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鷹槻れん

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#極道
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盗み聞きなんて愚行を誤魔化すためにバカなことを言ってしまったせいで、同棲(同居?)初日から京介と同じ部屋で眠ることになってしまった芽生は、京介に半ば無理矢理押し込まれた布団の中、息を吸い込むたびに大好きな京介の残り香を感じてしまって、絶対に眠れない! と思っていた。
「……え?」
なのに、なんてことはない。いつの間にかちゃっかり眠り込んでしまっていたらしい。
まぁ、昨日一気に色んなことが起こったことを思えば、仕方ないのかも知れないが、ひとつだけ看過できない問題があった。
(キャーッ! 私のバカ! なんで京ちゃんの方へ寄っちゃってるの!)
京介は、確かに昨夜ベッドを半分に仕切った右半分と左半分で、片側を芽生、もう片側を自分の割り当てだと宣言して決して領域侵犯はしないから安心して寝ろと約束してくれた。
だが目覚めてみると、芽生のほうが思いっ切り京介の陣地を侵していた。
何なら京介側で目覚めたといっても過言ではない。
でも、そこにいるはずの京介の姿はどこにもなくて――。
(私がベッド占拠しちゃったから、ひょっとして京ちゃん眠れてないんじゃ……っ!?)
そのことに思い至った芽生はガバッと起き上がってキョロキョロと部屋の中を見回した。
「おぅ、子ヤギ、起きたか」
と、部屋の向こうのほう。昨夜京介が千崎と電話をしていた時にいた窓辺の辺りから声がして、芽生は慌てて京介のそばへ駆け寄った。
「ごめんなさい! 京ちゃん。私がベッド取っちゃったから……もしかして眠れなかった!?」
申し訳なさに眉根を寄せれば「バーカ。俺も今さっき起きたトコだから変な気ぃ回すな」と寝癖のついた髪の毛をぐしぐしされて、さらに乱されてしまう。
「俺がいなくなってからお前、俺の側に転がったんだよ」
「でも……」
眠っている間の記憶がないのだからそう言われてしまえば信じるしかないのかも知れない。だけど、何となくそうじゃない気がして。
(だって……なんだか手に……)
ソワソワと京介を見上げたら、「まぁ確かにお前がベッドん中でコロコロコロコロよく転がり回るから何度も起こされちまったが……寝られてねぇわけじゃねぇから心配すんな」とクスクス笑われてしまう。
幼な子じゃないのだから、いくら何でもそんなに動き回るはずはないと思いたい。現に今まで家ではシングルサイズの寝具で寝ていたけれど、そこからはみ出して目覚めたことなんて一度もないのだ。
京介の意地悪そうな笑顔でそれを見抜いた芽生が「京ちゃんの嘘つきっ」と彼の胸元をポスポス叩いたら、ギューッと鼻先を摘まれてしまった。
「痛い」
「――けど、まぁ、年頃の娘が男にしがみついて寝るのは感心しねぇなぁ?」
そのままデコピンをされて、京介からはぁーと大きく吐息を落とされた芽生は、記憶の片隅――何となく温かな抱き枕に取り縋って眠っていた感触が腕に残っている気がして、ブワッと頬を赤らめた。
さっき、京介の言葉を手放しに信じられなかったのも、身体が京介の温もりを覚えている気がしたからだ。
「あ、あの……京ちゃん。……それ、本当?」
「さぁ、どっちだろうな?」
ククッと笑う京介のせいで、結局どこまでが嘘でどこからが真実なのか、芽生には分からなかった。
***
「朝ご飯は私がっ」
何とか名誉挽回しようと意気込んでキッチンに立ってみた芽生だったのだけれど、冷蔵庫を開けてがっかりした。
「京ちゃん、この冷蔵庫の中、飲み物しか入ってない!」
結構大きな冷蔵庫なのに、京介に許可を取ってカパッと扉を開けてみたら、清々しいくらい食べられそうなものが入っていなかった。
ずらりと並んでいるのはビールばかり。
それから昨日夕飯の時、芽生が飲ませてもらったと思しき飲み掛けの麦茶のペットボトルが一本。
水はウォーターサーバーが台所と、寝室にあるからそれで間に合わせているんだろう。入っていなかった。
「いつもご飯とかどうしてるの?」
出鼻をくじかれた芽生が、あくびを噛み殺しながらコーヒーメーカーをセットし始めた京介へ恨みがましく問い掛ければ、「朝は食わねぇな」とか。ついでに昼や夜は基本外食で済ませるという。
「不健康だし不経済だよぅ!」
朝は一日の基本だから食べないのは良くないし、昼と夜の外食にしたって、京介のことだからきっと安くはない出費を重ねているに違いない。
