朧月
仕事が終わり、卓也と新宿三丁目駅にある、地下のルノアールで待ち合わせをした。
俺は先に着き、店員に案内された席に着き、メニューを開いた。
って言っても注文する物はいつも決まってルノアールブレンドだ。
店員が近くに来たので、「すみませーん」
「はい!お伺い致します!」
「ルノアールブレンドを一つお願いします」
「はい、ルノアールブレンドお一つですね?、以上でよろしいですか?」
「はい」
店員は注文をメモに取り、裏に下がっていった。
店内はビジネスマンがパソコンをカチカチ入力してたり、年配の老紳士が難しい顔をしながら新聞を読んだりと、色々な人達がいた。
「お待たせ致しました、ルノアールブレンドでございます」と店員が卓上にコーヒーカップを置いた。
一口コーヒーを啜り、卓也が入ってきた。
「お待たせー」と卓也が言い、席に着いた。
「お疲れ様、今日も浅草橋まで営業してたの?」
「そうなんだよ、マジクソ疲れたー」
とだるそうに言い、メニューを開いている。
卓也はウィンナーコーヒーを注文した。
運ばれてくるウィンナーコーヒーを啜り、口の周りにクリームをつけながら、「この後どこ行く?」と聞いた。
「えっまだ店に入ったばかりじゃん」
「だってお腹空いたんだもん~」と甘えた口調で言うのだ。
「せめてコーヒー飲み終わってから考えさせて」と言い、卓也はため息をついた。
卓也に急かされ、コーヒーを飲み終え、会計を済ました。
新宿三丁目の飲み屋街を歩きながら「何食いたい?和食?洋食?中華?」と卓也が聞いたので、「中華が食べたいかな?」と言ったら「俺 はイタリアンがいいなぁと」卓也が言った。
「なら聞かなきゃいいじゃん」と俺は呆れた口調で言ったのだ。
卓也はこちらの話も聞かず、スタスタと目的の店に、向かった。
店に入るなり、二人でメニューを開きながら、色々と迷いながら、これがいいだの、アレがいいだのと…。
「酒は何がいい?」と卓也が目を細めて聞いた。
「グラスワインでシラーにする」
「ならボトルにしようぜ」と卓也が言うから、とりあえずボトルで注文した。
店内は、沢山のカップル達が幸せそうな顔をしながら、他愛のない会話に花を開かせている。
「お待たせ致しました、コノスル シラー ビシクレタ ・レゼルバでございます」と店員がグラスに注いだ。
「じゃあお疲れ様」と卓也と乾杯した。
一緒に運ばれてきた食事と食べながら、赤ワインん口に運び、俺はテーブルにひかれたあ、赤と白のチェックのテーブルクロスを見つめながら、ひたすらワインを飲んだ。
「どつしたん?いつもより元気ないじゃん」と、卓也が聞いた。
「そんな事ないよ、疲れてるだけ」
「ふーん」とピザを食べながら卓也は言った。
俺は卓也が仲通りで例の男と親密な感じで歩いてるのを見た事、航平さんとの出来事を思い出してた。
考えても仕方ないのに…今日はせっかく卓也とのディナーなのに、こんなネガティブな事を考えてしまう自分に嫌気が出る。
目の前で卓也は、食事を堪能しながら、ワインん飲んでる。
店内では、恋人達が幸せそうな表情でお互い見つめあったり、楽しそうに会話してる姿が、
今の自分には毒だ。
気を取り直そうと、俺はワインを多めに口に流した。
卓也は意外にも神社仏閣が好きで、毎回食事するたびに色々な神社の歴史や寺院の建築について話すのだ。
「知ってる?柴又の帝釈天?」と卓也が聞いた。
「そりゃ知ってるよ、男はつらいよの舞台になった場所でしょ?」と俺はボロネーゼをフォークで巻きながら言った。
「俺この前、仕事の外回りの途中にそこに寄ったんだよー、東京都内にあるのに一回も言った事なくてさー」と軽やかな口調でニヤニヤしながら言った。
「それで行ってみてどうだったの?」
「帝釈堂の前の瑞龍の松ってのを見てきたんだけど、アレは中々見事な樹形でつい見入ってしまったよ」と卓也らは得意気に言った。
俺は「へー」とだけ答えた。
「今度一緒に行こうぜ、一樹の家からも近いしー」と卓也が言うから。
「そうだね」と俺は軽い口調で言った。
卓也は毎回、どこどこ行こうと言っておいて、一回も連れて行ってもらった事がないから、期待はしない。
俺たちは食事を終え、少し休憩した後、お会計をしにレジに向かった。
「今日は俺が全部出すよ」
「いいよ、毎回卓也が多めに出してるし、ワインもほとんど俺がのんだから今日は俺が多めに出すよ」と言うが、卓也はお構いなしにカードでお会計をスマートに済ました。
「ありがとう、いつもご馳走になってばかりで」
「気にするなよ、俺の方が年上だしさ」と卓也が言った。
俺たちは夜の新宿の街をひたすら歩いた。
卓也が「てかさっきから思ってだけど一樹最近、どんどん可愛くなってない?」と唐突聞いたので、俺は恥ずかしくなり、体が熱くなった。
「そんな事ないよ、いつもと変わらないよ」と俺は言った。
「そっか?服装もオシャレになったし、髪型も前よりイケてるじゃん」と卓也は俺の顔を覗きこむように言った。
「一応、人と会うし大人としての最低限の身だしなみでしょ?」と俺は言った。
