テラーノベル
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先ほどまでの張り詰めた空気が、ふっと緩んだのが分かった。
森の声も、少しだけ柔らかさを帯びている。
その空気を感じ取ったかのように、梨奈はおずおずと口を開いた。
「森さん、そのぉ……うちのこと、太宰には言わんといて欲しいんです……」
その言葉は、どこか言いにくそうで、口の中で転がしてからようやく出てきたようだった。
目は泳ぎ、指先は自分のスカートの裾を無意識にいじっている。
森はその様子を見ながら、あえて少し距離を取ったまま問い返した。
「それはどうしてかね?」
言葉自体は穏やかだったが、その裏にある真意を探るような視線が鋭い。
その瞬間、梨奈がふと顔を上げ、一歩前に出た。
「うちを……殺したやつを、自分で解決したくて……」
「太宰が来てくれたんですけど、その時にはもう……うちは、いなくて……」
梨奈は言い終えると、視線を伏せ、それでも上目遣いで森の表情を窺った。
その目には、後悔と決意が交錯していた。
「……だめ?」
声は小さく、どこか子どものような不安がにじんでいた。
森はしばらく黙っていたが、ふっと小さく笑った。
「梨奈ちゃん、やっぱ可愛いねぇ。そんなこと言われたら、いいに決まってるじゃないかぁ〜」
いつもの調子でそう言うと、森は懐から煙草を取り出して火を点けた。
だがその表情には、ほんのわずかに哀しみと理解の色が混じっていた。
「ただなぁ、かわいい子たちが無茶するのは、見てらんないよ。死んでまで、そんな顔、させたくない」
煙の向こうで、森の目が細められる。
その言葉に、梨奈も、わずかに唇を噛んだ。
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