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侵略者たち

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侵略者たち

2 - 001 失敗作と魔法使い

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2024年11月09日

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 世界平和が為され、宇宙との平和な公約も為された現代社会において、人類には更なる敵が現れた。
 それは、”異世界からの侵略者” 。


 基本的に知能を持たないモンスターのような相貌で、その皮膚や構造は未知で、宇宙の技術を持ってしても、対抗できるものは限られていた。


 そして、その対抗策として宇宙、人類が意を決して託した存在こそが、新人類、宇宙のエネルギーと人類の身体を不可能させた “UT変異体” だった。


「でも俺ァ……失敗作だから……」


 基本的なUT変異体は、侵略者たち襲来の際に真っ先に向かえるよう、UT特殊部隊に配属される。

 しかし、中には俺のような “失敗作” がいる。

 それは、宇宙装備を纏えず、まともな戦力として認められなかった連中だ。

 技術班からの唯一の優しさか知らないが、失敗作には地上で生きていける名前を与えられ、普通に生活できるように支援がされる。

 俺の場合、ババアが横入りして、「コイツは私が預かるわ」なんて言われて、こんなバイト三昧みたいな暮らしになっちまってるけど……。


「本当だったら……俺も……!」


「グォォォォォォォォ!!」


 奇声を発する未知のモンスターを前に、俺は苦い顔を浮かべさせながら歯を食いしばる。


「宇宙武装がなくても……俺だって……!」


 ゴッ!!


 次の瞬間、世界は赤く歪む。


「なん…………」


 反応できなかった。いや……地面から生えた触手……?

 俺の眼球はモンスターにぶん殴られ、脳震盪を揺さぶられて目の前が血の色に染まる。


 やっぱり俺じゃ……勝て……。


「ん?」


「よいっしょ! うげ……気持ち悪……」


「なんだ……? 幻でも見てんのか……?」


 未知なモンスターが奇声を上げているドロドロとした口の中から、怪訝そうな顔の女がズルズルと出てくる。


「まあでも、成功したみたい。さっすが私だ」


「なんだ……? この女は……?」


 意識が朦朧とする中で、視界に映る妙な女は、モンスターを前に太々しく服をパタパタと叩きながら、倒れ込む俺の前にゆっくりと歩を進める。


「あちゃ〜、私のせいで死にそうだね。ごめんね〜」


「グォォォォォォォォ!!!」


 モンスターに顔はないからよく分からないが、なんとなく、さっきより怒ってそうな声で女の背後に迫る。


「お、おい……!! 危なっ……」


「うるっさいなぁ」


 ゴォン!!


 女は、空間からスッと長い杖を出すと、青白い光線を放出させ、モンスターを一撃で仕留めた。


「ごめんね、君。たぶん、私がアイツを怒らせちゃったせいで死にそうなんだよね。すぐ治してあげる」


 そう言うと、今度は緑色の優しい光を俺の身体に纏わせると、重症だった傷は、みるみる内に治っていき、徐々に痛みも引いて行った。

 そんな、脳が追い付かない状況下だが、まず最初に聞くべきは理解していた。


「あ、ありがとう……。助かった……。で、アンタ……名前は……?」


「私の名前? まあ……教えてもいいけど……。ルリアール=スコート。上級魔法職のウィザードさ」


「ルリ・R・スコート……? ウィザード……?」


 なんだ……? R型……ってことは、俺よりも後に実験させられた奴ってことか……?

 侵略者に合わせて、攻撃方法も進化してる……俺の知らない攻撃があってもおかしくはない……。


「私は名乗ったのだ。お前はなんと言う名だ?」


「鯨井・LU・優。まあアンタには、こう言った方が分かりやすいか……。L型01号……だ」


「L型……なんだ……? 1号? お前、機械なのか?」


 は……? コイツ……なんでコレで伝わらないんだ……?

 もしかして……俺と同じ “失敗作” ……?

