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帰宅後、すぐに執事がお父様に近づいて、足早に去っていった。

 

やっぱり忙しかったのに、私に付き合ってくれていたんだ。

 

少しだけ残念そうにしていると、別れ際にそっと耳打ちされた。

 

「詳しいことはエリアスから聞きなさい」

 

多分これは、叔父様のことかな。

 

部屋に戻ってすぐ、私はエリアスに確認した。

 

「そうお父様に言われたんだけど、叔父様のことで合ってる?」

「合ってる、けど……」

 

あっ。もしかして、舟の上での出来事を気にしているのかな。私が答えなかったから。いやいや、まだ答えられないよ!

 

とはいえ、エリアスから叔父様の話を聞かないと。一応、『アルメリアに囲まれて』で叔父様のことは知っているけど、現状では無いに等しい。

 

どうやって聞き出すか……。う~ん。ここは選択肢に頼ろう。

 

1.エリアスの名前を上げなかった理由を話す

2.エリアスに好きだと告白する

3.恥ずかしくて言えなかっただけだと告げる

 

ちょっとちょっと! 明らかに上の二つは却下! 自分で出しておいてなんだけど、前者の理由は『アルメリアに囲まれて』を話すか、バルニエ侯爵の話をする必要があるから、ダメ!

後者の告白は、ずっと先延ばしにしてもらっているけど、理由は前者とほぼ同じだから、どっちにしても……無理。

 

う~ん。最後が一番無難かな。でも、そんな理由で納得してくれるとは思えない。

だって、これはエリアスが好きだということが前提だから。それなら何であの時、言ってくれなかったんだって言われ兼ねないよ。

 

も、もう一度、選択肢を……。

 

「旦那様が仰っているのは、アドリアン様のことだけじゃないんだ」

「え? えーと、それはどういうこと?」

 

うう。なんて間抜けな質問。考え事をしている最中だったからといっても、これはない……。

 

「一緒に来られる、オレリア様とユーグ様のことも含めて、マリアンヌに話すように仰っているんだ」

 

で、ですよね~。その通りです。すみません。頭の回転が遅くて。

 

「やっぱりマリアンヌはユーグ様のこと、気になる?」

「う~ん。確かにそっちも気にならないわけじゃないけど、どちらかというと、叔父様の情報が聞きたいかな。二年前のことを思うと、いとこの二人より知っておきたいから」

「そうか。うん。確かにそうだよな」

 

返事をするというより、自分に言い聞かせているかのようだった。

 

「エリアス?」

「な、何でもない。それよりも、アドリアン様のことだ。マリアンヌはどれくらい、知っている?」

「実はあまり知らないの。会ったことがあるのかだって、怪しいくらい」

 

先ほどのお父様の言葉を思い出して、知らない振りをした。

恐らく、エリアスとお父様は情報を共有している可能性が高い。なら、マリアンヌの記憶を優先することにした。何しろマリアンヌは、叔父様を一切憶えていないのだ。

 

「全く? 確かに旦那様から、アドリアン様はもうかれこれ五年くらい、伯爵邸に来ていないって聞いているから。……そうなるのか」

「うん。というか、それだけ来ていないのなら、憶えていないのも無理はないと思うの。五年前っていうと、九歳でしょう。色々ありすぎて、逆に憶えている方がおかしくない?」

 

私がマリアンヌの体に入ったのは二年前だ。その前にお母様の死があったから、面識の薄い叔父様の存在など、記憶から抜け落ちている方が納得できる。

 

けれどエリアスは、そうは思えなかったらしい。

 

「う~ん。それでもアドリアン様は、印象に残る方だと思う」

「会ったことがあるの?」

 

姪の私だって、まだ会ったことがないのに。エリアスが伯爵邸に来たのは、私が転生した後のことだから、あり得ない話だ。

 

思わず座っていたソファから立ち上がった。すると、落ち着けとばかりにエリアスに肩を掴まれ、再び座らされる。

 

「二年前、一カ月だけマリアンヌの傍を離れていただろう。その時に、旦那様から一度会っておいた方が良いんじゃないか、って言われて」

 

あっ、その時私は部屋で謹慎していたから、エリアスたちが何をしていたのか知らないんだ。まぁ、私の護衛だから、お父様はそう判断したのね。敵の顔をよく見ておくように、と。

 

「劣等感の塊のような人だった。……少しだけリュカに似ている」

「そ、そうなんだ……」

 

リュカのことを嫌っているから、そう思うのでは?

 

「そもそも向こうに行ったのだって、アドリアン様が事業に失敗して金策に困っていたからなんだ。何度も連絡が来たらしく、こっちに来るとまで言われたから、出向くしかなかったんだって旦那様は仰っていた。確かに、来てほしくない人間だからな」

「その話から、どうして劣等感で、リュカに繋がるの?」

「旦那様は領地経営の他に、商会の支援もなさっているんだ。その代わりに、利益の何割かを貰っている。マリアンヌも旦那様もあまり散財しないから、アドリアン様のように失敗しても、金策に困るほどのことまでは起きない」

 

たった二年でウチのことを、ここまで把握するとは……。しかも、私が知らないことまで。

 

優秀過ぎるのも、ちょっと怖いよ、エリアス。お父様や使用人たちが教えたのかもしれないけど……。

 

「れ、劣等感は分かったわ。でも、リュカに似ている要素はないと思うけど」

「……ちょうど来られるから、その時、確かめたらいいよ」

 

エリアスはそれ以上、何も言わなかった。だから、もう一つの案件を尋ねた。

 

「えーと、そうだ。ユーグとオレリアは? お父様からその二人についてもエリアスから聞きなさいって、言われたんだよね」

「……オレリア様のことはともかく、ユーグ様のことはあまり話したくない」

 

何で? それは攻略対象者だから?

マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~

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