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鷹槻れん

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#極道
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うわ、今の流れ、めっちゃ怖かった……! 芽生ちゃん、京介さんに「絶対外に出ちゃダメ」って言われてたのに、怪我の知らせでつい飛び出しちゃうところ、すごく彼女らしくて切なかった。 しかも三井って人の“年長者の言うことを聞かないからだ”って台詞、めちゃくちゃ嫌な感じで効いてる。 でも千崎や石矢と似た雰囲気を感じて一瞬ホッとする芽生ちゃんの心理描写、すごくリアルで引き込まれた。 伏線っぽい“番”の話とか、千崎家の“劇薬”って比喩も気になる……この世界の仕組み、もっと知りたい。 続き、どうなるんだろう。
「はい」
芽生はこういう高級マンションには不慣れで、応答はしてみたものの何をどう操作したらいいのかさっぱり分からなくて……すぐに不用意にチャイムへ反応してしまった自分を悔やんだ。
「すんません。自分、木田って言うんっすけど組長が出先で怪我をしまして……上から貴女のことを迎えに行くように言われまして」
「えっ!?」
京介が怪我をしたと言われて、芽生はにわかに慌ててしまう。
「あのっ、京ちゃんはっ」
モニターに映っている顔は、千崎でも石矢でもない、見たことのない男だった。というより、目深に帽子を被っているせいで、ほとんど顔が見えない。
だが、京介から石矢以外にも事務所に住まわせている〝部屋住み〟という若手の男の子たちが何人かいると聞いたことがある芽生は、その中の一人かな? と思った。
「すんません。俺にも詳しいことは分かんないんっす。とりあえず一緒に来てもらえたら分かりますんで……下まで降りてきてもらえますか?」
言われて、彼に指示を出したのは千崎さんだろうか? と思った芽生は、テンパる余り、京介に部屋を出たら自力で中へ戻るのは無理だぞ、と言われていたことも忘れて、「はい、分かりましたっ。すぐ降ります!」と答えてしまっていた。
***
芽生がいそいそと下へ降りると、コンシェルジュが「行ってらっしゃいませ」と声を掛けてくれる。
そんな彼女に小走りのまま立ち止まらずにペコッと頭を下げて通り過ぎると、芽生は木田に指示されたエントランスまで急いだ。
中へ入るのは色々とセキュリティが働いて大変なマンションだけれど、出るのにはそれほど手間が掛からないらしい。エレベーターだってカードキーなしに動いてくれたし、芽生がエントランスにある自動ドアのところへ立つと、すんなりと一つ目のドアが開いた。この扉は、確か外から入ってくる時にはすぐそこに見えるタッチパネルへカードキーを翳すなりなんなりしなければ開かなかったはずだ。
その扉が難なく開いたことにホッと胸を撫で下ろした芽生は、もうひとつある自動ドアの先、マンション外へ立つ男の元へ小走りに駆け寄った。
「す、みませんっ、お、待たせ……しましたっ」
急ぐあまり息を切らしながら近付いた芽生に、いつも石矢がしているみたいにエントランス前の車寄せに停めていた車を指し示しながら、木田が「乗って下さい」と後部ドアを開けてくれる。
それはいつも京介が石矢に運転させている高級セダンとは似ても似つかないワンボックスカーだったけれど、京介の組では何台かの車を所有していて、用途によって使い分けていると言っていた。きっとそのうちの一台なんだろうと思った芽生は、何の疑いも持たずにその車に乗り込んだのだった。
***
「シートベルトしてくださいね」
いつも京介と並んで後部シートへ座る時にも、京介から同じように言われている芽生は、素直にその言葉に従った。
シートベルトが装着されるカチャッという音を確認するなり、すぐさまマンションの敷地を出て車が走り出す。次々に流れていく街並みを眺めながら、芽生は(どこに向かっているんだろう?)と思う。
「あの、京ちゃんはどこの病院に……」
問い掛けたけれど返事はなくて、(聞こえなかったのかな?)とか(運転に集中していらっしゃるのかな?)とか(京ちゃんたちの世界では、運転中の運転手さんは存在を消さなきゃいけないんだったっけ?)とか京介とのドライブで学んだアレコレを織り交ぜながら、芽生は色々考えた。
この辺りだと、救急で運ばれる病院はあの総合病院とあそこの大きな病院かな? とか頭の中でこねくり回してみるものの、芽生は車を運転しないのでルートがよく分からない。
そんなわけで車が走り出して十分くらい、芽生は大人しくシートに収まって窓外を流れていく街並みに視線を向けていたのだけれど――。
(あれ? この辺って繁華街じゃない?)
