テラーノベル
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ふと、暗闇の底から這い上がるように意識が浮上する。
昨晩は早めに休むようにと郎から言われて充てがわれた部屋へと戻り早々とベットに入ったんだったかと思い出しながら、時間を確認するために携帯を手繰り寄せようと枕元を弄るが、その手は携帯を掴む事無くただシーツの上を滑るだけだった。
「……?」
確かに置いたはずの携帯が見つからない。ベッドの下に落ちたのだろうか。まだ眠気の残る体を何とか起こし、時間を確認すべく携帯を探そうとした所で、自分の隣に人の気配がある事にようやく気付いた。
「起きたか」
「は?」
人はあまりにも驚くと言葉が出ないとは本当らしい。
何食わぬ顔でベットに肘をつき横たわりながらこちらをみている見覚えのある男に、飛び起きながらも全身が総毛立つのを感じた。
何処から入ったのか、そもそも何故毘灼の統領と自ら名乗った男が、仮にも敵陣である神奈備が所有する施設で堂々とベッドに横たわっているのか。
信じられない光景に、目を疑う。まだ寝ぼけているのだろうかと自分の頬を抓ってみれば確かな痛みを感じた。
「何で居る」
もっと何かしら言いたいことはあるはずなのに、俺の口から出たのは、そんな一言だけだった。
「気付いていないのか?」
俺の問いかけに答えず、問いで返された。
何がだ、と言いかけたところで「周りを見てみるといい」なんて言うものだから訝しみながらも周りを見る。
明らかに昨日充てがわれた部屋とは違う、殺風景と言う言葉が似合う部屋だった。白い壁に囲まれた、窓も出入り口も見当たらない部屋と言うには烏滸がましい空間だった。あるのは真ん中に置かれたこのベッド──やたらと豪華なサイズだ。天蓋?と言うのも付いていて、殺風景な部屋にあるのは違和感でしかない──と、脇に鎮座するサイドチェストのみ。俺の携帯も淵天も何処にも見当たらなかった。
「な、んだ?ここは……」
「さぁ。俺も目が覚めたらここに居たんだ。一通り調べてみたが、出口はない」
「お前が連れてきたんじゃないのか」
「残念ながら、俺ではないよ」
男も起き上がり、ベッドの脇に優雅に足を組んで座り込む。やたらと長い脚を見せつけられているようで妙に腹が立つ。舌打ちや悪態をつきたい所だが、それどころではないので放って置く。それよりも今はこの空間から出ることを考えなければ。
「意外と冷静なんだな」
「……充分驚いてる。ただ、慌てても仕方ないと思っただけだ。……本当に出口は無かったのか?」
「頼もしい限りだな。出口はない。それと、どうやら術も使えないらしい」
男が文様の刻まれた手で印を結んで見せるが、確かに何も起こらなかった。玄力を込めていない可能性もあるが、果たしてそんな事をする必要があるのか。考えても仕方のない事だと切り捨て、俺はベッドから降りると壁に手を当ててみる。
何処かに隠しスイッチや隠し扉みたいなものでもあれば、と思ってみるが残念ながらソレらしきものは無い。
「……何なんだ、ここは」
言いようのない不安と苛立ちが募る。
どうしたらでられるんだ、と考えていた所で、男が「六平千鉱」と呼ぶ声が聞こえて、そちらへ視線を向ける。
「上を見てみろ」
「?上に何が……」
言われた通り、男の視線をやる方へ目をやれば、そこには先程までは無かった巻物のようなものが横に広がり達筆な文字が浮かんでいた。
「『ゆうチヒが媚薬を飲んでセックスをしないと出られない部屋』………は?」
「おそらくそれはゆらだ。一応俺の名前でもある」
「……」
人は驚きすぎると言葉も出ないと言うが、理解ができないことが起きると思考も放棄したくなるらしい。頭痛がしてきた。
「媚薬……セックス……誰と、誰が……」
「俺と、お前だろうな。ここに居るのは二人しかいない」
「冗談だろう?」
思いっきり顔を顰めてしまったが仕方ない。
この男と、セックス?考えただけでゾッとしてしまう。流石にセックスが何か分からないほど子供ではないし男同士で出来ることも知っている。但し知っているだけで経験はない。経験しようとも思わないが。それなのに何が悲しくて仇である男とセックスをしなければいけないのか。
「他に方法があるのか?」
そう問われれば、言葉に詰まる。
四方を確認しても、出口はなかった。妖術も使えない。淵天も無い。打つ手は無し。
「居ないことに気付いて、誰かが救出に……」
「ここが何処かも分からないのに、救出に来るとでも?」
明らかに退路を断たれている気がしてならない。この男は依然として座ったまま動かず、優雅に足を組んだままこちらを見ている。選択肢が一つしかない事実に歯噛みしてしまう。何か解決策はないのか?
