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それから、図書室に行く理由が一つ増えた。本を読むため、というより、本を開くため。
『名前なんて言うの?』
質問は特別なことじゃない。それがちょうど良かった。
『千明』
少し考えてから付け足す。
『そっちは?』
次の日返事がきた。
『健人』
『千明っていい名前だね!』
顔を知らないのに、声も知らないのに、話している気はした。
数日後
『一度、会って話さない?』
その言葉を書いたのは相手のほうだった。迷ったけれど、断る理由もなかった。
『いいよ』
『どこで?』
集合場所は体育館の裏。放課後、人の通らない場所。時間もちゃんと決めた。
当日
体育館裏には誰もいなかった。
風で草が揺れる音だけが聞こえる。五分待って、十分待って、それでも誰も来ない。騙された、とは思わなかった。理由は分からないけど、多分、相手も待っているような気がした。その日のうちに書いた。
『今日行った』
『誰もいなかった』
翌日
少し乱れた字で、返事があった。
『僕も 』
『ちゃんと行った』
いつもより字が少ない。
『場所間違えた?』
『ううん』
『時間?』
『合ってた』
それきり、続きが来ない。図書室はいつも通り静かだった。
けれど、前より少しだけ広く感じた。誰かと話していただけなのに、会えなかっただけで、距離ができる。
それが少し不思議だった。