その後メアリーはベッドの上で犬のようにうずくまって眠ってしまった。
(そうか、今日もよく頑張ってたからなぁ)
そう思いながら頭を撫でてあげる。
すると何故かシロもベッドに上がってきてメアリーの隣で伏せをしている。
(そうかそうか、シロも頑張ったよなぁ)
とシロの頭も撫でてあげた。
ゆったりと尻尾を振りながらシロは気持ち良さそうに目を細めている。
それじゃあ、今回の成果を確認してみますか。
――鑑定!
メアリー・クルーガー Lv8
年齢 6
状態 通常
HP 34⁄34
MP 22/26(+20)
筋力 20
防御 13
魔防 16
敏捷 26(+5)
器用 13
知力 19
【スキル】 魔法適性(光・風・水・聖) 魔力操作(3)
【魔法】 光魔法(1) 水魔法(2) 聖魔法(1) 風魔法(2)
【称号】 大公の庶子、シロの妹、ゲンの家族、兎の天敵、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
あれっ、年齢が6になってる。
そうか今日が誕生日だったのかぁ。
「メアリー、6歳の誕生日おめでとう……」
そう呟きながら、メアリーの頭を再び撫でてあげた。
レベルも8まで上がったか、身体パラメーターはもう子供のものではないなぁ。
シロのアシストのお陰か、覚えたての風魔法も2まで上がっている。
これは頼もしい。
これならオークだって単体なら楽に倒せるだろう。
シロのスパルタがあったとはいえ、たった数日でよくぞここまで成長したものだ。
(スパルタ:きびしい教育)
それよりも、
――手加減を教えなくては――
いろいろと壊しかねないからね。
この年で手加減をか……、 もう諦めよう。
しかし、こうして数字で見てみるとマジック・リングやマジック・ブレスレットの恩恵って大したもんだね。
マジック・リングに20ポイントのMPを貯めておけるのは、魔法使いにとってはめちゃくちゃ大きい。
今日もあれだけ魔法をぶっ放しても、自分のMPにはほぼ影響が出ないんだからな。
そして、今日 手にいれたマジック・ブレスレット。
+5の恩恵はマジック・リングに比べると少ないようにも見えるけど、とんでもないよね。
俺たちは『女神の加護』があるから、レベルもステータスもガンガン上がるんだけど、
一般の人はレベルアップしたからといって、どのステータスも必ず上がるわけではないんだ。
運よく上がったとしても+1どまり。
『女神の祝福』をもっているともう少し上がりが良いらしいけど、そんな人なんてほとんど居ない。
国に1~2人居るかどうからしい。(女神さま談)
( 女神の加護 > 女神の祝福 : 『女神の加護』は本来 使徒や神獣に与えられるものです)
そうすると、マジック・リングもマジック・ブレスもかなり高価な品ということになるのかな。
これも旅の途中でマクベさんに聞いてみようかな。ダンジョンの事は内緒だけどね。
それから俺はメアリーの寝ている間にガンツのところへ行くことにした。
寝ているメアリーのことはシロにお願いして、ガンツが工房をかまえる裏手の路地に転移した。
「お~い、ガンツいるかー」
するとガンツはすぐにカウンターへ顔を出した。
「おうゲン、またお前さんか。町は近いんじゃがそうそう来れる距離でもなかろう?」
(うっ、確かに)
まぁ、そのうちバレるだろうか……。
ガンツの問いはスルーしておいて、
「今日は槍の手入れを頼むよ」
とメアリーの短槍を渡した。
『はっ? 何を言ってやがる』
そんな目で俺を見ながら、つい先日渡したばかりの短槍を受け取ったガンツだったが。
槍の穂先を見るなり目つきが変わった。
「……お前さんが使ったのか?」
その問いに俺は首を横に振る。
「そうか……。ちょっと待っててくれ、すぐに終わらす」
そう言うと短槍を持って奥に入っていった。
………………
15分も待っただろうか、ガンツは手入れを終えた槍を俺に渡してきた。
「こりゃたまげたなぁ。譲ちゃんには次の得物を準備しといてやろうかのう」
そう言って嬉しそうにニヤニヤしているガンツ。
「その時はまた頼むよ。……で、いくらだ?」
「まだサービス期間じゃ、いらんわい」
「…………」
俺は懐からクナイを1本取り出すと、それをカウンターの上に置いた。
「俺の国に伝わる道具の一つで『クナイ』という。研究材料にでもしてくれ」
そう説明したのだが、聞いちゃいない。ただ食い入るようにクナイを見つめているだけだ。
あ~、職人だからなぁ。
「…………」
仕方ない帰るとするか……。
俺は自室に戻ってきた。
シロとメアリーが飛びついてくる。
「なんだ起きてたのか。身体はどうだ。痛いところはないか?」
「うん、ぜんぜん痛くないよ~」
顔をうりうり擦りつけてくるのでやさしく頭を撫でてやった。
それから夕食の時間まで裏庭へ出ると、俺たちは剣を振り槍を振るった。
そして夕食を終えると、みんなはリビングに集合している。
マクベさんは明日からおこなう行商の工程について話しだした。
俺の方からもいくつか質問をしていき、持っていく物などの最終確認をおこなっていく。
預かる物資や荷物の取り扱いについても話しを詰めていった。
するとここで、ミリーがゴネだしてしまった。
「やだやだやだやだ――――――っ!」
床を転がって、まさに駄々っ子のそれだ。
そうか、みんな居なくなるのは寂しいよな。
かといって、子供を門の外に出すのはかなり勇気が要るだろうし。
そう思っていたところにカイアさん、
「しょうがないわね~、じゃあミリーも行っちゃう? でも言うこと聞かないときは置いて帰っちゃうからね~」
それを聞いたミリーはもちろん、メアリーやシロまでが歓喜をあげて大騒ぎになった。
「…………」 俺
「…………」 マクベ
俺は大丈夫なのか? という意を込めてマクベさんの方を見る。
するとマクベさんは目頭をつまんでため息を漏らしていた。
マクベさん…………乙です。
それからはマクベさんと預かる荷物の検品などをおこなっていく。
あわせて、旅に必要な物資やテントなどもマジックバッグに収めていった。
………………
明日の準備を終え、
「おまたせ、部屋に戻るよー」
「は――い!」
リビングで遊ばせていたシロとメアリーを迎えにいく。
自室に戻るとシロに浄化を掛けてもらい、部屋着に着替えるとベッドの上に座った。
いつものように魔力操作の訓練に入る。
……おやっ?