「本当に……出る方法はこれしかないのか?」
「そこに書いてある通りならな」
何か。何かあるんじゃないのか、と諦めきれない。例えばここに居たのが柴さんや薊さんであれば、俺はきっと仕方ないと腹を括っただろう。でも、よりにもよって一緒に居るのはこの世で一番憎い男だ。死んでも嫌だと駄々をこねるのは簡単だろう。でも、こんな所で足止めをされている暇はないのも事実だ。手元に淵天がない以上、俺はどうしたってこの男に敵わない。それは楽座市の時の戦闘でわかっている。組手ではきっと、まだ俺はこの男には勝てない。
ぐっと拳を握って、一度深呼吸をする。息を吐ききった所で、男に目をやれば、こちらをじっと見据えていた目元を細めて奴は嗤う。
「来い、六平千鉱」
これ見よがしに両手を広げて迎え入れるポーズを取る男の腕の中へと、渋々身を委ねた。
□■□■
男──幽に身を委ねた千鉱を、軽々と抱き上げて膝の上へと乗せる。向かい合わせで幽の足を跨ぐ形で座らせた。
「……近い」
不満だと言う顔を隠そうともしない千鉱に、幽はくすりと笑って、千鉱の唇を親指と人差指で挟んでふにふにと弄る。
「近くないとキスができないだろう」
「しなくていい。さっさと終わらせてこんな所早く出たいんだ、余計なことは……」
千鉱を落とさぬように腰に腕を回して支えてる幽とは反対に、千鉱は離れたいとばかりに腕を突っ張って押し返そうとするも、びくともしない。ならばと唇を弄る手を払い除けようとするが、その手を取られ、互いの指を絡めて握り込まれた。
「そう急くな。セックスと一括りに言うが、強姦まがいのものではカウントされないかもしれない。なら、互いに楽しんだほうがいい」
楽しめるか、と言うのが千鉱の心境だ。
幽の言う事も一理あるのかもしれないが、千鉱にはどうしてもこの状況を楽しむなんてできない。義務的でもいいから、本当にさっさと終わらせるのなら、強姦まがいの方が有り難いとさえ思う。
「お前は何もしなくていい。何も考えず、身を委ねていればいい」
初めてなんだろう?──そう言って、幽はいつから置いてあったのかわからない、いつの間にかベッドの上にコロンと転がっていた瓶を手に取る。凡そ五十ミリリットル程の透明な瓶に入っているのは何とも怪しげな蛍光ピンクの液体。持ち上げ式の蓋を親指で押し上げて、何の躊躇いも無くその中身を口に含むと、半分ほど喉に通してから千鉱の後頭部へ手を回し唇を奪う。
「ンぐっ、ん、んっ」
半開きの隙間から口内へと流される液体。甘ったるいその液体を千鉱が吐き出す前にと、幽は無理矢理こじ開け己の唾液も流し込む。喉がこくりと上下するのを尻目で確認しながら、そのまま千鉱の唇を堪能する。割り開いた口内に舌を差し込み、口蓋をくすぐれば予想外の刺激に千鉱の体はビクリと震えた。そのまま何度かくすぐり終いには舌を絡め取る。舐るように絡めて時折吸って千鉱の熱い口内を貪った。
「ふ、ンん……っ、ぅ、ん……!!」
先に根を上げたのは千鉱だった。息苦しさから幽の胸を叩いて限界を訴えている。名残惜しいが、窒息させるわけにも行かないと、最後に舌を強く吸い上げて、ようやく唇を離した。
「はぁ、っ……は、……しつ、こい……」
乱れた息を整えながら、どちらのものかもわからない唾液で濡れた唇を手の甲で拭う。流し込まれた液体の正体はおおよそ付いているのだろう、それを問うてくる気配はない。
「そうか?俺はもっとお前の唇を堪能したかったが……残念だ」
