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キルアと任務中に手錠で繋がれてしまった⁉︎
夜の路地裏。
空気が張りつめている。
「……今だ」
キルアの低い声と同時に、×××は屋根から飛び降りた。
任務内容は単純。
情報屋からブツを回収して、そのまま離脱。
――のはずだった。
「っ、罠!?」
足元で金属音が鳴った瞬間、
二人の手首に冷たい感触が走る。
「なにこれ……手錠!?」
気づいたときにはもう遅い。
×××とキルアの右手と左手が、がっちり繋がれていた。
「……は?」
一拍。
キルアは自分の手首を見てから、×××を見る。
「……マジ?」
「マジって……!どうするのこれ!」
「落ち着けって」
そう言いながらも、キルアは少しだけ眉をひそめる。
手錠には小さな装置が付いていて、赤いランプが点灯していた。
「時間式か」
「時間……?」
「多分、解除まで24時間」
「はぁ!?」
×××の声が裏返る。
「そんなの聞いてない!」
「俺も」
キルアは苦笑して、肩をすくめた。
「情報屋、性格悪すぎだろ」
遠くで足音が聞こえてくる。
「……追手来る」
キルアは即判断して、×××の手を引いた。
「走るぞ」
「え、ちょっ――」
手錠で繋がれたまま、息を合わせて走り出す。
「右!」
「分かってる!」
角を曲がるたびに距離が近くなって、
嫌でも相手の体温を感じる。
路地を抜けて、安全圏に入ったところで、ようやく足を止めた。
「……はぁ、はぁ……」
「息合うじゃん」
キルアは軽く言うけど、視線は手錠に戻る。
「で、どうすんの」
「どうするもなにも」
キルアは×××の方を見て、にやっと笑った。
「24時間、仲良くするしかないだろ」
「……その言い方やめて」
「無理」
そう言いながら、手錠を軽く鳴らす。
「任務中にこんなの仕掛けてくるってことはさ」
少し声を落として続ける。
「一人で行動させないのが目的だ」
「……つまり」
「ずっと一緒」
その言葉に、×××は微妙に視線を逸らした。
キルアはそれを見逃さない。
「なに、今さら緊張?」
「してない」
「してる」
即答。
キルアは一歩近づいて、距離を詰める。
「大丈夫」
軽い口調だけど、目は真剣。
「俺がついてる」
手錠が、かちゃっと音を立てた。
24時間手錠生活。
予想外すぎる任務は、こうして始まった。
路地を抜けた、その瞬間。
「……来た」
キルアの声が低くなる。
背後の気配。
複数。速い。
「×××、走れる?」
答える前に、
キルアは即決した。
「いや、いい」
「え――」
次の瞬間、
×××の視界がぐっと上がる。
「なっ……!?」
「黙って掴まってろ」
完全なお姫様抱っこ。
手錠で繋がれたままなのに、動きに一切の無駄がない。
「キ、キルア!自分で――」
「今は俺が運ぶ方が早い」
言い切り。
屋根を蹴って、影に紛れて、
敵の視線を一気に切る。
「……っ」
×××は思わずキルアの服を掴む。
それに気づいたキルアは、
余裕のある声で言った。
「なに、安心した?」
「ち、違……!」
「はいはい」
口元だけで笑う。
「距離ゼロ、悪くないだろ」
「今それ言う!?」
「言う」
即答。
数分後。
完全に安全圏。
キルアは×××を下ろす……かと思いきや、
すぐには離さない。
「……降ろさないの?」
「逃げ切るまでが任務」
「もう逃げ切ってる!」
「俺の判断」
からかうように言いながら、
やっと地面に下ろす。
「……で?」
キルアは手錠を軽く鳴らす。
「さっきの、どうだった」
「……」
「黙るってことは?」
「……やめて」
「楽しかったな」
完全に楽しみ始めてる。
⸻
帰りの電車。
時間帯もあって、そこそこ混んでいる。
「……目立つ」
×××が小声で言う。
「手錠もあるし……」
「分かってる」
キルアは周りを一瞬見てから、
自然な動きで×××の手を取った。
「え……?」
そのまま、
自分のパーカーのポケットへ。
「……!」
「ほら」
平然とした声。
「これならただのカップルだろ」
「……き、聞いてない……」
手は温かくて、逃げ場がない。
キルアは視線を前に向けたまま、
小さく囁く。
「今さら照れんなって」
「キルアのせいでしょ……!」
「俺?」
ちらっと見て、にやっと笑う。
「手繋ぐの、嫌だった?」
「……嫌じゃない……」
