テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
20
あまね🍡💠
75
放課後。
授業を終えた湊は、鞄に教科書をしまっていた。
その時。
机の上に置いていた端末が震えた。
「……?」
画面には、一件の通知。
差出人は。
育成プログラム本部。
湊は通知を開いた。
『第一段階修了者へ』
『本日十八時』
『育成プログラム本部、第三訓練室へ集合すること』
『第一段階の総評及び、第二段階について説明を行う』
「第二段階……。」
湊が小さく呟く。
「湊くん。」
顔を上げると、小春が机の前に立っていた。
「今日も育成プログラム?」
「うん。」
湊は端末の画面を見せる。
「招集が来た。」
「第一段階の総評と、第二段階の説明だって。」
「第二段階……。」
小春の表情が、少しだけ曇る。
「今度は何をするんだろうね。」
「分からない。」
湊は端末を鞄にしまった。
「でも、行けば分かると思う。」
「そっか。」
小春は少し笑う。
「頑張ってね。」
「うん。」
湊は鞄を持って立ち上がった。
「じゃあ。」
少しだけ間を置く。
「また明日。」
小春の表情が柔らかくなる。
「うん。」
「また明日。」
湊は教室を出た。
育成プログラム本部。
第三訓練室。
集合時刻の十分前。
湊が扉を開ける。
「失礼します。」
部屋の中には、すでに六人が集まっていた。
九条。
蒼井。
如月。
黒崎。
天城。
そして、輝羅。
「お。」
蒼井が湊を見る。
「朝霧。」
「久しぶり。」
「数日しか経ってないけど。」
湊が答えると、蒼井が笑った。
「確かに。」
九条も軽く手を上げる。
「お疲れ。」
「お疲れ。」
黒崎は椅子に座ったまま、湊へ視線を向ける。
「時間通りだな。」
「まだ十分前だけど。」
「遅れるよりはいい。」
「黒崎はいつからいるの?」
「十五分前だ。」
「早いね。」
その横で、天城が椅子の背もたれに寄りかかる。
「私は二十分前に着いたよ。」
黒崎が天城を見る。
「二十分前に着いて、十分間廊下を迷っていただろ。」
「迷ってないよ。」
「探検してたの。」
「同じ階を三周することを、普通は探検とは言わない。」
「黒崎くんは細かいなあ。」
「お前が適当すぎるんだ。」
蒼井が笑う。
九条も、小さく息を漏らした。
前なら。
湊は少し離れた場所に座っていた。
会話に入ることもなく。
ただ、六人の能力者を見ていた。
けれど今は。
誰も湊を見て、無能力者が来たとは思わない。
湊も、能力者たちの中へ入ったとは思わなかった。
空いている椅子へ向かう。
その途中。
「朝霧。」
如月が声をかけた。
「何?」
如月は、湊の顔をじっと見ている。
「……。」
「どうしたの?」
「少し変わった。」
「え?」
「何が?」
如月は少し考える。
「顔。」
「顔?」
「うん。」
「前より。」
また少し考える。
「人がいる顔。」
「……どういう意味?」
「分からない。」
「分からないの?」
「でも。」
如月は湊を見つめたまま続ける。
「前は、一人でいる顔だった。」
湊は何も言えなかった。
如月は、それ以上説明しない。
「如月。」
黒崎が声をかける。
「本人が困っている。」
「そう?」
「そうだ。」
「ごめん。」
如月は素直に謝った。
「いや。」
「大丈夫。」
湊は椅子に座る。
その様子を、輝羅が黙って見ていた。
「何?」
湊が聞く。
「別に。」
輝羅は腕を組む。
「お前も少しは慣れたみたいだな。」
「何に?」
「ここにいることに。」
「……そうかも。」
湊が答えると、輝羅は少しだけ口元を緩めた。
時計の針が十八時を指す。
扉が開いた。
日下部が入ってくる。
七人の空気が変わった。
「全員いるな。」
「はい。」
日下部は七人の前に立ち、一人ずつ顔を見る。
「九条。」
「はい。」
「蒼井。」
「はい。」
「如月。」
「はい。」
「黒崎。」
「はい。」
「天城。」
「はい。」
「神童。」
「ああ。」
「朝霧。」
「はい。」
日下部は端末を机に置いた。
「第一段階。」
「基礎適応訓練は終了した。」
七人が黙って話を聞く。
「最初に言っておく。」
「第一段階に、合格も不合格もない。」
湊が日下部を見る。
「お前たちは能力も違う。」
「考え方も違う。」
「得意なことも、苦手なことも違う。」
日下部は続ける。
「同じ基準で順位をつける意味はない。」
「国が必要としているのは、同じ能力者ではない。」
「自分に何ができるのかを理解し。」
「それを正しく使える人間だ。」
部屋の中が静かになる。
「第一段階で、お前たちはそれぞれの能力と。」
「それぞれの役割を学んだ。」
日下部は九条を見る。
「九条。」
「はい。」
「お前の念力は、力の強さだけで判断するな。」
「一度に何を動かせるのか。」
「どこまで正確に扱えるのか。」
「そこを理解しろ。」
「はい。」
次に、蒼井を見る。
「蒼井。」
「はい。」
「お前の超怪力は、救助にも破壊にも使える。」
「力を出すことより。」
「力を止めることを覚えろ。」
「はい。」
「如月。」
「はい。」
「氷は、周囲の環境まで変える。」
「目の前だけを見るな。」
「全体を見ろ。」