ちっとも残念そうには見えない笑みを浮かべる幽に、千鉱は怪訝な顔をして、徐ろに膝の上から降りて、ベッドに乗り上げる。身に付けていた黒のスウェットを上下ともに脱ぎ捨て、じっと幽を見つめた。
「やるなら、さっさと終わらせてくれ」
情緒もへったくれもないその誘いに、しかし幽は愉快そうに笑って臨戦態勢とも取れる千鉱をベッドへと押し倒す。
「あまりにも男前すぎて、いっそ清々しいな。本当に興味深いよ、六平千鉱」
千鉱の首筋に唇を落とし、強く吸う。ぢゅっと音が鳴りそうなほどの強さに、千鉱は体を震わせた。首筋を他人に吸われるのは初めての経験で、ぞわりとする。千鉱の反応を知ってか知らずか、幽はそのまま千鉱の首筋にそって唇を滑らす。時折吸っては赤い痕を残していることに、きっと千鉱は気づいていないだろう。
「ん、っ……ぅ、ふ……っ……」
ジワジワと全身に広がる熱に、千鉱の体がほんのりと紅潮する。声を我慢する為か、恥じらいか、頬にも朱が差し、目尻に涙を浮かべ、手の甲で唇を隠し必死で声を抑える姿の艶めかしさに、幽も知らず口角が上がる。
「愛らしい所もあるようだな」
「だ、まれ……余計なことは、しなくていいからさっさと……んぁッ……!!」
喉仏に舌を這わせながら惜しげもなく晒された胸に幽の手が伸びると、千鉱からは存外に甘い声が溢れた。
「いい声を出すじゃないか。もっと聞かせろ」
幽の手が千鉱の体を弄る。古傷から新しい傷まで多様に付いた痕をなぞりながら、辿り着いたのは胸の尖。親指の腹でそこを潰すように撫で上げれば千鉱の体はひくりと反応する。
「ぁ、ん、っ……ひ、っぁ、やめ、ん、ンッ」
余計なことはしなくていいと言っているのに聞きやしない幽に、千鉱は文句の一つでも言ってやりたくて口を開くが、溢れるのは掠れ、うわずった声。媚薬の効果が出てきているのか、触れられた部分からジンとした痺れが千鉱を襲う。
「は、ぁあ、っ……も、や……あ、ふぁあ!!」
片手で尖りを捏ね回しながら、空いてる方を口に含む。舌で転がし、舐り、吸う。幽の責めに、千鉱は翻弄され、甘い疼きに啼くことしか出来ない。
「なん、で……ぁ、うあ、んっ……こ、んなぁっ……あ、あっ」
憎い相手の筈なのに、触れられると体は過敏に反応し快楽に酔いしれる。初めてだと言うのに、もう何度も触れられたかのように反応してしまう。それが信じられなくて、幽の手から逃れようと体は自然と上へ逃げようとするが、その度に引き戻され絶えず刺激を与えられる。体の熱はどんどん昂り、千鉱の思考はぐずぐすに溶かされてしまう。相手に身を委ねるとは、すなわち相手の良いようにされるだけ。そんな事、勿論千鉱は知らないものだから、最初に身を委ねた時点で千鉱が幽に敵うわけがなかった。
媚薬の効果も相まって、胸への刺激だけで音を上げてしまいそうな千鉱の胸の尖りを幽は執拗に責める。指の腹で撫で、時に強く摘んで、指先で弾いては口に含んだ尖りは労るように舐める。かと思えばぎちりと噛んでみたり、わざと水音を立てるように舐りを繰り返す。その度に千鉱は波のように押し寄せる快感に震えるしかない。
「ダメ、だ……あ、あっ……もう、や、ぁあ──ッ!!」
一際強く吸い上げられれば、強すぎる快楽に体をビクリと震わせて甘い嬌声を上げながら呆気なくも果てる。自分の体ながらその事実が信じられなくて、ジワジワと顔に熱が集まってくるのを見られたくないとばかりに両腕で隠す。
「ここだけでイったのか。薬の効果もあるだろうが……ある意味才能だな」
「っ」
感心とからかいの交じる声音に、千鉱は思わずと言ったように足を振り上げ蹴飛ばそうとするが、残念ながらあまり力の入ってないそれは簡単に幽に止められ、そのまま好都合とばかりに千鉱の股座に陣取った。
