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「コンテンツって……。また新たなダンジョンを作るつもりなのか?」
困惑気味に聞くムザイに対し、イチルはノンノンと指を横に振った。
「では質問。現在、我がラビーランドは、《簡易ダンジョン》と《ふれあいお子様パーク》と《食事処》の三本柱で運営しております。で、フレアよ。お前が本当に作りたいADはどんなだった。もう一度、しっかり口に出して言ってみろ」
煽るイチルを前に顔を赤らめたフレアは、恥ずかしそうにボソボソと言った。「え?」というムザイの相槌を利用して、「聞こえないってよ!」と煽ったイチルは、フレアをムザイの正面に立たせて、丸まった背中を真っ直ぐに正した。
「しっかり口に出して言え。どんな奴が相手でも、常に堂々と宣言してみせろ。お前の目的と、これからここをどうしていくのか、真正面から答えてみせろ!」
ただでさえ青紫色の顔が紅潮していく。それでもぐっと目を瞑り、イチルの手を振り払ったフレアは、大きな声で宣言した。
「私は、どこの誰にも、どんなNDにも負けない最恐最悪なADを創ります。どんな冒険者も、伝説の勇者でも、魔王でも歯が立たないくらいの、難攻不落の要塞を創り上げてみせます!」
ハイハイと相槌を打ったイチルは、改めて帳簿をテーブルに投げ置いた。
現状は、《簡易ダンジョン》と《ふれあいお子様パーク》のおままごと施設。それを《最恐最悪》まで引き上げるには、どれほどの工程が必要かなど、考えるまでもない。
明らかなことがあるとすれば、ただ闇雲に動いているだけでは、圧倒的に足りないという事実のみだった。
「しかしオーナー。この状況でそれを言っても仕方ないのでは。まずは段階を踏み、確実な進め方というものが必要だと」
ムザイの無難な提案を投げ捨て、イチルはいつかフレアが大事そうに抱えていた冊子を懐から取り出した。気付いて取り返そうと飛びかかったフレアを足一本で抑えたイチルは、頁を捲り、項目の序章にあたる部分を大声で読み上げた。
「とらのまき、いちのいち。ダンジョンは、できるだけオートメーションかすべし。りそうのADは、おもいっきりNDにちかづけたものでなければならない!」
これ以上なく顔を赤らめ、フレアが冊子を取り上げた。
ニヤリと笑ったイチルは二人に質問した。
「ちゃんと書いてるじゃない。ダンジョンはよりNDに近い状態であることと。では質問、ウチはどのような仕組みになっているでしょうか。ムザイ、答えてみろ」
「どうって……。ウィルとロディアがコピーしたモンスターと、転送ギミックを利用した簡易式移動ダンジョンじゃないのか?」
「御名答。なら聞くが、ウチの仕組みの中にNDに近い要素はどれだけある?」
「モンスターを魔法で作り出すのは仕方ないとしても、組み込まれた転送ギミックを使っているから、厳密に言うとダンジョン本体も本物の地下空間ではないな。……言われてみれば、NDっぽさは微塵もないぞ」
はっきり口にされて、フレアがガガーンとショックを受けた。冊子を抱え、あからさまにしょぼんとしたフレアにすみませんと詫びたムザイに対し、「しかしそれが現実だ」と指を立てたイチルがフレアに質問した。
「では、よりNDに近いダンジョンとはどんな場所であるべきか。答えられるよな?」
唇を噛んだフレアは、計画表を勝手に読んで知ってるくせにと怒りをあらわにしながら言った。
「より自然で、どれだけ人の手が入っていない状況を作れるかが重要です。理想は、魔法で生み出されたAMが、自分のことをNDのモンスターだと思ってるくらいでちょうどいいとされています……」
イチルが指を弾きながら、そうそれと笑った。
「ではそんな超自然的な状況を作るには何が必要だ?」
「普通はAM仮想専用の魔道具を使って、自動的にモンスターの数を調節するけど。そんな高価な道具を買うお金、ウチにはないし」
「なるほどAM仮想化ですか。しかしウチの劣悪労働状況を考えると、やはりその装置は必須じゃないのかね。じゃ次、今後初心者向けからステップアップしたダンジョンを作るなら、どうしていくのが最善でしょうか。思いつく範囲で最も現実性のない方法を挙げてみな。嘘をついてもすぐにわかるぞ、お前の考える最も難しい方法を言ってみろ」
怪訝にパラパラと自分の冊子を捲ったフレアは、中から一つを抜粋し提案した。
「最新の、最も効率的で、かつ最も確実な方法が一つあります。でもこれは本当に難しい方法だから、絶対本気にしないで。絶対だからね」
念を押したフレアは、別地域のADで実際に用いられた情報をまとめたメモを差し出した。紙を覗き込んだイチルとムザイは、記された意味不明な内容に首を捻った。
「わからん。まとめると、どういうことだ?」
しばしの間をおいて、フレアは心底嫌そうに口を結んだ。説明したが最後、次に言うであろう男の言葉を想像しながら、悲壮感に塗れた顔で呟いた。
「本物のNDを……、そのまま移設するんです。より自然で、かつギミックもそのままに、モンスターだけをAMに置き換えるの。そうすることで、NDの時と同じレベルのダンジョンとして、そのままギルド登録できた例があるんだって。これが私の知ってる最も自然的で、最も無謀なダンジョンの創り方……、です」
イチルとムザイが顔を見合わせ、「NDをADに?」と口を合わせた。わざとらしく驚くイチルの態度に慌てたフレアは、「絶対ダメだよ」と釘を刺した。
「言っておくけど、夢みたいなこと考えないで。第一こんなのは、一個人か一グループが単独でダンジョンを解体することができるレベルで、他にも色んな条件をクリアしてるのが条件なんだよ。私たちだけの力じゃ、絶対ゼーッタイ無理なんだからね!」
ぶるぶる激しく首を振るフレアの頬をプチュっと掴み、イチルがニタァと表情を崩した。その顔を正面で見ていたムザイは、既に真意を悟ってしまったのか、「待て、そこから先を口にするな!」と叫んだ。
「よぉし、たった今、次の仕事が決まった。これからすべきことは二つ。労働環境改善のため、まずはモンスター管理の自動化を実現する。そして……」
「やめて、それ以上言わないで!」とあわてふためく二人に対し、イチルは笑いながら、天に向かって指を立て、堂々と宣言したのだった。
「ウチにNDを移設させる。くくく、なんだか面白くなってきたな、そそるぜ」
「やめてー!」と頭を抱える二人を尻目に、新たなる計画は唐突に幕を開けた。
ND移設大作戦(仮) は、まだまだ始まったばかりである――
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