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―それから1週間後―
他人のものと偽って自分の連絡先を銀次郎に教えた桜子。
あれから銀次郎からいつ連絡が来るか…と気が気ではなかった。
何の計画性も無い行き当たりばったりな自分に呆れてしまう。
銀次郎から連絡がきたら、声で私だという事がバレてしまうではないか…。
どうやって正体を隠そうかその方法をずっと模索していた。
…………。
「あ…!そうや!あれがあった!」
考えあぐねた末に、とっておきのものがあるのを思い出した桜子はある物を探すためクローゼットの中を捜索し始めた。
「確かこの辺にしまってあるはず。
…………あった!」
クローゼットの奥から見つけ出したのは防犯用に購入しておいたボイスチェンジャー。
水商売という職業柄、突然訪問してくる人間にはどうしても警戒心が強くなってしまう。
そしてセールスも相手が男性だとわかると早めに諦めてくれると思い購入したもの。
が、持ち前の負けん気の強さもあり、そんなものを使わずとも相手をあしらえる事に気付いた桜子はそのボイスチェンジャーをクローゼットの奥にしまい込んでいた。
「まさかこんな事に役立つとは…。ほんまに備えあれば憂いなしやわ。」
言葉の使い方を間違っているかもしれないが、とりあえずの解決策を見つけ出した桜子はホッとしていた。
どうしてこんなに萬田くんに惹かれてしまうのか自分でも分からない。
逃げられると追いかけたくなってしまう、自分のものになってくれないと分かっている相手を好きになってしまうのが自分の性分なのか?
萬田くんに会うと私の中の理性はだんだんと壊れていく…。
その日の夕方。
ドレッサーの前でいつものように出勤の準備をする桜子。
ブー、 ブー…。
「は…!」
*けたたましく震え出したスマホに*ビクっと肩に力が入った。
着信画面には知らない電話番号が表示されている。
「これは恐らく…。」
その着信の相手の予想が着いた桜子は自分だとバレないようにどう対応しようか頭をフル回転させていた。
急いで用意しておいたボイスチェンジャーに口を近づける…
「うゔん!よし…いつもよりちょっと低めの声で……。」
「はい、もしもし。」
「…クラブ・トリスタナのママからご紹介いただいた、萬田金融の萬田銀次郎と申します。」
「あー!萬田さんですか!連絡お待ちしておりました!ママから萬田さんのお話は聞いております。忙しいところわざわざ電話いただいてほんまありがとうございます。」
「いえ、こっちの事はおかまいなく。銭、融通して欲しい言うお話でしたな? 」
「そうなんですわ。ちょっと急な入り用がありましてなぁ…お金貸してくれるとこ探してまして…。」
「そうでっか。ほな、いっぺん直接話聞きにいかせてもらいます。急な話やけど明日はどないですか?」
「ほんまですか!ありがとうございますぅ。明日やったら何時でも大丈夫やから、萬田さんの好きな時間においで下さい。」
「そしたら明日19時にママから教えてもろた住所に行かせてもらいます。場所がまずかったらうちの事務所に直接来てもらってもええでっせ。」
「ちょっとお手間取らせますけど、直接うちの方に来てもろてもええですか?」
「分かりました。ほな明日19時に。」
「はい!よろしゅうに。明日お待ちしております!」
「ほな…。」
ガチャッ……プープー…。
「………はぁ、やり切った…。」
電話を 切った桜子はそれまでの緊張の糸が切れ、全身の力が一気に抜けた。
全神経をこの電話にどう対応するかという事に集中していたためか、一気に疲労感が襲ってきてそのままベッドへ崩れるように倒れ込んだ。
「ああ”ー、めちゃくちゃ疲れた…。バレてなかった?よね? 」
銀次郎の返答の仕方や声色などを聞く限りこちらを怪しんだりしている様子は無かったように思う。
「もし私やってバレてたとしたら、萬田くんやったら直接そうやって言うやろうし…。っていいうか、今更ながら私は一体何をしてるんやろ…。 」
桜子は自分はどうしても銀次郎の事でこんなにも駆り立てられているのか、しかも嘘をついて自分の家に誘い込んだ事が分かれば銀次郎に嫌われてしまう可能性も大いにある。 何故そんなハイリスクなやり方で銀次郎を家に誘ってしまったのか…。
今更後悔が襲ってきた。
でも…今回の事が原因で嫌われるならその方が自分としては諦めがつくかもしれない。むしろ一層の事嫌われてしまった方が楽かもしれないとさえ思えてきた。
泣いても笑っても今回が最後…
桜子は覚悟を決めた。