訓練の途中でメアリーの魔力オーラが少し膨らんだように見えたが。
そっと鑑定をおこない確認してみると魔力操作が4に上がっており、さらに身体強化のスキルを獲得していた。
う~ん、これで町の衛兵でもあしらえるレベルにまで成長してしまった。経験なんかは別として。
ハハハハハッ! 俺し~らない。(汗)
そして次の日の朝。
いつものようにシロがベッドに前足をかけて尻尾を振っているのだが……。
――散歩には行かない。
今日から行商の旅なのだから当然である。
それよりも準備だ。各装備の確認を行っていく。
起きてきたメアリーにも装備を付けさせていく。
厚手の靴下を履かせたら下は革のパンツに革のショートブーツ、上は厚手のニットシャツだ。
クナイを装備したベルト・胸あて・アームガードと装着し、上から真紅のローブを羽織らせる。
その場でくるっと一回りしてもらった。
「…………!!」
なにこの娘 (こ) 、めっちゃかっこいい!
いや、かっこ可愛い!
あっ……、見とれてる場合じゃなかった。
小さな水筒・非常食の硬めの干し肉・トイレの葉っぱなどをマジックバッグに入れさせた。
あとはクナイのレクチャーになるのだが……。
現物があるので手に持って説明していく。
穴掘《あなほ》りに使ったり、木材の移動に楔としても使える。
石垣を登る時の足場にしたり、崖を下りる際は穴にロープを通してとしてハーケンみたいにも使用できる。
あとは刃が付いてるので肉や魚なども切ることができるし、接近戦での護身用にもなる。
投擲にも使えるのだが、それは緊急時における最後の手段として教えておく。
一通りの説明はしたものの、実際に使ってみないと理解するのは難しいかな。
まあ、これから旅にでるのだ。途中で一緒に使っていけば覚えられるだろう。
俺自身も装備を整えて部屋をでた。
各自それぞれ朝食を済ませると、表で待つ馬車の周りに集まっていく。
外へ出てみると大弓を肩にかけたコリノさんの姿が見えた。
シロとメアリーを連れて挨拶を交わす。
コリノさんは片膝を突いてシロをもふっていたが、興味ありげにメアリーにも視線をおくっていた。
それで今回の行商に随行するメンバーなのだが。
・まずはマクベさん。
商会の代表であり、今回も馭者を務めるようだ。
・続いてはカイアさんとミリー。
カイアさんは今回参加する予定ではなかったのだが、子供のわがままに付き合うかたちでミリーと一緒に随行することとなった。
・そしてコリノさん。
今回も一行の護衛として参加するCランクの冒険者。
・あとは俺とシロ、そしてメアリー。
一応、俺も護衛の一人だ。冒険者ギルドを通して依頼を受けている。
以上、6名+シロ +馬の構成だな。
「それでは、皆さん参りましょう!」
マクベさんが馭者台から声を掛けると、馬車がガタゴト動き始めた。
俺たちも馬車に寄り添うように町中を進んでいく。
俺に抱っこされているメアリーはいつもと違う景色に目を輝かせている。
シロはコリノさんの横を軽快に進んでいた。
程なくして馬車の一行は南門を潜り街道へでた。
今日は天気が良いし、順調にいけばヨウラン村まで一気に進むことが出来るだろう。
適度に休憩をはさみながらも一行は南へ進んでいく。
今、マギ村を過ぎたところだな。
これより先は人や馬車はほとんど見かけなくなる。
先ほど休憩をとった際、シロの首から鑑札を外した。
(鑑札と言っていますが、従魔が付けるギルド章です)
そして、出発と同時にメアリーをシロの背に乗せた。
するとどうだ、メアリーを乗せたシロは街道脇にある丘や林の中を縦横無尽に駆け回っている。
メアリーもご機嫌でこちらに向かってブンブン手を振っていた。
(ああっ、この光景って何処かで見たような…………)
山犬に乗った……、 ――もの○け姫!
こんど、お面でも作くってあげようかな……。