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ユージーンは、ルシンダと前世の兄妹であることを確かめ合ってから、何かと構ってくるようになった。
今日も学園内の食堂で一緒にランチの予定だ。ミアも誘ったのだが、やることがあるからと断られてしまった。
仕方がないのでユージーンと二人で食堂に入り、空いている席を探す。
「ルー、ここの席にしよう」
「うん……じゃなかった──はい」
「外の景色が綺麗だから、ルーはこっち側に座るといいよ」
「ありがとう、ございます」
いつも近寄りがたいオーラを放っていたユージーンのあまりの様子の違いに、食堂にいた生徒たちは騒ついている。
「どうして一年生の子と……」
「生徒会の手伝いをしている子らしいよ」
「ユージーン様、最近だいぶ雰囲気が変わられたわよね」
「彼女が関係しているのかしら」
周囲のお喋りが聞こえてきて、なんだか居た堪れない気持ちになり、ルシンダは小声でユージーンに話しかける。
「なんかすごく見られてるけど大丈夫かな?」
「気にしなくていいよ。それより、ルーはプリンが好きだっただろう? 僕の分もあげるよ」
「……ありがとう」
前世の兄はとにかく妹に甘かったが、転生してからもそれは変わらないようだ。むしろ両親の目がなくなった分、さらに過保護になったような気もする。
兄の甘やかしは少しくすぐったいけれど、やはり嬉しくて幸せな気持ちになる。
優しい眼差しで見つめるユージーンに笑顔を返すと、視界の端に誰かの視線を感じた。
ちらりとそちらに目を向けると、クリスが無言でこちらを見つめている。心なしか表情も険しい。そしてルシンダが手を振ろうとすると、ぷいと顔を背けてそのまま食堂から出て行ってしまった。
最近、クリスの様子が少しおかしい気がする。ずっと優しくしてくれていたのに、急に冷たくなったというか、ルシンダを避けるようになってきたのだ。
(私、何かお兄様が嫌がるようなことでもしちゃったのかな……)
知らない間に、とんでもない失態でもしてしまったのだろうかと記憶を探っていると、アーロンとライルがやって来た。
会釈して通り過ぎようとした彼らに、ユージーンが声を掛ける。
「君たち、よかったら一緒にどうだい?」
「……お誘いありがとうございます」
「……では失礼いたします」
アーロンとライルは戸惑いながらも同じ席に着いてくれた。
初めは聞き手に回っていた二人だったが、やがてアーロンが遠慮がちに話し始めた。
「兄上は……ルシンダと、仲がよろしいんですね」
「ああ、実は幼い頃に面識があってね。ルー……ルシンダとは兄妹のような関係なんだ。ほぼ十年ぶりの再会だったから最初は気付かなかったけれど」
ユージーンは少し声を張って返事をする。実はこれはユージーンが考えた作戦だった。
多くの生徒が集まる食堂で、ユージーンとルシンダが旧知の間柄であることを話して周知させようというわけだ。アーロンとライルは思惑通り、その話し相手として釣られてくれた。
「……そうだったんですね。実は俺たちもルシンダとは子供の頃からの知り合いで」
「ああ、ルーから聞いたよ。学園でも仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、ユージーン様からお礼を言われるようなことでは……。俺が仲良くしたくて一緒にいるだけですから」
なぜかライルは少しムッとした表情だ。ユージーンは困ったように笑うとアーロンに話しかけた。
「そうだアーロン。君は試験で毎回一位をとっているそうじゃないか。僕も従兄として誇らしいよ。君なら将来きっと立派な国王になれるだろうな」
アーロンは耳を疑った。ユージーンはこれまでずっと自分に敵意を滲ませていたはずだ。最近、ずいぶんと穏やかになったとはいえ、人前でこんな賛辞を送り始めるなど違和感しか感じない。
「いえ、あの、私よりもユージーン兄上のほうがずっと……」
「何を言うんだ。僕は臣下として支えていきたいと思っているよ。ルーもそう思うだろう?」
「えっと、アーロンならきっと立派に国を治めてくださると思います。将来即位されたら、もうこんな風にお話しできなくなるかもしれませんが、ちゃんと陰ながらお支えしますからね」
「……そうか、ありがとう」
ルシンダとしてはアーロンを応援したつもりだったのだが、なぜかアーロンは寂しそうな表情をしている。
結局アーロンもライルも浮かない顔のまま、なんとなく微妙な雰囲気でランチはお開きになったのだった。