 実験のショックで、記憶が飛んじまってるとか……。能力は……すげぇんだけどな……。


「あ、あぁ。半分機械みたいなモンだ。型番の名だよ。お前のことは……ルリ……とでも呼べばいいか?」


「ルリ……。ふっ、そうだな、構わんぞ」


 そう言うと、不思議なルリという女は、妙にニッコリとしながら、まだ地に腰を付けてる俺に手を伸ばした。


「丁度いい。私は、こちらの世界に来たのはいいが、行く当てがないのだ。L型……いや、お前はどう見ても人間だし、型番の名は似合わん。優、お前の家に住まわせろ」


「お、おぉ……」


 なんだかホッと、心が温かくなるものを感じていた。

 しかし、次の瞬間にババアの顔がチラついて、俺は瞬時に青褪めた。


「は、ハァ!? 俺の家!? む、無理無理無理!! 絶対無理!! 俺が許しても……クッソ怖えババアが許さねぇよ!!」


「おかしな奴だな。じゃあ、お前はいいのだな? では、そのババアと言う人物に会わせろ」


「わ、分かった……」


 本当に……どこまでも妙な奴だ……。


「あ、あと、ババアって言ったら殺されるから、船橋さんか、緑さんって呼んでくれ。俺が殺される」


「緑か。良い響きだ。そう呼ばせてもらおう」


 その後、家に案内する道中、俺はこの、記憶喪失で妄想癖な女、ルリの厨二病痛々しい物語を永遠と聞かされた。


「私はこう見えて、世界最強の魔法使いなのだよ」

「転移魔法を何度か試したが、異次元空間にある異世界に行くことは叶わなかったのでな。試しに、異世界に送られるモンスターに飲み込まれてみたのだ」

「アイツ、相当怒っていただろ? それは、私が元の世界で奴を拘束し、無理やり胃の中に入ったからなんだ!」


 と、ルリの妄想話は止まることを知らない。

 そして、先程の光線も、回復も、全て “魔法” だと言い張るが、どう考えても、最先端のUT技術だ。

 型番は分からないが、名前からして、R型……俺のL型よりも六つも後の世代ってことになる。

 iPhoneで言えば、6から12の差があると言うことだ。


 そして、ババア、こと、船橋・LU・緑の目の前で、この女は堂々と宣言をした。


「私を住まわせろ。きっと役に立つぞ」


 ……と。

 俺なんかがそんな口を聞けば、何度殴られ、何日家の中に入れてもらえないことか……。

 しかし、ババアは目を細めると、「じゃあ、何ができるんだ?」と、試すようにルリに告げる。

 その言葉に、ルリはニヤリと杖を取り出し、


「水魔法! ムゲンウォーター!」


 じょぼじょぼじょぼじょぼ……。


 杖の先端からは、水がじょぼじょぼと垂れ流れる。


「水を始め、火、風、雷、私は様々な魔法を扱える。つまり、生活に必要なものが全て無料で使い放題だ」


 その言葉に、ババアは二つ返事で受け入れた。


「お、おい!! 性能に差があり過ぎんだろ!! なんだその杖!! 宇宙装備じゃねぇのか!?」


 空き部屋に案内すると、なんだかんだ疲れていたのか、すぐに寝てしまったルリを横に、俺はババアに苦悶の声を上げる。


「どうなんだろうね……。正直、私がUT技術に関わっていたのは、アンタのL型世代が最後……。それ以降のことは何も知らない……。宇宙技術がどこまで進歩して、どれ程の犠牲を出してるか……分からないよ……」


 そう呟いたババアの目は、いつもより、少しだけ寂しそうに見えた。


「ほら、アンタは火も水も出せないんだから、明日も朝からバイト探してくるんだよ!! さっさと寝な!!」


 そう怒号を吐き捨てられたが、俺はなんだか言い返す気にはなれず、そのまま部屋へと静かに戻った。


 ババアの名は、船橋・LU・緑。

 しかし、UT変異体ではなく、その名を持つのは、L型の人間を育てていた証のようなものだ。

 他の奴らは……今頃、世界の役に立ってんのかな……。


 そんなことを考えてる内に、俺は静かに眠っていた。


 ――


 鯨井・LU・優(型番:L型01号)

  能力:怪力


 ルリ・R・スコート

  能力:森羅万象の魔法使い


 船橋・LU・緑

  元UT変異体育成士(引退済み)

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