を勝手にインカム越しに想像して。
「大失敗だよ、保科。ボクはあの時、お前が死ぬ未来しか見えなかった」
保科が助かる未来を、ボクは作れなかったんだよ。
「お前一人死なせる未来しか見えなかったボクの負けだ…」
遠くから、複数の足音が聞こえた。
自分を、あるいは保科を探す一般隊員の声。
鳴海は涙を手で荒っぽく拭った。
一瞬で、いつもの冷徹で、傲慢で、不敵な「日本最強の鳴海弦」の仮面を被りなおす。
泣いてちゃいけない。
自分が絶望したら、隊員が士気を失う。
必死に取り繕って生きる鳴海を少なからず理解していた保科は、少し寂しそうな顔で鳴海を眺めていた。
『僕が重荷になってしもたんやね。すまんなぁ』
届くわけないのに保科は笑う。
もう動かない自分の体を、自分の死をしっかり見つめて、それでも笑うのだ。
背負う必要の全く無い保科の死亡を背負って歩いていく最強は、一瞬後ろを振り返った。
振り返ったらそこにはいつでもどこか儚げに、強く笑うあいつがいるんだ。
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