テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
side mtk
彼女をそっと引き寄せ、胸の中に抱き込む。かすかに肩が震えているのが、腕越しに伝わった。
――今、欲に任せたら駄目だ。
その衝動を押し込み、背中をゆっくり撫でる。
「……座ろっか」
腕の力をゆるめ、彼女をソファへ導く。
「みおちゃん、紅茶、飲める?」
腰を下ろした彼女の目線に合わせ、柔らかく問いかける。
彼女は小さく頷いた。
「待ってて」
そう言ってリビングの灯りを点け、静かに飲み物の準備に向かう。
ケトルに水を入れ、スイッチを押す。
湯が沸くまでのわずかな時間が、やけに長く感じられた。
棚からカップを二つ取り出す。
彼女の分と、自分の分。
その動作ひとつひとつで、心を落ち着けようとする。
――落ち着け、自分。
これ以上、彼女を傷つけるわけにはいかない。
ふわりと立ち上る湯気と香りに、少しだけ呼吸が深くなった。
side mio
彼が飲みものの準備をしに席を立つ。
部屋の灯りが柔らかく灯され、薄暗い空間に、湯の沸く音とコップの触れ合う音が響く。
さっきまで彼の腕の中にいた温もりが、まだ体に残っている。
あの腕は、安心をくれた。
自分の中にあった恐怖が、少しずつ消えていくようだった。
――このまま全部打ち明けてしまえば、楽になれるのかもしれない。
でも、気持ちを伝えることで、彼に迷惑をかけてしまうかもしれない。
寝不足と、予期せず彼に会ってしまったことで、余計に感情の整理が追いつかない。
彼がマグカップを二つ持って戻ってくる。
カモミールの甘く落ち着いた香りが、ふわりと包み込んだ。
「……どうぞ」
目の前にカップが置かれる。
「……ありがとう…ございます…」
声が上手く出ない。
彼は距離を置いて、隣に腰を下ろす。
カップを両手で包み、少し息を吹きかける。
甘い香りが鼻をくすぐり、心臓の鼓動が少しだけ落ち着いていく。
横で彼が、黙って私を見ている。
「あの……私、歌手になりたかったんです」
自分でも驚くほど、声がか細かった。
彼の顔を見るのが怖くて、視線はカップに落としたまま。
「高校生のころ、偶然ライブハウスで大森さんが歌っているのを見て……。
わたしも、大森さんみたいになりたいって思ったんです」
言葉を選ぶように、ゆっくりと続ける。
「でも、親に“音楽では食えない”って否定されて……。周りにも、そんな甘くないって言われて。
そこから、どんどん塞ぎがちになって、音楽の道を諦めました」
「夢も、家族も、友達も、恋愛も……生きることすらも、しんどくなって。
現実の世界で生きるのが辛くて……ネットでRivaとして活動してたんです。
……ネットなら、誰も私のことを知らないから」
「一ヶ月くらい前に、糸が切れたみたいに、もう全部どうでもいいってなって……
仕事も辞めて、このまま消えてしまうのかなって。
朝起きても、PCとベッドを行き来するだけの生活で……。
そんな毎日を繰り返すうちに、“このまま死んでも悪くないのかな”って思うようになって……」
唇が震える。
それでも、最後まで伝えたかった。
「……でも、あの日、大森さんに会って……嬉しかったけど、すごく怖かった。
私が近づいたら、全部なくなってしまうようで……。
……大森さんは、私にとって、太陽みたいな存在なんです」
感情の整理が追いつかないまま、言葉は涙と一緒にこぼれ落ちる。
彼は、私が話し終えるまで、一言も口を挟まなかった。
side mtk
カップを持ち、湯気の立つそれをそっと彼女の前に置く。
「……ありがとうございます」
か細く漏れたその声は、今にも途切れそうで。
俺は彼女の正面ではなく、少し距離を置いて隣に腰を下ろした。
言葉は要らない――そう思った。
彼女が、自分のタイミングで話し出すのを待ちたかった。
やがて、小さく息を吸う気配。
「あの……私、歌手になりたかったんです」
視線は落としたまま、彼女は続ける。
「高校生のころ、偶然ライブハウスで大森さんが歌っているのを見て……。わたしも、大森さんみたいになりたいって思ったんです」
――知ってる。
この前、Twitterに上がっていた切り抜き動画で見た。
僕の歌が、彼女にとって音楽を始めるきっかけだったということを。
胸が締め付けられる。
憧れてくれた子が、今こうして目の前で苦しそうに俯き、言葉を絞り出している。
一人で、どれだけ抱え込んできたんだろう。
全部、知りたい。
全部、受け止めたい――その思いが、静かに熱を帯びていく。
彼女は、ぽつりぽつりと続けた。
「親や、周りに反対されたこと」
「現実から目を背けるために、Rivaとして活動してきたこと」
「全部どうでもよくなってしまったときに、僕に出会ったこと」
言葉が途切れたとき、頬を伝う涙が照明に反射して光った。
話の構想はできているのですが、自分の文才がなくこの先ちょっと時間がかかるかもしれません。
センシティブ会になると思いますので、よろしくお願いします、、、