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壱花は昼間、老婆と通ったコースを今度は倫太郎たちと巡る。
キッズルームに行き、カラオケに行き、スポーツルームを眺め、本などもあるショップに行った。
いや、全部閉まっているんだが……。
「人の気配もないですね」
と壱花が言うと、
「あっても困るな。
こんなケセランパサランにたかられた状態で」
と倫太郎が言う。
確かに、全員が周りを白いものにふわふわされている。
冨樫が、
「もし、見える人がいたら、なんて説明したらいいんでしょうね」
と心配する。
壱花は二人についている、白いふわふわを見ながら言った。
「……え。
カビです、とか?」
「全身にカビふわふわさせてる奴が船の中歩いてたら、通報されるんじゃないか……?」
そうケチをつけてくる倫太郎に、
「じゃあ……、うさぎのしっぽです?」
と壱花は言って。
「……その場合、うさぎの本体は何処行ったんだ」
と言われてしまう。
いや、可愛いではないですか、と手のひらにケセランパサランをのせて壱花は思う。
次に展望レストランに行き、ガランとしたホールを見た壱花は言った。
「そういえば、あのおばあさん、ここでお玉持って、肉うどん眺めてましたよね?
厨房で働いてもらったらいいんじゃないですか?
うどんを盛り付けるスタッフになってもらうとか」
「……あのばあさん、わんこそば並みのスピードでお玉動かしてたぞ。
そんなにうどんばっかり注文くるわけないだろうが。
しかも、麺だけ入って、汁はワープして消えてるかもしれないんだぞ」
「……船の底に、水の代わりに汁が溜まってても嫌ですよね」
と冨樫が呟く。
「それにしても、高尾がひょいひょいついて来たのが気になるな。
やけに積極的に捕物にも参加するし」
「去り際の言葉が意味深だったのも気になりますよね。
僕のことを覚えておいてね、とか」
そんな話をしながら、レストランを出ようとしたとき、カンカラカン……となにかが落ちるような金属音がした。
ワンワンワンワン、とボウルが床で回っているような音が続く。
厨房?
壱花たちは奥の厨房に向かった。
ステンレスの扉の向こう。
はまっているガラス扉から覗いてみる。
高尾がひとり、暗がりでガサガサやっているのが見えた。
「高尾さん?」
と壱花が声をかけると、ぎくりとした顔をする。
慌ててやってきて、
「なんでもないよっ」
と高尾は大きく手を振ったが、倫太郎が、ゴン、と扉の下の方を蹴る。
「……開けろ」
そう低く言われ、高尾は渋々扉の鍵を開けていた。
中に入ると、ごめんごめん、と高尾は謝る。
「あやかしはまだ見つかってないんだ。
で、やっぱり、本物の穴あきお玉の方がいいかと思ってね」
ダクトを通って、鍵がかかっている厨房に入ったのだと言う。
ちょっと焦ったように説明している高尾の後ろを、
「あ」
と倫太郎が指さした。
「ケセランパサラン」
高尾は倫太郎が指したダクトの入り口を振り返る。
その間に、倫太郎は、さっとしゃがみ、厨房の大きなテーブルの下からなにかとっていた。
「いないよ、ホコリじゃない?」
と高尾がこちらを見る。
いや、あのサイズのホコリが厨房にあったら大問題だろ、と思う壱花たちを、
「じゃあ、もう出てて」
と押し出し、高尾は鍵をかける。
さようなら、と中から笑顔で手を振っていた。
自分たちがいなくなるまで見張っているつもりらしい。
なんなんだ、と思いながら、壱花たちはそこを離れた。