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翌日、目が覚める。
龍族の一味襲撃前の騎士寮は、うるさい程バカ騒ぎをしていたのに、今はみんなが真剣だった。
決められた時間に起床し、国の復興作業に出ていた。
「お、起きたかい? ヤマトくん」
「カズハさん……」
カズハさんは、薄着のローブを羽織り、椅子に腰掛けてお茶を啜っていた。
「今日は、俺とデートでもしないか?」
ニカっと笑う。
僕は、この笑顔は作り物だと気付いてしまった。
騎士団本部の外に出ると、岩盤で覆われていた上空には真っ青な空が広がっていた。
「空が見えると気持ちがいいですね」
何気ない一言に、カズハさんは顔を曇らせる。
「そうだよな。やっぱ、空って気持ちがいいな」
そして、カズハさんに連れられて国内を巡る。
カズハさんは国民に愛されていて、みんなの前に顔を出すと、みんなから笑顔で会釈を受けていた。
炎の神 ゴーエンとは、また少し違った空気感を感じた。
「ヤマトくんから見て、この国はどうだ?」
「素敵な国だと思いますよ。カズハさんはやっぱりみんなから好かれてて、気持ちの良い国です」
カズハさんは何も答えなかった。
「ここは……」
暫く着いていくと、カズハさんは本部裏のトレーニング区域に足を運ばせていた。
最初に、守護神 アリシアさんと戦闘になった場所。
そう考えると、僕はこの国に来て、守護神とも神とも戦闘になったのか……。
すると、カズハさんは立て掛けられていた木剣を僕に手渡してきた。
この展開は、もう分かっている……。
「俺と戦え、ヤマト」
カズハさんの顔付きが変わった。
ふと、アリシアさんの言葉を思い出すが、だからこそかも知れない。
「はい……!」
僕は剣を構えた。
「どちらかが膝を着いた方が負け。お互い神の加護による魔法は禁止。どうだ? イーブンだろ?」
「分かりました」
風神魔法での高速移動が禁じられるのは痛いが、 属性の数で圧倒してる僕に、文句は言えない。
「それじゃ、始めだ」
そう言うと、真っ先にカズハさんは僕に距離を詰める。
「 “岩魔法 ブロックロック” !」
僕の背後に無数の岩石が出現する。
目の前にはカズハさんの拳。
前後からの挟み討ち。
こういう魔法の使い方もあるのか……!
“岩魔法 ブレイク × 風魔法 フラッシュ”
背後の岩石を岩魔法 ブレイクで防ぎ、そのまま片手から暴風を放ち、カズハさんを吹き飛ばした。
「風魔法の威力すげぇなぁ! やっぱ、沢山属性があると戦闘も有利に運べそうだな……!」
しかし、流石は七神だ。
普通の人なら吹き飛んで倒れるか、防具が粗末な者なら、気絶する程の威力があるのに、平然と立っている。
“水魔法 アクアガン”
僕は片手から、遠方に退いているカズハさんへ水魔法を放つ。
「ハハっ、流石に避けられるぜ!」
違う……!
“風魔法 フラッシュ”
「ハァ!」
僕は水撃に身を隠して接近していた。
そして、水魔法 アクアガンを避けるカズハさんの方向に向かって、風魔法 フラッシュの暴風の勢いで移動し、木剣を叩き付けた。
カズハさんは防具もない腕でガードした。
「カハッ……!」
しかし、倒されたのは僕の方だった。
「アゲルくんに聞いてないの? 詠唱しなくても魔法は唱えられるんだぜ」
今まさに、僕の木剣が当たると同時に、岩魔法 ブロックロックで、僕は背中を強打させられていた。
読まれていた……いや……。
炎龍の上で、僕がカズハさんを倒した時と、同じことをやり返されたんだ……!