「ふーん、てっきり俺の為にやってくれてのかと思ったー、残念だなー」と卓也は前を向きながら言った。
俺は急に胸がドキドキした。
「何それ…待ってこれは何!?」と心の中でバクバクする心臓に聞いた。
俺は思わず卓也に「それはどういう意味?」
平常心を保ち、冗談半分で聞いた。
「何でもなーい」と卓也は笑いながら歩いた。
俺はこの今の空間がとても幸せに感じ、胸をときめかせた。
他愛のない会話でも、こうして卓也と過ごせる事が嬉しかった。
「この後、どうする?ウチで映画でも見る?」
と卓也聞いたので、「うん」と俺は答える。
「ならそこのドンキで、お酒とポップコーンでも買おうぜー」と卓也が言い、店内に入った。
店内で、カゴを持ち、卓也と酒とポップコーンを入れ、色々な商品を見ながら回った。
「そう言えば乾燥が酷くて、リップクリームを探してるんだけどどれがいいとかある?」と卓也が聞く。
「俺はニベアのデリシャスドロップピーチを使ってるかなー」
「ふーんだからそんなエロそうなプルプルな唇なんだー」と卓也が揶揄うよに言い、「まったくすぐ人をおちょくるんだから」と俺はツンとした口調で言い、卓也は満足気に笑いレジに向かった。
俺たちはドンキを出て、靖国通り沿いを歩き、新宿三丁目駅に向かった。
俺たちは京王線に乗り二人で並んで、電車に揺られた。
真っ暗闇の窓には卓也と俺の姿が映っていて、マンションや家の明かりが灯されているだけだ。
電車内は珍しくガラガラだった。
卓也は急に俺の手を掴み、自分のコートのポケットに入れた。
「こうすれば寒くないだろ?」と卓也がいう。
「ちょっと公共の場で男同士がこんな事したらヤバいって…」と俺は小声で言うが、内心はすごい嬉しかった。
「一樹は冷え性だからこうしないとダメ」と卓也は笑いながら言った。
俺は卓也のコートのポケットの中で手を繋いだまま千歳烏山駅まで繋いだ。
卓也の最寄り駅に着き、卓也のアパートに向かった。
外は冷たい空気が流れる、静かな烏山川緑道を歩いた。
「今日は薄曇りで月が見えにくいな、せっかく満月なのに」と卓也が言う。
「そう?今日は朧月で趣きがあって綺麗じゃん」と俺は立ち止まり紺色に染まる空と朧月を見上げた。
「一樹は相変わらず、オシャレな表情をするなー」卓也が低い声で言う。
「そりゃ月は昔から、いにしえ人達を魅力してきたんだもん、だから和歌にも月を歌った作品が多いでしょ?」
「時代は変わって、文明が発展しても、人の心はいつの時代も変わってないのかもな」と卓也は俺の目を見ながら微笑んだ。
「そうだろうね」と俺も卓也の目を見ながら微笑み言う。
「さーて、寒いから早く家に帰ろうか」卓也は言い、俺の手を繋ぎ自分のコートのポケットに入れながら歩いた。
俺は今日のこの時間がとても幸せで、この間のことがどうでもよく思えてきた。
例え、卓也が他の人とそういう関係でも…ただ今この時間を大切にしたい…
心の中でそう呟くのであった。
アパートに着き、俺たちはすぐシャワーを浴びて、ソファーに座り缶ビールを開けた。
ポップコーンをつまみながら、ネットフリクスで洋画を見た。
時刻は0時をまわり、「卓也がそろそろベッドに入ろうか」と言う。
ベッドに入り卓也は俺の唇に優しいキスをした。
「相変わらず、エロい唇をして可愛い顔してるな」と髪を撫でながら言った。
俺はただ卓也の目を見つめる事しか出来なかった。
この時間がいつまでもいつまでも続けばいいのに…と心の中でそう願った。
今日は特に卓也の息遣いが荒く、卓也は無我夢中でキスをしながら激しく腰を振る。
俺もいつもより、喘ぎ声が大きくなり、ますます卓也の腰振りが激しくなったのだ。
セックスを終えた後、俺は卓也の腕枕で横になり、卓也との会話を楽しんだ。
目が覚め、いつのまに寝たのか、時刻は明け方の4時だった。
外は群青色になってた。
卓也は俺を抱き枕のように抱いたまま寝てる。
俺も卓也の手に添えて、再び目を瞑ったのだった。
二度寝から覚め、外は明るくなっていた。
起きたら、横に卓也は居なかった。
台所から音が聞こえ、向かったら卓也がスウェット姿でエプロンを付け、朝ごはんを作ってた。
「おはよー」と卓也は言い、「目玉焼きは硬焼き?半熟?」と聞いた。
「おはよー、半熟がいい」と言い、卓也は熱したフライパンに卵を割り、落とした。
「パン焼けたから、皿に出しといてー」と卓也が言い俺は食器棚から無地の白い皿を出し、冷蔵庫からバターを取り出し塗った。
焼いた目玉焼きを卓也は慣れた手つきでフライパンから滑り出すように皿に乗せた。
俺たちは「いただきます」と言い黙々とご飯を食べたのだ。
そういえば、卓也がご飯を作ってくれるなんて珍しかった。
たとえ卓也の家でもほとんどは俺が作ることが多いのだ。
俺たちは食事を終え、俺は皿を洗いコーヒーを入れ卓也とソファーで並びながら朝のニュースを見た。
卓也は俺の体に手を回し、くっつかせながらコーヒーをのんだ。
俺も卓也の肩に頭を乗せ、ただ幸せを噛み締め、ただニュースをボーっと見るのだった。
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