【12】冬が終わる街角 夜明け前の青は
「yaくん、頼んでたプログラム組めた?」
「まぁ…あともうちょいてとこ」
yaはパソコンのモニターを見せる。
jpは数字とアルファベットの長い長い羅列に笑った。
「ほんとすごいなー俺全くわかんないよ笑。できたらテストしよ」
jpはクリエイターとしてPCゲームを作る会社を立ち上げた。
会社と言っても、メンバーはjpとya、urの3人。
事務所はyaとurの家。
駆け出しの小さな会社で、配信開始もまだまだだ。
「jpさん、チェックよろしく」
「オッケー!今行く!」
楽曲やデザイン、アニメーションを担当するurが声をかける。
urはそれ以外にもyaからプログラミングを学び始めており、寝る間も惜しみ努力してくれているようだ。
「はぁ!?またエラー起こしてんじゃん!」
yaが叫んだ。
椅子ごと倒れそうな程仰け反り、ジタバタしている。
「くっそわかんねー!!ttなら、、、ぁ」
yaとurは、しまったという顔でjpを横目に見た。
jpから突然、『ttと別れた』とだけ聞かされて以来、この1年触れないようにしてきたのに。
そんな二人の空気感を察したjpは唾を飲み込んだ。
「ぅん…ttならわかるかもね」
「でもyaくんもできる!目覚せtt!」
jpが明るく笑い拳をあげた。
それを見たyaとurは、そっと胸を撫でおろすとそれぞれ気合いを入れた。
「おっしやるぞー!」
「おー!」
…
「ただいまー」
白い賃貸マンションの一室、真っ暗で誰もいない部屋にjpは帰宅を報告する。
ttが出て行き(正確には追い出し)ひとりになってもここに残っていたjp。
それなりに仕事が充実しているだけに、部屋に帰ったこの瞬間はとても寂しくなる。
玄関には黄色の傘と小さめの長靴。
洗面台には2本の歯ブラシが並ぶ。
ベッドのヘッドボードの上には眼帯が残されていた。
もしかしたら。
そんな思いで片付けられないまま1年が経とうとしていた。
一度だけ街で見かけたttは相変わらず綺麗だった。
高邁さと高潔さが滲み出る大きな目も、無邪気にハネた髪も、いつかの黄昏と同じ黄金色。
追いかけたかった。
手を引き抱きしめ、肩に顔を埋めて泣きたかった。
驚いた顔を見せながらも包み込むような笑みで
「俺はここにおるからな」
って抱きしめてくれる気がした。
でも行っちゃいけない。
俺は隣にいちゃいけない。
これが俺の、ttへの愛だから。
…
jp
お前がいれば怖いもんないわ
ずっと一緒におろうな
もうひとつ、とてつもなく寂しくなる瞬間がある。
幸せな夢から醒め、隣を見てもttがいない事に気づくこのとき。
窓に映る夜明け前の青はjpの心にじわりと染み込んでくる。
どうしようもない喪失感にかつての弱さが手を伸ばしてくるようで恐ろしい。
命を断ちたいとすら思う。
jp!戻ってこい!
呼ばれた気がして窓の外を見れば、黄金色の光が青を塗りつぶしながら太陽を連れてきた。
脆さを全て暴けだし、弱さを包み込む光。
光に反射する涙を拭うと、眼帯を手に取りそっと胸に当てた。
…朝だ。
今日もきみがいない世界を生きよう。
コメント
4件
やっぱり捨てられない眼帯😭ウワァン おかえり!って聞こえてきそうでだけど返って来ない切ない背景と、全てを包み込むような包容力ある夜明け前の青も好き💙
🦖さんの想いが言葉1つ1つから伝わってきて辛い😭やっぱりまだ全然引きずってるんですね、、、こういう可哀想な感じ結構癖です😇💗