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2XXX年、人類は新たな次元へと進化を遂げた。
機械技術の発達、宇宙との交信、そして――――。
「あ、あの……鯨井くん……? て、店長が君に……もうクビだって伝えてって……。いや……僕はホント、伝えることを頼まれただけだから……ご、ごめんね……!!」
そう言うと、バイト仲間で一緒に汗水垂らして頑張ってきたバイトBは、逃げるように俺の前から立ち去った。
「あーあ……まーた “クビ” だよ。んなビビらなくても、怒ったりしねぇっつーの」
一緒に汗水垂らして……とは言ったが、まあ、せいぜい一ヶ月と少しの間柄な訳で、俺に対して受けた印象を変えられる時間なんてものはなく、俺もまた、逃げるように制服を置き去り、その場から去って行った。
「半月分の給料だけ入ってくれればいいか……」
そんなことをボヤきながら、照らされる太陽にじんわりと焦がされ、ポケットに仕舞い込んでいた三百円玉を取り出し、少し乱暴に自動販売機に突っ込んだ。
二百五十円まで値上がりされた缶コーヒーを、今では誰も文句を言う奴なんざいない。
太陽が人体を焦がす空には、かつて人類が「すごい!アレはUFOかもしれない!」と夢に見ていた宇宙の船が往来を見せ、人までもが小型飛行車に乗って移動している。
っつーか、本当にUFOなんかに驚いていた過去なんてあったのかよ……。
そして、未だに数少ない人種……これもきっと、いつかの時代では珍しくもなんともなくなるのだろう……。
それが俺、バイトをクビになった理由も “コレ” だ。
「うっ、うわぁーーー!!!」
空から、小型飛行車を操縦していた一人の男が、機械トラブルを起こしただろう上空から落ちてきていた。
叫んだところで、下で歩いている連中も、別段驚くことも、逃げ惑うこともない。
何故なら、あの落ちてくる男も、それら被害に遭うだろう連中も、防護フィルターが働き、人体に被害が出るほどの事故など起こらないからだ。
でもまあ、故障に落下、四肢は無事だろうが、一応事故を起こしてしまう、あの男の心には、多少の傷とやらは残ってしまうのだろう。
「仕方ねぇ……」
ゴッ!!
「え……なんともない……? って、飛行車を素手で持ってるのかい!? 君、もしかして……『UT(ユニバーストランス)変異体』なのかい……!?」
俺は、落ちてきた何百キロもある小型飛行車を、片手で受け止め、中の男は顔を青褪めさせながら俺に訊ねた。
さっきの話の続きだが、この男の反応が証明にもなるだろうが、俺は一応、この世界では未だ物珍しい『UT変異体』と呼ばれる人種。
「あぁ、そうだよ。このオンボロ、さっさと修理に出しちまいな。アンタの肉体にある防護装置は作動してんのに、本来、義務化されてるコイツの防護装置は開いてなかった。中古の安モンでも買ったんだろ」
「ぐ……。そ、そうだ……。ありがとう……すぐに修理に出して、他の部分も見てもらうよ……」
路肩に丁寧に置き、俺はその場を去る。
中に乗っていた男は、安全だったとは言え、苦しそうな顔を浮かべさせていた。
個人で小型飛行車なんざ、実際高額すぎて、あまり乗っている人間なんていない。
それを、中古で手に入れたんだろう。修理と言えど、相当な額になるだろう。
俺もまた、男と同じような顔をして、いつもの家路へと着いていた。
「テメェ……すぐにクビになりすぎなんだよ!!」
「うるっせぇな!! UT変異体なんだから仕方ねぇだろうが!! 緊張してたら掴んだだけで物がぶっ壊れちまうんだよ!!」
「そんな肝っ玉の低さは、UT変異体のせいじゃねぇ、テメェの金玉が小さいからだろうが!! さっさと次のバイト先を探して来い!!」
そして、ピシャリと扉を閉めてしまった。
「クッソババア……!」
元は、UT変異体実験で、俺のように成功し、特殊な力を持った子供達を育てていた専門の育児家だったが、老衰によりその仕事を辞め、今では、ババアの憧れだったと言う農園を背に、自然溢れる古風な家で暮らしていた。
俺は……そこで居候生活をしている。
「こんな時代に……バイトなんて……早々ねぇよ……」
特に、UT変異体の俺なんかを雇ってくれる仕事なんて、一握りすらあるかなんて分からない。
しかし、ババアにああ言われてしまっては、戻ることもできず、俺は再び街へと繰り出した。
「ハァ……もう夕方じゃねぇか……」
ぐぅ〜っと、情けない音が腹から飛び出る。
公園の椅子に座り込み、ホームレスのおっさんと横並びになりながら、ボーッと空を眺めていた。
ゴォン!!!
「嘘だろ……!!!」
あとそうだ、言い忘れてたことがもう一つ。
この世界は、宇宙との友好的な交信の末、一つにまとまることになるのだが、人類……いや、生命が存在する限り、神は争いを止めてはくれないのだろう。
「グォォォォォォォォ!!!!!」
「おい、おっさん!! さっさと逃げろ……!!」
おっさんは、酒瓶を手から落とし、膝をガクガクと震わせながら身動きが取れなくなっていた。
その様子に、アルコールの強い臭いを嗅ぎ付けたのか、”ヤツ” はおっさんに目を向ける。
「クソが……!!」
ガッ!!
俺は咄嗟に、”ヤツ” の腕と呼べるのか分からない、何の物質で出来てるか不明な、頑丈なのに少し柔く感じる長い筋肉体を、自身の腕で受け止める。
「この力……防護フィルターぶっ壊されんぞ……! ここは俺が抑えるから、早く逃げろ!!」
俺の声にハッとしたのか、おっさんは直様その場から去って行ってくれた……が。
ハハ……俺も生きて帰れっかな……。
「グォォォォォォォォ!!!」
獲物を仕留め損ねた怒りからなのか、はたまたただの咆哮なのか分からないが、”ヤツ”は叫び声を上げる。
どうやら、知能は低いらしい。
「知恵で……勝てるか……? いや、でも、俺も馬鹿なんだよなぁ……」
コイツの正体は、”異世界からの侵略者” だ。
続