そう思いながらブーブー言い始めた芽生を、「どうした? 今朝はやけに機嫌悪ぃーな? あー、ひょっとして腹減ってるからか?」と犬でも可愛がるみたいに髪の毛をぐしゃぐしゃと掻き回してから、「ヨシヨシ。すぐに手配してやるからな」と言って、京介が電話を掛け始める。
「石矢か? 悪ぃーけど迎えついでに牛乳と……」
そこまで言って、「何か食いたいもんのリクエストあるか?」と芽生の顔を覗き込んできた。
「卵とハムと食パンとお米! あとお肉とか野菜とか……そういうのも沢山買いたい!」
「いや、子ヤギ。そりゃ材料だろ。俺が言ってんのはすぐ食えるモンの話だぞ?」
「卵もハムも食パンも、焼くだけですぐ食べられるもん! キュウリとかミニトマトとかレタスとか添えたら、それなりの朝食になるよ!? カップスープも買ってきたら完璧かも知んない!」
芽生はそこに関しては譲る気なんてないのだと鼻息を荒くした。
「もちろん京ちゃんも食べるのよ!? 石矢さんも朝ご飯まだなら一緒に食べたらいいし!」
「は? だから俺は朝は……」
「朝食抜きは許しません!」
芽生の勢いに押されて、京介は思わず「お……おぅ」と返事をしてしまっていた。
そんなわけで、石矢はコンビニで卵やパンやハム、生野菜などを買って、京介のマンション下まで二人を迎えに来ることになったのだった。
***
結局石矢も交えて三人で食卓を囲んだ後、京介から「今日はお前に必要なモン、買いに行くぞ」と言われた芽生は、石矢の運転でデパートまで連れてこられた。
「京ちゃん今日お仕事は?」
自分は火事で焼け出された直後と言うこともあって、しばらくは仕事を休むことにしているけれど、京介は違う。
昨夜千崎に渋い顔をされたのを思い出しながら尋ねたら、買い物後にちゃんと行くという答えが返ってきた。京介の仕事はある意味自営業みたいなものなので、時間的な縛りはないのだと説明されれば、裏稼業事情に疎い芽生は納得するしかない。
日頃はウインドウショッピングしかしないようなお店で、ブランド品の服やら高級コスメブランドの化粧品などを買いそろえられながら、芽生は思ったのだ。
(全部デパートで買うとか高すぎるよぅ!)
と。
いつもならメイクグッズはドラッグストアなどでプチプラのモノを買っているし、服だってファストファッションを扱っている『ウニクロ』とか『ファッションセンターしまむた』なんかで買うようにしている。
京介に連れられて入った店は、ブラウス一着で、芽生がいつも買っている服なら上から下まで二セットずつはそろえられそうな値段だったから、店員に試着を勧められるたびタグを見ては心臓がバクバクしてしまった。
それを懸命に訴えた芽生だったのだけれど、京介の言い分ではあちこちウロウロする方が面倒だし時間の無駄らしい。要するにタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスを天秤にかけた結果、タイパが重視されたということだ。
高すぎる買い物に戸惑いは隠せなかったけれど、京介のみならず石矢にも仕事の時間を削って買い物に付き合ってもらっているという負い目がある芽生は、それ以上言い募れなかった。
***
「じゃあ芽生、俺は仕事に行ってくるが……俺の留守中は絶対家から出ねぇようにすんだぞ?」
デパートから帰ってきて大量の荷物をリビングへ置くなり京介の携帯が鳴って、千崎が下で待っていると連絡が入る。
車で待機している石矢からの電話に、京介が高級そうな腕時計に視線を落としながら、芽生にそんなことを言ってきた。
「えっ?」
京介がいない間に一人で近所のスーパーへ出向いて、もう少し食材を買い足そう……とか考えていた芽生は、京介からの言葉にキョトンとしてしまう。
「京ちゃん、私、お買い物に行こうと思ってたんだけど」
ちらちらと冷蔵庫を気にしながら言ったら、京介がすかさず「バカだな、芽生。お前、この家の鍵、持ってねぇだろーが」とエレベーターを動かしたりするために使用していたカードキーを見せられる。
今手配中だというここのスペアキーが出来るまでは、勝手に外へ出たら部屋に戻れなくなってしまうらしい。こういう高級マンションのことはよく分からない芽生だったけれど、確かに京介と一緒に何度かここを出入りしてみた感じから、キーがないと玄関扉を開けられないのはもちろんのこと、エレベーターでこの階に降り立つことすら出来ないなと今さらのように気が付いた。
今まで住んでいたおんぼろな平屋とは全く違うセキュリティ具合に、芽生はグッと言葉に詰まってしまう。
「ねぇ京ちゃん、鍵はどのくらいで出来るの?」
「あー……、さてな。詳しく聞いてねぇから分かんねぇけど……多分結構日数掛かんじゃね?」
今、京介が、〝何かを隠して言いよどんだ〟ように見えたのは、芽生の気のせいだろうか?
