雨が降る音が、あの夜の鼓動と重なる。
冷たい雫が頬を伝うたびに、処刑台の下で見上げた空が蘇る。
――彼女の声も。
「石はどこ?」
震えた唇、フランス訛りの愛しい響き。
その言葉が、いまも私の中で消えない。
頭の中でワルツの旋律が流れるたび、胸の奥が疼く。
指先が勝手に動いてしまうの。
誰もいない部屋で、私は一人で踊る。
けれど、心の中ではあの少女――
エレノオールが、確かに手を取ってくれている気がする。
月明かりの下、雨が止んだ夜。
最後に見た彼女の瞳は、恐れではなく安らぎを湛えていた。
あの時、私たちはきっと約束したの。
「次の世界で、もう一度出会おう」と。
だから、雨が降ると胸がざわめくの。
ワルツを聴くと、涙が出そうになるの。
きっと私は、まだあの夜を生きている――
“彼女を置いてきた”私のままで。
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