テラーノベル
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7月4日深夜。遮光カーテンに包まれた静寂の中、セバスはひとり、机に向かっていた。
長い葛藤を越えた先で、彼の手がペンを走らせる。
出展用の最後の一枚。それは、どこか祈りにも似た時間だった。
描きあげた絵を見つめる。
しかし、胸の奥にわずかな違和感が残る。
「……これじゃない」
小さく呟き、ためらいながらも紙を破る音が響く。
セバスはゆっくりと深呼吸し、新しい白紙を引き寄せた。
浮かんだのは、あるイメージ。
——ひまわり畑で歌う少女を、スケッチブックに描くもう一人の少女。
夢半ばで散った彼女が、今を生きる誰かに未来を託す姿。
黄色い花が咲き広がるキャンバスに、セバスはそっと光を灯す。
「これなら、届くかもしれない……あの子の、願いにも」
頬に伝う涙に気づかないまま、彼は黙々と描き続けた。
やがて、夜がほころびはじめる。
カーテンの隙間から射す薄明かりに気づき、彼はふと手を止めた。
カーテンをゆっくりと開くと、朝焼けの気配が世界を淡く染めていた。
「ああ……ようやくだ」
魂の奥から漏れたその声は、どこか微笑んでいた。
そのままソファに身を投げると、まるで電池が切れたように眠りへ落ちる。
——数時間後。
静かな室内に、スマートフォンの通知音がひとつ、静かに響いた。
テーブルの上、光る画面。セバスの描いた未来が静かに息づいていた。
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