「京ちゃん?」
なんとなく違和感を覚えて芽生が京介をじっと見詰めたら、京介は決まり悪そうにそんな芽生から視線をふっと逸らせると「まぁー、その話はあとだ。時間ねぇからもう行くな? ほら。千崎のヤローはあんま待たせっとネチネチうるせぇからな」とか。
京介は絶対に自分に何かを隠していると確信した芽生だったけれど、きっと今は何を聞いてもはぐらかされてしまうと思って「行ってらっしゃい。気を付けてね」と見送るに留めておく。
モヤモヤとしたものはありつつも、玄関先で大好きな人を送り出すことが出来るとか、新婚さんみたい! と思ったら、少しだけ気持ちが晴れた。
笑顔で手を振る芽生に、京介は玄関を出る間際、もう一度だけ「いいな? 絶対外出禁止だからな? あと、誰が来ても居留守使え。勝手に応対するなよ? 分かったな?」と念押ししてきて。芽生は(京ちゃんってば心配性ね)と思いながらも、「はーい」と返事をしておいた。
京介が過保護なのは、なにも今に始まったことではない。
芽生としては、そんな軽い気持ちだったのだ。その気の緩みがあんな結果を産むだなんてこと、その時の芽生は思いもしなかったのだから仕方がない。
***
買い出しには行けなくなった芽生だったけれど、リビングにどっさり積み上げられた有名なアパレルブランドの袋や、高級コスメブランドの包みの山を見て、はぁーっと溜め息を落とさずにはいられなかった。
とりあえずあれを仕舞うだけでも結構時間を食いそうで、もしかしたら京介に外出禁止令を出されなくても、買い物に行くのは難しかったかも知れない。
買ってもらったばかりの品々を少しずつ自室に持ち込んでは袋から取り出してタグなどを切り離して整理していた芽生は、全てのタグから金額の部分だけ綺麗に切り取られていることに気が付いた。
ショップでは確かにここへ価格が表示されていたはずなのに、そういうところが全て綺麗になくなっていて――。それはコスメに関しても同じで、価格部分のシールが剥がされていたり別のシールで隠されていたりするその徹底ぶりに、京介の〝女性慣れ〟を垣間見てしまった気がした芽生は、なんだかモヤモヤしてしまう。
(京ちゃんのバカ……)
今日買ってもらったものは、全て京介から「見舞いみたいなもんだ」と言われている。家を焼け出されたんだから甘えておけ、と言うことらしいのだが、もしかしたら京介が芽生に支払えそうにない高価格帯の店ばかりを選んで買い物したのは、プレゼント向けとして買ったものを「あとでちゃんとお金返すね」と芽生に言わせないためだったのかも知れない。
昔から京介にはそういうスマートな気遣いの出来るところがあって、芽生にとってはそこが京介を大人の男性に見せてくれて、尚のこと恋情を募らせる要因になっていたのだけれど、それは裏を返せば女性慣れしているとも取れるのだと気が付いた。
芽生が鬱々とした気持ちのまま荷物整理をしていたら、不意に来訪者を知らせるチャイムが鳴った。
京介には居留守を決め込めと言われていたけれど、何となく反抗心が芽生えてインターフォンに応答してしまった芽生である。
芽生が【通話】ボタンを押すなりパッと明るくなった画面に、一人の男が映し出された。
コメント
1件
鷹槻れんさん、第7話読了です! 朝のベッドでのやりとり、もう甘すぎて胸がきゅんきゅんしました…! 芽生が無意識に京介の温もりを求めて転がっていくの、可愛すぎますよ。それでいて外出禁止令とか、鍵がないとか、何か裏がありそうでモヤモヤも残る。千崎さんの渋い顔といい、京介の"隠し事"の正体が気になって仕方ないです。 最後のインターフォンに応答しちゃう芽生の反抗心、わかる気がするけどドキドキしますね…! 次が待ち遠しいです!