芽生には余り縁のない、飲み屋やバーなどが立ち並ぶ、いわゆる夜に活気づく一画へ車が入ったのに気が付いて、芽生の頭の中は疑問符で一杯になる。
「あの……この辺って病院ありましたっけ?」
芽生が知らないだけで、京ちゃんの組御用達の個人病院なんかがあるのかも知れない。
そう思って問い掛けた芽生だったのだが、ミラー越しに確かに目が合っているはずなのに、木田は何も答えてくれない。そのことに、芽生は段々不安になってきた。
「木田さん?」
ソワソワと運転席に座る彼の名を呼んだ丁度その時、ちょっぴり古めかしい雰囲気の雑居ビル前で車が停まった。
(ひょっとしてこのビルの中に病院がテナントとして入っているの?)
などと思った芽生だったけれど、どう見てもそんな雰囲気ではなさそうだ。
「あの……京ちゃんは……」
芽生が眉根を寄せて再度運転席へ向けて口を開いたのと同時、自分が座っている側のスライドドアが外から開けられてビクッと身体が跳ねる。
運転席に座る木田にばかり気を取られていて、車外に人が寄ってきていたのに気付けなかったからだ。
「降りろ」
「ヤッ」
ぶっきら棒に言うなり、ヌッと伸びてきた木田と同年代くらいの男の手から思わず逃げるようにシート上を逆サイドへ移動しようとした芽生だったのだけれど、シートベルトのせいで思うように動けなくてすぐさま捕まってしまう。
「イ……――」
イヤぁーっ! と叫びたかったのに、悲鳴を上げようとした口をグッと大きな手で塞がれて、声を封じられてしまう。
おまけにもう一方の手でがっしりと抱え込まれて動きを封じられた芽生は、恐怖で身体がすくんで思わず涙がポロリとこぼれ落ちた。
「佐山、手荒な真似はするなって上から言われてるだろ」
泣きながらくぐもった声を上げる芽生を捕まえた男――佐山――の背後から、木田や佐山より二十ばかり年嵩の男が来てそんなことを言う。
「けどアニキ、こいつがいきなり叫ぼうとしやがるから」
「こいつじゃない、神田芽生さんだ」
芽生のフルネームをサラリと告げたその男に、芽生はビクッと身体を震わせた。
「それに……彼女が叫ぼうとしたのだって、お前が怖がらせたからだろぉーが」
声こそ穏やかだが、どこか有無を言わせぬ威圧感に気圧されたように佐山がしゅんとした。
「すみません、アニキ」
それでも芽生を捕らえる腕も、押さえたままの口元も緩めてくれる気はないらしい。
芽生は自分がどうされるのか分からなくて、とりあえずこの中で一番力を持っていそうな目の前の男を、涙で潤んだ瞳でじっと見詰めた。
「申し遅れました。わたくし、三井と申します。悪いようにはしません。ので、大人しくついて来て頂けますか?」
芽生の視線を真っ向から受け止めた三井と名乗った男が、恭しく芽生に手を差し出してくる。
スーツをきちっと着こなした三井は、千崎の雰囲気にどことなく似ている気がした。
石矢もそうだけれど、年若い子たちは割とラフな格好をしている。だが、そこそこに役職を持っていると思しき人たちは身なりや立ち居振る舞いが一般的なサラリーマンより洗練されているというイメージを、芽生は何となくの肌感覚で持っていた。
京介だって言葉遣いこそ荒っぽいが、行動自体は紳士的だし、着ているものも抜群にセンスがよくて、いいものを身につけている。
