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この世界で「わかってくれる人」なんていないって、ずっと思ってた。
そんな気持ちを、少しだけ変えてくれたのが——
「雪、積もるかな。」
冬の放課後。校舎裏のベンチで、凛は誰に話すでもなくつぶやいた。
「積もったら、うれしい?」
声がして振り向くと、翔太が立っていた。
今年も同じクラス。翔太とは幼馴染で、なんでも言い合える関係だった。
「…雪、嫌いじゃないよ。」
「俺も。」
それだけ言って、翔太は隣に座った。
しばらく二人とも黙ってた。
誰もいない校庭、吐いた息が白くなる。
静かだった。でも、なんとなく心地よかった。
凛が先に口を開いた。
「翔太、さ…変わってるって言われない?」
翔太はちょっとだけ笑った。
「言われる。『女っぽい』とか、『男らしくない』とか、散々。凛は?」
「私は『サバサバしてる』とか、『女らしくない』とか。結局、同じだよね。」
小さく笑い合って、また風の音だけになる。
そして凛が、ふと呟いた。
「……私、女の子が好き。」
翔太は驚かなかった。むしろ、少し目を細めて、うなずいた。
「俺も、男の子が好き。」
言葉が雪みたいに、ふわりと降りてきた。
誰にも言えなかったことが、不思議とこの場所では言えた。
そして、その“誰にも言えなかった想い”が、自分だけじゃなかったことに、少しだけ救われた。
「ねえ、翔太。」
「ん?」
「好きな人、いる?」
翔太はちょっと考えてから、小さくうなずいた。
「うん。同じクラスの男子。名前は、言わないけど。」
「私も。部活の先輩。」
ふたりとも、想いは叶わないって分かってた。
だからって、止められるわけじゃなかった。
「言わないでおくね、好きな人の名前。…でも、翔太には話したかった。」
「ありがとう。俺も、凛には話せてよかった。」
そして、翔太がぽつりと言った。
「ねえ、もし俺たちが普通だったらさ、『お似合い』とか言われてたのかな。」
「言われてたと思うよ。どうせ勝手に『いい雰囲気』とかね。」
ふたりして、少しだけ笑った。
「でも、私たち親友だから。」
「うん。親友。絶対に。」
それは“恋”とは違うけど、
“理解しあえる人がいる”っていう、すごくあたたかい何かだった。
チャイムの音が遠くに響いて、校舎が夕焼けに染まり始めた。
「またここで喋ろう。誰にも言えないこと、たくさんあるし。」
「うん、また来る。」
握手もしない、ハグもしない。
ただ、心が並んで歩いているような感覚。
そしてその夜——
凛は、片想いの先輩に手紙を書いては、破った。
翔太は、想いを寄せる男の子の名前を、スマホのメモにだけ残した。
ふたりとも、報われない恋の中で
「でも、自分を嫌いにならないでいられる居場所」を
やっと見つけたばかりだった。
外は、静かに雪が降りはじめていた。