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夏休みが始まった。お昼過ぎから僕の家に彼女が来ている。
「今夜、隣町で夏祭りをやるそうだ。行ってみないか?」
「また急だね」
「行くのか? 行かないのか?」
「行くけどさ……」
どうせ彼女の言う通りになるのだから僕の了解を取る必要はなさそうだけど、形だけでも了解を取るという作業が彼女には必要らしい。
「ボクも浴衣を着るから夏梅も着てきてくれ」
「浴衣? たぶんない」
「ないなら仕方ないけど……」
一階にいた母に一応聞いてみた。
「今夜夏祭りに行くんだけど、うちに浴衣ないよね?」
「祭りくらいどんな格好で行ったっていいでしょ」
「映山紅さんが着てほしいっていうからさ。なければいいんだ」
「映山紅ちゃんが!? お父さん!」
最近、母は彼女をちゃん付けで呼ぶ。僕がいないときにも彼女が家に来て仲良くなったそうだ。
「任せとけ!」
父が車で飛び出していった。なんなんだと思ったら、一時間もしないうちに母が二階に上がってきた。男物の浴衣と下駄を手に持って。
「さっき父さんがいきなり飛び出していったのはそれを買いに……?」
「映山紅ちゃんの願いなら叶えないわけにいかないものね」
彼女の願いならなんでも叶えてくれるわけか。彼女がそれ以外ダメと言ってると言えば、二十万円以上するスマホでも買ってくれるのだろうか? 今度試してみよう。