「そっか……ちょっと話したいことあったからさ」
今日は家に帰って、いろいろパン教室のことをゆっくり考えたかった。
「慧君、あの……良かったら今話してくれない?」
「い、今? ここで?」
「うん。パン教室まで、いつ時間作れるかわからないし……でも、慧君の話も聞きたいし。ごめん」
私は両手を合わせて謝った。
「わかった……じゃあ言うね。本当は、もっと違う場所で言いたかったけど」
慧君は、ちょっと困った顔をした。
そして、1度深く息を吸って……ゆっくりと吐いた。
そ、そんなに緊張することなの? 改まって何を言うつもり?
まさか、店を止めるとか?!
嘘、もしかして結婚するとか?!
いやだ、私までドキドキしてきたよ。
「雫ちゃんはさ。今、好きな人いるの?」
「ん? えっ……と……」
い、いきなり予想もしなかった質問が飛び出して驚いた。
す、好きな人って……
慧君がそんなことを聞くなんて、いったいどうしたの?
「いや……いいんだ。好きな人くらいいるに決まってるよね」
そう言って、下を向いた。
「慧君、どうしたの? 大丈夫? さっきから顔色悪くない?」
いつも穏やかな慧君がこんなにもぎこちなくて、何だか本気で心配になるよ。
「大丈夫だよ。別に体調は悪くないから……」
「そう……なんだ。だったら良いんだけど……」
こんな感じのやり取り、慧君と出会ってから初めてだよ。
それにしても……
今の慧君の瞳、いつも以上に潤んでいて、思わず見惚れてしまいそうになる。
とっても綺麗なこの瞳に、このままずっと見つめられたら……釘付けにされて動けなくなるだろう。
そう思った瞬間、私は思わず目を逸らした。
そして、小さく息を整えてから……また慧君を見た。
憂いを帯びた大人の男性の表情に、ドキッとして心が揺れ動く。
同じ年齢の慧君のことを、今までこんな風に感じたことなかったのに……
今日の慧君は、本当に変だよ……
「雫ちゃんが誰を好きとか、俺にはわからない。それでもやっぱり……」
言葉を絞り出し、唇を噛み締める仕草が私の心をさらに揺さぶる。
胸の鼓動が、独りでにどんどん早くなっていって……
「俺は……」
慧君……
「俺は、雫ちゃんのことが好きなんだ。ずっとずっと好きだった。他の人じゃダメだ、雫ちゃんじゃなきゃ……」
そのセリフは、私の心臓の高鳴りを最高潮にまで押し上げた。
「慧……君……」
「迷惑だとは思うけど、ずっと勝手に想い続けてた。この気持ち、いつか言わないとって思ってたのに勇気が出なくて」
「嘘……でしょ? だって慧君、私のことを好きな素振りなんて全く見せたことなかったよね?」
そうだよ。
ずっと近くにいたけど、いつだって普通に話してただけだった。
私のことを想ってくれてたなんて……そんなの信じられないよ。
「俺は、そういうの上手くないから。好きだっていうアピールなんて、どうやったらいいかわからないよ」
「で、でも……」