そう思った芽生は、背後の男に押さえつけられたままよりも、三井の言うことに従った方が幾分マシだと判断した。
口を塞がれたままだったので瞬きで同意の意志表示をすると、三井が佐山に目配せをして芽生の拘束を解かせる。
急に自由になった身体を持て余して芽生がヨロリとよろけたら、三井がさり気なく抱き留めてくれた。
この感じも何となく京介や千崎を彷彿とさせられて、芽生はこんな状況だというのに少しだけホッとしてしまった。
***
「それにしてもイケナイお嬢さんですね」
芽生の手を引いて歩きながら、三井が苦笑する。
「――?」
彼の発した言葉の意味が分からなくて、芽生がすぐ横を歩く三井を見上げたら、三井が建物横にある鉄扉そばへ取り付けられたインターフォンを押しながら吐息を落とした。
インターフォンとは別に壁の際へは防犯カメラと思しきものもあって、それがあからさまに芽生たちへ向けて動くのが見えた。それと同時、『はい』という応答があって、防犯カメラの映像と一緒にインターフォンへ取り付けられたカメラの画像も確認したのだろう。『お帰りなさい、アニキ。お入りください』という言葉とともにガチャッとドアの方から開錠音が響いた。
「家から出てはいけないって言われなかったんですか?」
重そうな鉄扉を押し開けながら芽生を先に中へ入れると、すぐ背後から三井の声が降り注いでくる。
扉を抜けた先は一直線に階段が続いていて、芽生は背後から促されるままにステップへ足を掛けた。
「あ、あの……どうしてそれを……?」
確かに京介からは何があっても外へ出てはいけないと言われたし、もっといえば、チャイムが鳴っても居留守を使えとまで言われていた。
(でもっ。京ちゃんが怪我をしたって言われたんだもん。仕方がないじゃない)
そう言い訳をした芽生の心中を見透かしたみたいに、三井がはぁーっと大きな溜め息を落とす。
「年長者の言うことを聞かないからこういう目に遭うんです。それがなけりゃぁわたしだって、わざわざ下まで降りる必要もなかったんですがね」
まるで芽生のせいで自分も面倒ごとに巻き込まれているんだと言わんばかりの物言いに、さすがに違和感を覚えずにはいられない。
さっきまでは怖くて堪らなかったはずなのに、三井と話していると警戒心が薄れてしまうのは何故だろう。
十数段の階段を登り切った先には、またさっきみたいに鉄で出来た重そうな扉があって、芽生たちがその前で立ち止まるなり、見計らっていたように扉が内側へ向かって開いた。
先程外で見たときと同じように、階段の途中――天井付近――にも防犯カメラが設置されていたから、それで監視されていたんだろう。
「どうぞ」
言われて背後の三井から押されるようにして室内へ入った芽生は、一斉に自分へ降り注がれる男達――十人以上はいる――の視線に気圧されて、思わずたじろいでしまった。
不用意に見知らぬ男の誘いに乗って車へ乗り込んでしまったばかりに、京介のマンションからかなり離れたよく分からない建物の一室へ押し込まれてしまった。
今さらのように現状を把握して物凄く不安になった芽生は、この中では一番マトモそうな三井を振り返ったのだけれど、それと同時、不意にいま背を向けたばかりの部屋の奥の方から盛大な溜め息が聞こえてきて……芽生はビクッと身体を跳ねさせる。
恐る恐る身体ごと向きを変えた芽生の視線の先には――。