「それに俺の使った魔法はたった一つ、岩魔法 ブロックロックだけだ。まだまだだな、ヤマトくん!」
確かに、炎龍の上では、もっと沢山の魔法を絶え間なく繰り出していた。
「やっぱり七神の皆さんは強いです」
「でも、俺は本気の勝負でヤマトくんに負けた」
「それは、国を守ろうと炎龍に岩神魔法をぶつけたから隙が出来ていただけで……」
「いや、一対一で本気の戦いをしたら、きっと負けるさ」
断言するカズハさんの目は本気だった。
そして、うつ伏せになっている僕に手を差し出す。
「ヤマトくん、君は既に、七神よりも強い」
そう言いながら、僕の上体を起こした。
確かに沢山の属性の魔法に、今では四神の加護魔法すら扱えるけど、七神の使うようなあんなに膨大な魔法は、僕には使えない……。
「納得いかないか? 理由を教えてやるよ」
そう言うと、カズハさんは僕と肩を組んだ。
「えっ……」
少しだけ、気恥ずかしい気持ちになる。
「お前はさ、俺たちの “想い” を託されてるからだ」
そう言うと、またニカっと笑った。
今度は作り笑顔じゃない。
「おっ、来たな!」
すると、ゾロゾロとやって来たのは、守護神にして騎士団長を務めるアリシアさんと騎士団の全員。
そして、魔法学校の生徒全員が連れられて来た。
「お前たち!! この国にあそこまでの被害があって、一人も死者が出なかったのは、コイツが居たからだ!! 守護の国として、全身全霊で感謝をしろ!!」
カズハさんが叫ぶと、全員が拍手を向けた。
「ありがとうー!!」
「止めてくれてありがとうございます!」
「治癒してくれてありがとうございます!」
「幻影解いてくれてありがとうございます!」
そして、アリシアさんが一歩、僕の前に来る。
「ヤマトさん、あなたがいなければ、この国の死傷者は数百人に及んだでしょう。守護神である前に、この国の騎士団長として、正式にお礼を」
そう言うと、膝を着き、僕に頭を下げた。
かっこいい騎士だと思わされる立ち振る舞いだった。
でも、なんだろう。
僕も慣れてきたのかな、この世界に。
スゥッと息を吸い込む。
「僕は確かに、治癒魔法で皆さんの洗脳を解き、皆さんを治癒しました! でも、その魔法を発現させてくれたのは、カズハさんの願いがあったからです! 僕一人じゃ、きっとこの魔法は発現できなかった……だから……!!」
僕は、思いの丈を民衆に向けて叫んだ。
すると、更に奥から、
「そんなの分かってるよー!」
声を上げたのは、ニヤニヤと笑う、八百屋のおばさん。
奥を見遣ると、国民のほとんどが、この場所に集って声を上げていた。
「カズハさん! いつもありがとうー!」
「俺たちの神は最高だー!」
「カズハさんにいつも守られてるんだ!」
カズハさんは、呆然と立ち尽くしていた。
「で、でも……俺は……お前たちを岩の中に封じ込めて守った気になっていただけで……」
“岩神魔法 ヒル=ブレイク”
僕は、その場にいる全員に、岩の膜を張った。
「この防衛治癒魔法は、岩の神から授かりました。そして、僕は七神よりも強いのだと、岩の神から教わりました」
「ヤマトくん……」
「そして、この岩神魔法のように、“誰かを守れる魔法” を、不器用でフワフワしてて、だけど真面目な、そんな岩の神から、授かったんです」
自然と、カズハさんからは涙が溢れていた。
「あなたが誰も守れないなんてことはない。誇らしい、守護の国の土台らしい守り方をしてきた、神なんですよ」
そして今度は、僕が、カズハさんの肩を組んだ。
「この想い、託されました」
民衆の声が鳴り響く中で、岩の神はただただ泣いた。
アリシアさんも頭を下げたままだったが、きっと、涙を零していたんだと思う。
平和を願う葉は、ヒラヒラと風に舞う。
《和葉、君に相応しい名だ》
唯一神 バベルが、この名をカズハさんに付けた想いが、僕には、なんだか理解できたような気がした。
泣き虫で臆病で、本当は自信のない青年は、小さな石を積み重ね、沢山の人に愛される神になっていたから。