その答えに、
キルアの口角がさらに上がる。
「素直じゃん」
「からかわないで……」
「無理」
ポケットの中で、
指が軽く絡む。
「24時間手錠生活だぞ?」
低く、楽しそうに。
「これくらい、特典みたいなもん」
×××は顔が熱くて、
俯くしかなかった。
電車の揺れの中、
二人の距離は、最初から最後までゼロのままだった。
結局、そのまま×××の家でお泊まりすることになった。
「手錠外れないしな」
キルアはあっさり言って、靴を脱ぐ。
「……普通に言わないで」
「普通だろ」
全然普通じゃない。
リビングに入ってからも、
キルアはやたらと近い。
座る位置も、立つ位置も、
気づけば全部半径ゼロ。
「キルア、近……」
「そう?」
本気で分かってなさそうなのが、余計にタチが悪い。
⸻
夕飯の時間。
テーブルに並んだ料理を見て、キルアが言う。
「腹減った」
「今から食べるでしょ」
「手錠あるけど?」
そう言って、×××の方を見る。
嫌な予感。
「……まさか」
キルアは箸を持ったまま、にやっと笑った。
「ほら」
差し出される箸。
「あーん」
「!?!?」
「手、繋がってるし無理だろ?」
理屈は合ってる。
合ってるけど。
「……自分で食べられる……!」
「じゃあやってみ」
試しに動こうとすると、
手錠のせいで距離が崩れて、余計に近づく。
「ほら、無理」
完全勝利の顔。
「観念しろって」
「……っ」
渋々口を開ける。
「あー……」
ぱく。
「……どう」
「……おいしい……」
「だろ」
満足そう。
「はい次」
「ちょ、待って……!」
「逃げるな」
楽しそうに、でも自然に続くあーん。
周りから見たら、
完全に慣れたカップル。
×××の顔はずっと赤いまま。
「……キルア、距離感おかしい……」
「今さら?」
首を傾げる。
「手錠生活だぞ。こうなるに決まってる」
「決まってない……!」
「決まってる」
即答。
少し声を落として、囁く。
「俺が近くにいるの、嫌じゃないだろ」
「……」
言い返せない。
キルアはそれを見て、満足そうに笑う。
「ほら」
最後にもう一口。
「あーん」
×××は観念して、また口を開けた。
距離ゼロが、
もう当たり前みたいになり始めていることに気づきながら。
ご飯のあとも、キルアの距離感はどんどんおかしくなっていった。
ソファに座れば自然に肩が触れる。
立ち上がれば、何も考えずに手を引く。
「……キルア」
「ん?」
「ちょっと近くない……?」
「そう?」
本気で自覚がない顔。
「手錠あるし、仕方なくね?」
仕方なく、の使い方が完全に間違っている。
×××はしばらく黙っていたけど、意を決したように口を開いた。
「……あの、お風呂……」
その瞬間。
キルアが一瞬、固まった。
「……あ」
ようやく意味を理解したらしく、
視線が泳ぐ。
「……そっか」
「う、うん……」
気まずい沈黙。
二人の視線が、
手錠に落ちる。
「……一人は無理だな」
「……だよね……」
同時に赤くなる。
「……見るなよ」
キルアが小さく言う。
「見ない……」
お互い、変に真面目。
⸻
浴室。
二人とも必要以上に距離を取ろうとして、
逆に不自然。
キルアは完全に壁の方を向いている。
「……絶対見るなよ」
「見ねーって……!」
声が裏返ってる。
×××が体を洗おうとして、
手錠のせいで一歩ずれた、その瞬間。
「っ……!」
バランスを崩しかけた。
次の瞬間、
腕を引かれる。
「危な……!」
キルアが反射的に支えていた。
結果。
距離、ゼロ。
一瞬、時間が止まる。
「…………」
「…………」
お互い、真っ赤。
「……ご、ごめん!!」
キルアは慌てて顔を背ける。
「今のは不可抗力!」
「わ、分かってる……!」
でも手は、ちゃんと支えたまま。
「……大丈夫か」
声だけ、いつもより優しい。
「……うん」
しばらくして、そっと離れる。
でも、さっきより空気が柔らかい。
「……助けてくれて、ありがとう」
×××が小さく言うと、
キルアは視線を合わせないまま答えた。
「……当然だろ」
一拍。
「俺、×××が転ぶ方が嫌だし」
その一言で、
×××の胸がきゅっとなる。
お風呂の湯気の中、
二人とも最後まで目を合わせられなかったけど。
距離だけは、
ずっと近いままだった。
お風呂から上がって、リビング。
ドライヤーの音も止んで、