「まだ理性が残っているか、本当に頼もしい。さて、その理性がどう崩れるか……」
言いながら幽が見せつけたのは、先程飲んだものとは別の小瓶。何処からか湧き出てくるソレを揺らすと、中の蛍光色の液体はちゃぷちゃぷと波打つ。
「それ、なんで……」
先程の物よりもやや大きめの瓶。あれはダメなやつだ、と千鉱の本能が叫ぶ。サッと顔から血の気が引いて、身を強張らせる。
その様子に、満足そうな笑みを浮かべた幽は迷うことなく千鉱の口元へと小瓶を充てる。
「い、やだ……」
「飲め。拒めば中へ注ぐ」
千鉱に拒む権利など、端から無かった。
薄く唇を開いて、中の液体を迎え入れる。喉を通る液体の甘ったるさは先ほどの比ではない。ただでさえ苦手な甘みに、千鉱は顔を顰めながら半分ほど飲み込んだ所で、限界とばかりに噎せ返る。
「ごほっ、かはっ……はっ、くっ……」
「残りは中へ注がれたいと?」
「そんなわけ、ないだろ。俺だけ飲むのは、不公平だ」
この子どもは本当に予想外の反応をする──まるで予想していなかった千鉱の言葉に、幽はクツクツと喉を鳴らして笑う。愉快で仕方がない。経験がないからそこまで想像力が豊かではないのだろう。あとで痛い目を見るのは自分だというのに無意識で人を煽るのが大層得意らしい。
「では公平に行くとしよう」
残りの液体を呷る。若干の粘度がある液体は飲めなくはないが甘ったるく、確かに喉を通る違和感が激しい。空になった容器をベッドの外へと放り捨てた。
即効性だろうが遅効性だろうが、薬の類はあまり効き目のない幽にとっても、規定量を超えれば普段よりは多少気持ちも高揚する。加えて千鉱の反応は想像を簡単に超えるものだから、昂らないはずもなく。ネクタイを緩め、そのまま首から抜き去ると、スーツを脱ぎ、見せつけるようにシャツのボタンをゆっくりと開けて脱ぎ去った。その様を見せられた千鉱は思わず釘付けになってしまった。晒された肉体美から目を離せない。男の体など、父親や柴や薊で見慣れていると言うのに、なぜだか直視するのがとても恥ずかしいと感じた千鉱は、生娘のように顔を赤くして慌てて目を背ける。顔が熱い。全身も熱くなり、ザワザワと落ち着かない体に千鉱は困惑する。男の体を見ただけで、こんなに落ち着かないものだろうか、と。
「どうやら即効性のようだな。はじめのモノよりもかなり強い」
答え合わせとでも言うように幽がそう言うものだから、千鉱はなるほど、と納得する。全て薬のせい。鼓動が速いのも、全身が熱いのも、全て。
自覚すると、更に熱は加速するが如く千鉱を襲う。果てた筈の中心が何も触れていないと言うのに、下着の中で存在を主張する。少し動けば布と擦れ、過敏に反応してしまうのだ。
「ぁ、ぅっ……ん、っ」
「辛そうだな」
「んぁ!!あ、はぁ、っやめ」
布越しに、千鉱の中心を指先で撫でる。それだけで存分に感じてしまうのか、体は大きく震えた。
セックスの経験自体がない千鉱にとって、媚薬なんて過ぎたモノだ。強すぎる快楽に、千鉱は翻弄される。
「……もう、……っ、……て、くれ……」
「もっとハッキリ言わないと聞こえないな」
弱々しい声で懇願するも、勿論幽は聞こえないふりで、焦れったく触れながら再度促す。
「ぁあっ、ん、ぅ、ぁっは……っ、もう、……は、やく……おわ、らせて」
「及第点、と言ったところか」
言いながら満更でも無さそうに笑うと、千鉱の下着を取り払い、顕になった性器には触れず、そのまま固く閉ざされた後孔と触れる。
