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「映山紅さんはそう言うけど、結婚とか言われても現実感ないんだよね」
いきなり胸元をつかまれた。
「現実感ない? 真剣に結婚を考えてないなら避妊くらいしろよ!」
問題は結婚じゃなくてそっちの方? もしかして最近女子たちの視線が冷たくなったのは――
「女神には大学で哲学を学びたいという夢があるそうだ。妊娠したらその夢が叶わなくなるのは分かるよな? おまえに女神の夢を奪う権利があるのか!」
彼女が避妊しなくていいと言っているからといって、僕が彼女と避妊なしで行為しているとは限らない。でもそんな正論が通じる状況ではないようだ。女子たちが数人教室の反対側に集まって僕らの方を見ている。彼女たちがリョータに頼んで僕に意見させたのだと知った。
「セックスするなとは言わない。ただするなら避妊しろ。分かったか!」
「分かった。避妊する」
やっと僕の胸元は解放された。
「約束破ったらただ絶交するだけじゃ済まさねえからな!」
リョータは捨て台詞を残して、忌々しそうに女子たちの方に歩いていった。リョータと入れ違いで彼女が戻ってきた。
「最近女子同士で話すこともあるの?」
「話すというか、困ったことがあれば何でも話してねって言われてる。みんな親切だな。世の中捨てたもんじゃなかった。今は死ななくてよかったと思ってる」
「よかったね」
という言葉とは裏腹に、またため息をついてしまった。本当はもっと何か言うべきなのだろうけど、言ったところで事態が少しでも改善するわけでもない。
最近あきらめ癖がついた気がするけど、よく考えたら僕のあきらめ癖は彼女と出会う前からの筋金入りのものだった。