一気に静かになる。
「…………」
「…………」
沈黙。
さっきまでの出来事を思い出してしまって、
二人とも目を合わせられない。
キルアは腕を組んで、わざとそっぽを向いた。
「……なんで黙ってんだよ」
「キルアが先に黙ったんでしょ……」
「俺は別に」
「絶対意識してる」
即ツッコミ。
その言葉に、キルアは一瞬詰まる。
「……してねーし」
「してた」
「してない」
「顔赤い」
「……風呂のせい」
苦しすぎる言い訳。
×××が小さく笑う。
「さっき、全然こっち見なかったね」
「当たり前だろ!」
思わず声が大きくなって、
キルアは慌てて咳払い。
「……見るわけねーじゃん」
「助けるときは見てたくせに」
「それは不可抗力!」
即答。
×××はちょっとだけ意地悪な笑顔になる。
「……じゃあ、距離ゼロだったのも?」
「事故!」
「ふーん」
からかうような声。
キルアは観念したように息を吐く。
「……転ぶかと思ったからだよ」
一拍。
「それだけ」
でも、その声はやけに真面目。
×××は少しだけ表情を緩める。
「……ありがと」
その一言に、
キルアは視線を逸らしたまま言う。
「礼言われることしてねーし」
「してる」
「……うるせ」
でも口元は、ほんの少し緩んでる。
少し間があって、
キルアがぽつっと言う。
「……さっきさ」
「ん?」
「×××の方が俺より落ち着いてなかった?」
「それは……」
×××も赤くなる。
「キルアが変に優しいから……」
「は?」
「余計に意識する」
その言葉に、
キルアは完全に照れる。
「……やめろ」
「からかわないでって?」
「今は、な」
二人で小さく笑う。
気まずさは、もうない。
キルアは自然に距離を詰めて、
手錠の鎖を軽く鳴らす。
「……ま、今日は仕方ない」
「なにが?」
「近いの」
何気ない一言なのに、
×××の心臓が跳ねる。
「……仕方なく?」
「半分」
もう半分は言わない。
そのまま並んで座って、
肩が軽く触れる。
今度は、誰も離れなかった。
テレビの音だけが、部屋に流れている。
キルアはソファに深く腰掛けたまま、
画面をぼんやり眺めていた。
「……これ、前見た」
「ちゃんと見てないでしょ」
「見てるって……」
そう言った直後、
キルアの声が少し間延びする。
瞬きが増えて、
首がゆっくり傾いた。
「……」
気づいたときには、
キルアの頭が×××の膝に軽く当たっていた。
「え……?」
起きる気配、なし。
呼吸は穏やかで、
完全にリラックスしている。
「……寝てる……」
×××は動けなくなる。
(さっきまであんなにからかってたのに……)
キルアの表情は、
任務中や普段の余裕ある顔とは全然違っていて。
無防備で、
安心しきっている。
「……警戒心なさすぎ……」
小さく呟くけど、
膝をどかすことはできなかった。
手錠の鎖が、
二人の手首の間で小さく光る。
×××はそっと視線を落とす。
「……こんな顔で寝るんだ……」
思わず、胸がきゅっとなる。
テレビの明かりが、
キルアの髪をやわらかく照らす。
×××はそっと息を整えて、
起こさないようにじっとしていた。
(……安心してくれてるんだ)
そう思うだけで、
顔が熱くなる。
「……重くない……」
小さくそう言って、
膝の上の温もりを受け止める。
キルアは寝返りも打たず、
そのまま動かない。
完全に信頼しきった重さ。
×××は照れたまま、
ただテレビを見続けた。
この静かな時間が、
少しでも長く続けばいいと思いながら。
気づけば、テレビの音も遠くなっていた。
×××はキルアを膝枕したまま、
いつの間にか眠ってしまっている。
規則正しい呼吸。
力の抜けた指先。
「……」
先に目を覚ましたのは、キルアだった。
ぼんやりと天井を見て、
次に感じたのは——柔らかい感触。
(……え)
状況を理解するのに、数秒。
自分の頭が×××の膝の上にあって、
その×××本人は、すやすや寝ている。
「……マジか」
顔が一気に熱くなる。
そっと顔を上げて、×××を見る。
無防備な寝顔。
睫毛が影を落としていて、
さっきまで照れていたのが嘘みたいに静か。
「……ずる」
小さく呟いて、思わず口元が緩む。
満足そうに一度だけ目を細めてから、
キルアは静かに立ち上がった。
手錠があるから、動きは慎重に。
「起こすなよ……」
そう言うように、×××をそっと抱き上げる。