「なんで……」
もう切なくて仕方ないと言うのに、男が触れた場所は千鉱の思ったところではなかった。前は今にも触れてほしそうにふるふると震えているのに、なんで、と千鉱は幽を物欲しげに見つめる。
「あまり気をやってばかりいると最後まで持たないだろう。俺も同じだけの量を飲んでいるんだ、途中で寝られては困る」
お預けだ。
言って、幽はいつの間にかチェストの上に置かれていたローションボトルを手に取る。粘り気の強いそれを手にまとわせ、後孔へと指を埋める。
「ぅ、んっ」
本来の使用用途ではないそこに異物を受け入けいれる違和感。本来なら拭いきれない違和感がありそうなものの、媚薬で敏感になった体はそれさえも快楽へと変えてしまう。
「ァ、う、ん、んっ」
ローションの滑りと、千鉱の先走りとで濡れたそこは、意外にもすんなりと幽の指を受け入れている。これならばと指を二本に増やし中を解しながら探るように内壁を擦っている。指が出入りする度、後孔からグチュグチュと淫猥な水音と千鉱の吐息が部屋にこだまする。耳を塞ぎたい。そう思うけれど、生憎と千鉱の両手は少しでも快楽を逃がしたくてシーツを掴むのに必死だ。
「ん、んぅ、は、あ────ッ!!!!」
何の前触れもなく、途方もない快楽が千紘を襲う。強すぎる刺激に背がしなる。目の前にチカチカと星が舞い、緋色の瞳は驚きに染まり開かれる。
「ここか」
「ひんっ、あ、や、やだ、あん、っそこ、いやだ、やめ──ッ!!」
いつの間にか3本に増えた指で、千鉱の弱い部分をグリグリと押し、責める。強すぎる快楽の奔流にのまれ、千鉱からは悲鳴にも似た嬌声が絶えず上がる。触れてもいない性器からは何度か白濁が散り、その快楽の強さがうかがえる。
「お前にはキツイだろうな、この薬は」
媚薬を飲んだのは幽も同じだが、耐性があるかないかでここまで違うものなのかと、己の良いようにされる子どもがいっそ哀れで、しかし乱れた様を見ることに愉悦さえ感じる。
このまま何度果てさせようか。そう思いつつも、千鉱の乱れる様で興奮した己がいるのもまた事実。中の具合もだいぶ良い頃合いだろうと、幽は千鉱の中から指を抜いた。
「はぁ……ぁ、うっ……は、ぁ……」
激しい責めからの解放。それでも何度も中だけで達した余韻が引かない千鉱は、シーツを掴んだまま朧気な表情で震えている。たっぷりのローションで濡れた後孔は、中のモノを失いひくひくと物欲しそうに口を開けていることには気付いていないだろう。
千鉱の扇情的な姿を視姦するように見つめ、震える体の線に沿って指先を這わせる。その度に消えそうな声で甘く啼く様に幽の唇は満足そうに弧を描く。己の昂りを、泥濘んだ後孔へとひたりと当てれば、千鉱の体が大袈裟に震えた。
「ぁ、やっ……まて、まだっ……ィぁああ──ッ!!」
引かない余韻に朦朧としていた意識が引き戻されたかと思えば、一気に奥まで貫かれた。あまりにも性急に押し入ってきた熱に、千鉱の背は大きくしなり、足はピンとのび、爪先は丸まる。ビクビクと震える体は、やがて力を失ったようにベッドへぽすりと落ち、強すぎる快楽に意味をなさない音がはくはくと震える唇から溢れている。
「っ、は……これは、予想以上にクる」
一方、千鉱の中に押し入った幽はその締め付けを楽しんでいた。離すまいと絡みつく内壁は、幽にも充分な快楽を与えた。商売女の泥濘とは比べ物にならない締め付けに、これは味を占めてしまいそうだと思わぬ収穫に舌舐めずりをしてしまう程だった。
