戦場の花

👂 第二十一章：目撃者の嘲笑と、団長への密告ハンジの「科学的興味」

サクラの部屋から飛び出したハンジ・ゾエは、廊下の隅で壁にもたれかかり、呼吸を整えた。彼女の心臓は激しく鼓動していたが、その興奮は恐怖から来るものではなく、**「究極の感情現象」**を目撃したことによる科学者としての高揚感だった。

（な、なんという…！リヴァイが、あんなにも感情を制御できない状態になっているなんて！これは、サクラちゃんという**『異物』が、彼の『制御機構』**に与えた強烈な影響の証明だ！）

ハンジは、興奮のあまり眼鏡を曇らせながら、リヴァイとサクラの状況を**「人類最強の感情の暴走」**として、ノートに走り書きした。

翌朝、リヴァイがいつものように訓練場で新兵の指導にあたっていると、ハンジがニヤニヤしながら近づいてきた。

「やあ、リヴァイ！昨夜は素晴らしい**『訓練』**だったようだね！」

リヴァイは、その言葉に、全身の血が逆流するような感覚を覚えた。彼は、殺意を込めた眼差しでハンジを睨みつけた。

「てめぇ…昨夜見たものを、口に出すな」

「何を言っているんだい？私はただ、キミがサクラちゃんに施した**『実戦形式の組み伏せ訓練』について話しているだけだよ！しかし、あの訓練は、『独占的保護欲』と『純粋な清潔欲求』が、『性的衝動』と複雑に絡み合った、非常に興味深い感情の力学**に基づいているね！」

ハンジは、敢えて大声で「訓練」という言葉を使いながら、内容を徹底的に**「科学的に」分析**することで、リヴァイを追い詰めた。

「俺を殺したいのか、クソメガネ」リヴァイはブレードを抜きたい衝動を抑えるのに必死だった。

「まあまあ。私はただ、キミの情熱的な指導に感銘を受けただけさ。ただね、リヴァイ。その情熱は、キミがエルヴィンに**『嫉妬』している証明でもある。キミは、エルヴィンがサクラちゃんの心を抱擁した**ことに耐えられなかったんだ」

ハンジの鋭い指摘は、リヴァイの核心を突いた。リヴァイは、怒りではなく、深い苛立ちと屈辱を感じた。

「…俺とサクラの間のことは、お前には関係ねぇ」

「フフフ。大ありさ。なぜなら、その話は今から、エルヴィンの戦略に直結するからね」

エルヴィンへの密告

その日の午後、ハンジは、いつものように巨人の研究報告書を持参するという名目で、エルヴィン団長の執務室を訪れた。

エルヴィンは、冷静に書類に目を通していた。

「ハンジ。巨人の捕獲結果は…」

「それは後でいいよ、エルヴィン。それより、キミの計画に、重大な要素が加わった」

ハンジは、ニヤリと笑い、リヴァイとサクラの件を、**「戦略的情報」**としてエルヴィンに報告した。もちろん、ハンジは感情的な言葉を避け、客観的な事実だけを伝えた。

「昨夜、リヴァイはサクラちゃんの部屋に侵入した。そして、彼はサクラちゃんをベッドに押し倒し、**『物理的な独占』を実行しようとした。私は、それを『目撃』**した」

エルヴィンは、その言葉を聞いた瞬間、ペンを握る指先に、ヒビが入るほどの力を込めた。彼の顔から、一瞬にして血の気が引いた。

「…ハンジ。それは、冗談ではないな」エルヴィンの声は、深海の底のように冷たかった。

「冗談じゃないさ。彼は、キミとの**『戦略的デート』**に対する、動物的な本能に基づく強烈な反発を示したんだ。キミの『頭脳の独占』に対し、彼は『身体の独占』で対抗した」

エルヴィンは、静かに立ち上がり、窓の外を見つめた。彼の背中からは、リヴァイへの激しい怒りと、自身が敗北したことへの屈辱が滲み出ていた。

「リヴァイは…私の庇護の範囲を、完全に超えた。彼は、サクラの体を、私の所有物ではないと、力ずくで主張したのだ」

エルヴィンは、顔を上げた。その青い瞳には、燃えるような新たな決意が宿っていた。

「分かった。ハンジ。これで、サクラの**『隔離』は、もはや『戦略的な必要性』を遥かに超えた、『絶対的な必然性』**となった」

「リヴァイ。…君は、自分の愛を**『暴力』で示した。だが、私の愛は、『大義』**によって、君の行動を完全に封じ込める」

エルヴィンは、サクラへの溺愛と独占欲を、リヴァイの暴走という事実を盾に、さらに強化することを決定した。