お姫様抱っこ。
軽い。
(……ほんと、細いな)
足音を殺して、ベッドまで運ぶ。
そっと横に下ろそうとして、
手錠の鎖が短いことに気づく。
「……あー……」
結局、
キルアも一緒にベッドに腰を下ろす形になる。
横に寝かせて、
少し距離を空けようとして——無理だと悟る。
近い。
寝息が聞こえる距離。
キルアは仰向けになって、
しばらく天井を見つめていたが、
結局、視線が×××に戻る。
「……起きてたら絶対からかわれるな」
でも、嫌じゃない。
むしろ、
この静かな時間が心地いい。
×××の寝顔に、
もう一度だけ目を向けてから。
キルアはそっと目を閉じた。
手錠に繋がれたまま、
同じベッドで。
安心しきったまま、
静かに眠りに落ちていった。
朝の光が、カーテンの隙間から差し込む。
「……ん……」
同時に、二人が目を開けた。
「……え」
最初に声を出したのは×××だった。
視界に入ったのは、
見慣れた自分の部屋の天井――じゃなくて、ベッド。
「……え!?!?!?」
勢いよく起き上がろうとして、
手錠の存在を思い出して止まる。
横を見ると、キルア。
同じベッドで、普通に寝てた。
「な、なんでベッド……!?私……ソファで……」
「おはよ」
キルアはあくび混じりに、あっさり言う。
「……俺が運んだ」
「えっ」
一瞬、頭がフリーズする。
「え、え、じゃあ……お姫様抱っこ……?」
「そうだけど」
あまりにも平然。
×××の顔が一気に赤くなる。
「……お、重くなかった……?」
「……」
キルアは一瞬だけ黙って、
×××の表情をじっと見る。
そわそわ。
視線が泳いで、落ち着かない。
完全に察した。
「なにそれ」
口元がにやっと上がる。
「もしかして一晩中、それ考えてた?」
「ち、違……!」
「はいはい」
わざとらしく肩をすくめて、続ける。
「全然重くないし」
「……」
「むしろ軽すぎ」
×××がさらに赤くなる。
「……言わなくていい……!」
「言いたくなるだろ」
少しだけ距離を詰めて、
余裕100%の声。
「ちゃんと抱えられるくらいだし、
寝顔も静かでさ」
「ちょ、まっ……」
「安心して寝てた」
くすっと笑う。
「だから問題なし」
甘くて、からかい半分。
でも声は優しい。
「……運んでくれて、ありがとう……」
小さく言う×××に、
キルアは一瞬だけ目を逸らす。
「……どーいたしまして」
照れ隠しに、すぐ戻る。
「それよりさ」
手錠を軽く鳴らして、
「まだ外れてないけど?」
「……」
「もうちょい一緒にいろってことだろ」
そう言って、またにやっと笑う。
朝から距離ゼロ。
×××はため息をつきつつ、
でもどこか嬉しそうだった。
カチリ。
乾いた音と一緒に、
二人の手首を繋いでいた手錠が外れた。
「……やっと」
×××が小さく息をつく。
自由になったはずなのに、
すぐに手を引くことはできなかった。
「……」
無意識に、まだ近いまま。
キルアも動かない。
「外れたな」
「……うん」
それだけ言って、
しばらく沈黙。
気まずい、というより――
離れる理由が見つからない。
×××がそっと一歩下がろうとすると、
キルアが先に口を開いた。
「……離れたい?」
「え」
一瞬、言葉に詰まる。
「……別に……」
正直な答え。
キルアはそれを聞いて、
小さく笑った。
「だよな」
さっきまで繋がれていた手首に、
何もないはずなのに、
自然と近づく距離。
「手錠なくても、別に変わんないな」
「……言わないで」
照れた声。
キルアはわざと余裕のある表情で、
でも声は柔らかい。
「甘えたくなったら、言えよ」
「……キルアもでしょ」
「まあな」
あっさり認める。
ソファに並んで座る。
肩が軽く触れて、
どちらもどかさない。
「……任務より疲れた」
「それは言い過ぎ」
「でも楽しかった」
キルアはそう言って、
背もたれに寄りかかる。
×××も、つられるように近づく。
寄りかかる距離。
「……手錠、もういらなかったね」
「最初からいらなかったかも」
くすっと笑い合う。
繋がれていなくても、
自然と一緒にいる。
甘くて、静かで、安心できる時間。
キルアは目を閉じながら言った。
「……このままでいよ」
「……うん」
結局、
二人はそのまま動かなかった。
手錠は外れても、
気持ちはちゃんと繋がったまま。
to be continued….