じっくりと堪能するように、小刻みに体を揺さぶれば、千鉱の唇からは甘い吐息が溢れる。その愛らしさに、幽はまた満足そうに笑った。
「千鉱」
グッと腰を押し付けながら、甘さを含んだ低い声で名を囁く。それだけで、中はまたキツく幽の熱を締め付ける。
「ゃ、あ……呼ぶ、なぁ」
呼ばれたって嬉しくない。
嬉しくない筈なのに、腹の奥が疼くようにじくじくと熱くなる。気が触れてしまいそうだと、思った所で、そもそもこの状況自体が狂っているのだ。変に正気が残っている方が辛い事もある、と千鉱はこの時初めて知った。頭の片隅にずっとチラつく正気を手放して、この男の良いようにされれば、逆に興味を失って早く終わるのでは、なんて考えていたら、また「千鉱」と囁かれる。
視線が交われば、途端に始まる律動。揺さぶられるのとはわけが違う。押し寄せる快楽に翻弄され、千鉱はまた意味のない音を紡ぎ続ける。
「あ、ぁあ、っは……やぁあっ!!」
「何を考えていた?」
「あ、んっ……はぁ、っ……おま、え、いがいの……んぁっ、ことだっ」
「それは、妬けるな」
幽の問いに喘ぐ間で答えれば、対して思ってもなさそうな顔でそんな事を言いながら、律動は徐々に激しさを増す。弱い所を掠めながら奥を小突くように繰り返されるソレに、千鉱は何度も絶頂を繰り返す。既に性が尽きたのか、千鉱の中心からはもう何も出ない。それでも中で果てることを覚えた体は、千鉱の意思に構うことなく幽の与える快楽に悦び震え、離すまいと絡みつく。
「もうっ……やぁ、あ、あっ」
止まって欲しいけれど、止めないで欲しい。もっと、もっとと体は求める。心が追いつかず、千鉱の思考もぐちゃぐちゃで、もう限界だった。頑なにシーツを掴んでいた手を、幽の首元へ絡め、縋る。より深くなる繋がりに、ただ喘ぐ。
千鉱の意外な行動に、幽は驚くがそれも束の間の事。激しさを増す律動。部屋に響くのは肌同士がぶつかる乾いた音と、結合部からの淫らな水音と、千鉱の嬌声と微かに交じる幽の吐息。
「あん、アッ、あ、ぁあ────ッ!!」
ややあって、腹の中に熱い飛沫を感じた千鉱は、また甘い悲鳴を上げながら絶頂する。その熱さに震える体が落ち着くまで幽にギュッと抱きつきやり過ごす。
「……ふ、ぁ……あつい……」
「……それは無意識か?……恐ろしいな」
過ぎた快楽に、千鉱は蕩けきった顔をしながらそんな事をあろうことか抱きついたままの幽の耳元で囁くものだから、中で果てた昂りに熱が灯るのは当然のこと。男とは性に貪欲な生き物である。
「っ、なん、や……何で、おっきくなって……ぃああっ!!」
「これはお前が悪い。責任を取って大人しく抱かれろ」
「やだ、もう、や……むりっ、ぁ、あ、あっ!!」
再びの律動に、止めてと懇願するも後の祭り。
抱き起こされ、対面の座位で下から散々に突かれる。泣いて願っても、幽が止まることはなかった。
落ちそうになる意識を、その度に強い快楽で呼び起こされ手放すことも出来ず、本来の目的である部屋からの脱出と言う事は頭から抜け落ち、ただ与えられる快楽に身を投じる事しか千鉱に出来ることはなかった。
部屋の巻物の文字が変わっていた事に、果たして千鉱は気付くことが出来るのか。部屋から出ることは出来るのか──
『統領様が満足するまで出られない部屋』
千鉱は知らない。
この空間を作ったのが毘灼の妖術師であること。
「俺も千鉱とセックスしたい!!」
そんな事を喚く昼彦が居たことも。
全ては幽の手の上だった。
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