「何やってんだよバカ野郎!」
王馬からそんな言葉が出るなんて思わんかった。そんな乱暴な声が出るなんて思わんかったのじゃ。
「ふぅ…う…」
ウチは訳もなく泣き出してしまった。王馬にこれだけ叱咤されても、まだ自分の手で自分を殺したい気持ちがあるのじゃ…。
「ウチ、誰を信じたらいいのかわからんくなってしまった…。」
いつもなら、王馬なぞにウチの気持ちを吐露することなんてないだろう。じゃが、今はこの男に気持ちを沈めてしまいたい…。
「ゆ、友人を疑うことなんてしたくないのじゃ…。じゃが、誰かに殺されるかもしれんと思うと怖いんじゃ…。」
王馬はウチの話を黙って聞いとるだけじゃった。いつもと違うのは、奴の目の奥が嘘ではなく本当だということじゃ。嘘つきでない王馬を初めて見た。
「誰かに殺されたり、ずっと怖がってるくらいならば、いっそウチの手で…。」
「そっか。」
話終わった後の王馬の返しはなんだか冷たく感じた。
「俺はさ、夢野ちゃんの気持ちなんて知らないよ。」
ぴしゃり。奴に何かの扉を閉められたような音がした気がした。
「たださ、俺は普段から夢野ちゃんをよく見てる。よく見てた俺から言わせてもらうと」
「俺、君には生きててほしいんだ。 」
真っ直ぐな、言葉だった。王馬からの言葉は、お世辞には感じられない。
「関わりがあるのはほんの短い時間だけどさ、夢野ちゃんには幸せになってほしいって思うんだよね。」
ウチは涙ぐんだ目で王馬を見つめたが、王馬はそっぽを向きながら話しているようだった。目が合わん。
「だから、夢野ちゃんの気持ちなんて無視する。俺のエゴで、君には幸せに生きてもらわないと困るんだよね。」
王馬からの言葉とは思えん驚いた気持ちと、なんだかむず痒い気持ちでいっぱいなのじゃ。
「そんなキザなセリフを言う時くらい、ウチの方を見ながら言ったらどうなのじゃ!」
ぐちゃぐちゃになった気持ちを、王馬に無理やりぶつけた。肩を掴み思い切りこちらを向かせる。
「え、」
王馬はウチ以上に涙で顔をいっぱいにしていた。奴は急いでその顔を隠した。
「夢野ちゃん、俺すごい心配したんだよ。」
「最近の笑顔も、嘘ついてるんでしょ。」
ウチの笑顔も、真の嘘つきにはお見通しのようだったのじゃ。
「王馬…お主、ウチが幸せに生きれるようにと言ったな。…ウチはもう、幸せになんて生きれる自信がないのじゃ…。」
王馬は顔の涙を袖で一気に拭った。その顔には、いつものニヒルな笑顔があった。
「俺が幸せにしてあげるよ。」
奴はそう言って、ウチの唇を奪った。
「!!?」
久しぶりに感じたときめきが、そこにはあった。
王馬は結局、ウチを置いて逝ってしまった。「幸せにするって言ったじゃろ…?」
裁判中の言葉が引っかかる。
「俺は好きだけどね。」
好き…だったのじゃろうか?あれは百田のセリフだとはわかっている。ただ…。
「あの時、もしかして中にいるのは王馬なんじゃと期待してしもうた…。」
あれが王馬からの言葉ならどんなに良かっただろうか。今すぐに抱きしめて、次はウチからキスをしたのに。
「王馬…ウチを置いていかないでくれ…。」
嗚咽ともとれるように泣いた。
ひとしきり気持ちを吐き出した後、ウチは涙を袖で一気に拭った。
「ウチはもう泣かない。見ていてくれ、王馬よ。」
コメント
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切ない愛すぎる、、王馬も根っからの悪人ではない、、いや狛枝や塩と違うしな、幸せになって欲しい