「はい。」
「黒崎。」
「はい。」
「お前は慎重だ。」
「それは長所でもある。」
「だが、判断が遅れれば。」
「助けられるものも助けられない。」
黒崎は少しだけ目を伏せる。
「はい。」
「天城。」
「はい。」
「感覚だけで成功したことを、実力だと思うな。」
「なぜ成功したのか。」
「自分で説明できるようになれ。」
「はーい。」
日下部が眉を寄せる。
「返事。」
「はい!」
天城が姿勢を正す。
蒼井が笑いをこらえた。
「神童。」
「ああ。」
「お前の雷は強力だ。」
「だが、一人で全てを解決しようとするな。」
「周囲を信じろ。」
輝羅は少し黙る。
「……分かってる。」
「分かっているなら、行動で示せ。」
「ああ。」
最後に、日下部が湊を見る。
「朝霧。」
「はい。」
「能力がないことを、自分から外れる理由にするな。」
「お前に見えるものがある。」
「お前に聞こえるものがある。」
「それを自分で見失うな。」
湊は、真っ直ぐ日下部を見る。
「はい。」
日下部は七人を見渡した。
「課題は多い。」
「まだ、チームと呼べるほどではない。」
天城が小さく呟く。
「厳しいなあ。」
「何か言ったか。」
「何も言ってません。」
日下部は続ける。
「だが。」
「第一段階の最終訓練で、お前たちは一人ではできないことを。」
「七人で成し遂げた。」
湊は周りを見る。
九条。
蒼井。
如月。
黒崎。
天城。
輝羅。
六人の能力者と。
一人の無能力者。
そうではない。
ここにいるのは。
七人。
「よって。」
日下部が告げる。
「七人全員。」
「第二段階へ進む。」
誰も声を上げなかった。
それでも、部屋の空気が少しだけ緩む。
蒼井が息を吐いた。
「よかった。」
九条も頷く。
「まあ、そうなると思ってたけど。」
黒崎が九条を見る。
「今の発言は余計だと思う。」
「冗談だよ。」
天城が笑う。
「第二段階かあ。」
「何するんだろう。」
日下部が机を軽く叩いた。
「静かにしろ。」
七人が前を向く。
「これから、第二段階について説明する。」
日下部が端末を操作する。
前方の画面に文字が表示された。
『第二段階』
『実地適応訓練』
「実地……。」
湊が呟く。
「第一段階では、訓練施設の中で基礎と連携を学んだ。」
「第二段階では、施設の外へ出る。」
七人の表情が変わる。
「ただし、具体的な訓練内容は今は説明しない。」
天城が手を上げる。
「何でですか?」
「事前に内容を知れば、訓練にならないからだ。」
「抜き打ちってこと?」
「そう思っておけ。」
「ええ……。」
日下部は部屋の扉を見る。
「第二段階から、お前たちを担当する教官が増える。」
扉が開いた。
一人の女性が入ってくる。
柔らかな雰囲気。
穏やかな表情。
それでも、その場の空気を自然と引き締めるものがあった。
湊は、その女性に見覚えがあった。
以前。
国から復旧支援の要請が入った朝。
日下部の隣に立っていた女性教官。
富山美鈴。
避難訓練へ向かうメンバーを担当していた人物だった。
「富山教官!」
天城が明るい声を上げる。
富山は微笑んだ。
「お久しぶりです。」
黒崎が小さく頭を下げる。
「よろしくお願いします。」
如月も富山を見る。
「また会った。」
輝羅は腕を組んだまま、軽く会釈した。
富山は七人の前に立つ。
「改めまして。」
「富山美鈴です。」
「第二段階から、皆さんの訓練を担当します。」
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします!」
七人の声が重なる。
富山は続ける。
「私の能力は。」
「シールドです。」
「シールド……。」
九条が小さく呟く。
蒼井も富山を見る。
湊も、その能力を聞くのは初めてだった。
避難訓練へ向かった四人は、驚いた様子を見せない。
富山は手のひらを前へ向けた。
「人や物を、外からの衝撃から守る壁を作ることができます。」
「私の役目は。」
「皆さんを守ることです。」
その言葉には、立っているだけで安心させるような強さがあった。
「ただし。」
富山の声が、少しだけ変わる。
「第二段階では、私が全てを守るわけではありません。」
七人が富山を見る。
「自分を守ること。」
「仲間を守ること。」
「そして。」
「守れない状況で、何を選ぶのか。」
部屋の空気が、再び引き締まった。
日下部が富山の隣に立つ。
「第二段階。」
「実地適応訓練。」
日下部は七人を見渡した。
「今までとは違う。」
第27話 七人 完
コメント
1件
うわ……27話、めっちゃよかったです。第一段階が終わって、それぞれに日下部教官がフィードバックをくれる場面、一人ひとりに向き合ってる感じがちゃんと伝わってきました。特に湊くんへの「能力がないことを理由にするな」って言葉、刺さるなあ。無能力者だからこそ見えるものがあるって、湊くんの存在意義を認めてくれてる感じがして。 富山教官も加わって第二段階が始まる……外に出るって緊張するけど、七人が少しずつ“チーム”になってきてる空気が好きです。湊くんが「ここにいるのは七人」って思えた瞬間、じんわりきました。続きすごく気になります!頑張れ、七人!