僕は生まれつきから耳が聞こえない。
いわゆる先天性難聴ってやつだ。
ほぼ音は聞こえない重度の難聴で、私生活に支障が出てくる。
まず声を掛けられても返事ができないから体を触っていつも呼びかけてくること。
でも何気に友達と仲良く生活をしている。
名前はさえって言うらしい。
さえも耳が聞こえない人で手話で楽しく会話ができる唯一の友達だ。
親は手話ができるけど耳は聞こえてる。
さえと僕はどこか似ていた。
難聴ってところが似ているっていうことでは無い。その他の何が共鳴してるかのように思える。
さえとの付き合いはもう長く幼なじみで現在みんなで言うと小学6年生。
来年からは中学生になるのだが、
僕らは普通の学校には行っておらず、特別支援学校に通っている。
そんな家で過ごしていたある日、お父さんは仕事でまだ家には居らず、お母さんと僕と、弟が家に居た。
弟はまだ2歳で物心があまり付いていないので、兄である僕に少し気が大きい。
耳が僕だけ聞こえないから。
弟は耳が聞こえているらしい。
羨ましいよりも安心だった。
僕みたいな人生を歩んでは欲しくないし、何より親にまた迷惑を掛けてしまうことになってしまうからだ。
僕はあまり迷惑がかからないようにしっかりとして日常を過ごしている。
お母さんが少し家から離れた時家庭は崩れ去った。
弟がなにやら僕の方を見てくる。
なんだろうと思って辺りを見回してみたところ、
僕の後ろで火が燃え広がっていた。
焦げ臭いなとは思っていたけれど、こんな自体になるとは思っていなかった。
発生源はキッチンのコンロの火だった。
何故発火したのかは分からない、けど消化器を持ってきて火を消そうとした。
けれども消化器の使い方が分からない。
焦って説明書を読む暇もなかった。
あっという間に火はどんどん燃え広がってきて家は火に飲み込まれそうになった。
電話で消防車を呼ぼうとした。けれど、耳が聞こえないから言葉を発することができない。
僕は言葉の発音を知らないのだ。
お母さんを連れてこないと…
そう思った僕は
外を目指して走り抜いた。
ドアを開けて
「あああうえあいああ!! 」
周りの人達からは訳の分からない言葉かもしれない。けれど、これは僕の精一杯の話せる言葉だった。
あぁ、耳が聞こえないせいで…
そうするとお母さんが駆け寄ってきた。
急いで手話で事態を伝えて、
お母さんは家の中にダイブするかのように突っ込んだ。
一段落ついてほっとしているとハッと思い出した。【弟はまだ家の中だ…】
急いで家の中に入った僕は弟を探し回った。
お母さんが「何をしてるの!外で待ってなさい!」と伝えてきたが、
「弟がまだ家にいる!」と伝えた。
お母さんはギョッとした顔で火を消すことよりも弟を探すことに夢中になった。
「真尋は外で待ってなさい」とお母さんが伝えたきた。
信じてると誓って外でお母さんを待った。
外に出た瞬間、お父さんが帰ってきた。
「何があった!?」と伝えてきた。
「火事」と単刀直入に伝えた。
お父さんも家の中に入っていった。
僕はとても辛かった。
何も出来ない無力さに、ただただ見ているだけなんてとても嫌でしか無かった。
でも、中に入る勇気はもう、なかった。
お父さんが入ってから約10秒後。
家が崩落した。
その瞬間呆然と立ち尽くした。
目に映る光景は燃え盛る炎、立ち上げる煙。
何分後かに消防車が到着した。
近隣住民が焦げ臭いで通報したそうだ。
「 」
消防士の人が何か言ってる。でも何も聞こえない..何も分からない….どうしたらいいの…?
諦めた様子で消防士は火に立ち向かい、炎の中へと入っていった。
出てきた頃には黒く原型をとどめてないような人型を肩に背負って連れてきた。
はぁはぁと息遣いが段々と荒くなってきた。
現実とは思えない。
これが現実…?
これは夢?
なにがどうなってるの?
どうしてこうなったの…?
どうして…?
涙と共に不思議がっていた。
次々と連れてこられる黒い人。
お母さんのような中くらいの背の人。
お父さんのような大きい背の人。
弟のような…小さな…背の子…
鎮火した後、病院に運ばれ、息を引き取り、僕だけがここに残された。
今来るべきではない雨が降り続けた。
音が聞こえないはずなのに
音が聞こえるような感じがする。
第二感覚 【聴】〜完〜
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