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ヤ ンキーちゃんは、嫉妬するとめんどくさい
――最初に言っておく。
私は、嫉妬深くない。
……いや、正確に言うと、
「表に出さないだけ」で、
心の中では大騒ぎしているタイプだ。
「会長、次これお願いします!」
「いふ先輩、ここ分からなくて……」
(……は?)
僕――ほとけは、生徒会室の入り口で立ち止まったまま、固まっていた。
視界の中心。
いふくんの周りに、
知らない女子が二人。
しかも。
距離が近い。
近い近い近い近い。
(なにこの距離感……
私のときより近くない……?)
いふくんはいつも通り、優しい笑顔で対応している。
「そこはな、こうやって書くんやで」
「えー!さすが会長!」
(……さすが会長、じゃない)
(さすが私の彼氏、でしょ)
心の中で訂正するが、誰にも聞こえない。
私は静かに、生徒会室のドアを閉めた。
――逃げた。
◇
(落ち着け……)
廊下を歩きながら、深呼吸。
(生徒会長なんだから、
話しかけられるのは普通……)
分かってる。
頭では。
(でも……)
胸の奥が、もやもやする。
(あんな顔、
私にだけ向けてると思ってた……)
思ってた自分が、バカみたいだ。
「……はぁ」
ため息が漏れる。
「ほとけ?」
その声に、びくっと肩が跳ねた。
(……来た)
振り返ると、いふくんが立っていた。
「さっき、生徒会室来てたやろ」
「……来てない」
即答。
「ドア閉まる音したで」
「……空耳」
完全に子どもの言い訳。
いふくんは、少しだけ首を傾げた。
「どうしたん?」
「……別に」
嘘。
分かりやすい嘘。
「ほんま?」
「……ほんま」
目を逸らす。
(言えるわけない……)
「他の女の人と、
あんな距離で、
楽しそうに話してて、
嫌だった」なんて。
(めんどくさい女だって思われる……)
いふくんは、少し考えるように黙った。
「……なあ」
「なに」
「ほとけ、嫉妬してる?」
(……っ!!)
一撃で、心臓を撃ち抜かれた。
「してない」
反射的に否定。
「ほんま?」
「ほんま」
「じゃあ、なんで耳赤いん?」
(……最悪)
無意識だった。
「……寒いから」
「今日、暑いで」
「……気のせい」
いふくんは、吹き出した。
「分かりやすいなぁ」
「……うるさい」
◇
その日の昼。
教室。
「ねえほとけ」
「生徒会長、めっちゃ女子に人気だね」
(知ってる……)
「さっきも一年の子と話してたよ」
(知りたくなかった……)
「ほとけ、大丈夫?」
心配そうな顔。
「……なにが」
「嫉妬とか」
(みんな察してる……)
「してない」
きっぱり言う。
「ふーん?」
にやにやした視線。
(やめて……)
机に突っ伏す。
(私がヤンキーだから、
余裕なく見えるんだ……)
(生徒会長の隣にいる資格、
あるのかな……)
不安が、じわじわ広がる。
◇
放課後。
文化祭後の片付けで、体育館。
僕は一人、装飾を外していた。
(生徒会長、今日は忙しいって言ってたし……)
その言葉を思い出すだけで、胸がちくっとする。
そのとき。
「ほとけ、そこ危ないで」
腕を掴まれ、引き寄せられる。
「……っ!」
顔を上げると、いふくん。
「脚立、不安定やった」
「……ありがと」
素直に言えた。
いふくんは、少しだけ真面目な顔になる。
「なあ、ほとけ」
「……なに」
「今日、避けられてる気するんやけど」
(……気づいてた)
「……別に」
「またそれ」
いふくんは、ため息をついてから、僕の目を見た。
「俺、女子と話すけど」
「……」
「彼女おるの、ちゃんと分かってもらってるで」
(……え)
「距離も、意識してる」
(……ほんと?)
「でもな」
少し照れたように、続ける。
「ほとけが嫌なら、
はっきり言ってほしい」
胸が、ぎゅっと締め付けられる。
(……ずるい)
そんな真剣な顔で言われたら。
「……嫌」
小さな声。
「ん?」
「……他の女の人と、
あんな近いの、嫌」
心臓が壊れそう。
いふくんは、一瞬驚いたあと、優しく笑った。
「そっか」
「……めんどくさいでしょ」
「全然」
即答。
「むしろ、嬉しい」
「……なんで」
「独占欲、可愛いやん」
(……っ!!)
顔が一気に熱くなる。
「……生徒会長、
そういうとこ嫌い」
「好きなくせに」
「……うるさい」
◇
その後。
いふくんは、生徒会室で宣言したらしい。
「俺、彼女おるからな」
「距離近いのは、あんま好きちゃうねん」
結果。
「会長、男前すぎ……」
「ヤンキーちゃん、完全勝利……」
「でもあの子、怖い……」
(怖くない)
(たぶん)
翌日。
廊下を歩いていると、
知らない女子が近づいてきた。
「あの……」
(来た……)
「生徒会長の彼女さん、ですよね」
「……そうだけど」
「……大事にしてあげてください」
そう言って、去っていった。
(……え)
拍子抜けする。
「ほとけ」
後ろから、いふくん。
「なに話してたん?」
「……忠告」
「なんて?」
「……大事にしろって」
いふくんは、満足そうに笑った。
「任せとき」
自然に、手を繋がれる。
(……ずるい)
「……私さ」
「ん?」
「嫉妬、するよ」
正直に言う。
「知ってる」
「……重いよ」
「可愛い」
「……生徒会長」
「ん?」
「私のだから」
ぎゅっと、手を握る。
いふくんは、少し驚いてから、嬉しそうに笑った。
「せやな」
――ヤンキーちゃんは、嫉妬するとめんどくさい。
でも。
それを丸ごと受け止めてくれる人が、
隣にいる。
それだけで、
十分、幸せだ。
コメント
1件
カワイスギル、どうしてくれるんですか!心臓もたない︎んですけど!?💕︎余裕ないヤンキー最高かて