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ローside
己の医療技術を上げるためにも、医学書を探していたのだが、おれが欲しい本はあいにく、スワロー島にはなかったため、隣の島に行くことにした。隣とはいえ船を使わないといけないし、そこそこの遠出になる。
それに付いてこなくていいと言ったのにペンギンにシャチ、ベポはついてきやがった。
そして本を探すために商店街の方に立ち寄った時のことだった。買い物を済ませ、店を出て少し歩いたところでふとそいつを見つけた。陽に当たってキラキラと輝く金髪が目を引く。
だがそれとは別にふらふらと危なげに歩く後ろ姿に意識が向く。眩暈を起こしているであろう当の本人は「あれ?」だの「え?」だのと呟いている。自分に何が起こっているのか理解していないらしい。
倒れる前に支えようと思ったが、一歩遅く、金髪がばたりと倒れた。
慌てて駆け寄ると、案の定意識を失っている。苦しそうに呼吸をしている様子からして熱があるようだ。
「……」
おれはそいつをおぶってそいつが持っていた紙袋も手に取った。背中から伝わる体温の高さに、こいつはただの風邪じゃないのかもしれないと思う。病院に連れてってもいいかもしれないが、ここからだとおれが乗ってきた船の方が近い。そこに連れていくのが1番いいだろう。おれは早足で船へと向かった。
「ローさんおかえ……って、そいつは?」
「道端で急にブッ倒れた。悪いが部屋まで運ぶぞ」
「あ、うん。わかった」
「これ、こいつの私物?」
「そうだ、しまっておいてくれ」
おれはペンギン達に事情を説明しながら部屋の方へと向かい、ベッドに寝かせた。額に手を当てるとかなり熱い。なんでこんな状態で呑気に買い物なんかしてたんだ。
ベッドの上で変わらず苦しそうな表情を浮かべるそいつを見ていると、胸の奥がざわつくような感覚に襲われる。それが何故なのかはわからない。でもとりあえず今は目の前の奴の診察をしなければ。幸い、簡単な医療器具は持ってきている。
おれは聴診器を取り出し、そいつの胸に当てた。
診察を終えたおれは一度部屋から出て、キッチンへと向かう。そこではペンギンが夕食の準備をしていた。おれに気付いたペンギンは、野菜を切る手を止めておれの方に振り返る。
「あ、ローさん。さっきの奴どうでした?」
「過労による発熱だろうな。重度じゃないからあともう少ししたら目覚ますだろ」
「そうか、よかった……」
そう言うと、ペンギンは再び料理を再開した。その様子を横目に見つつ、コップに水を注いで一気に飲み干す。
それから部屋に戻ると、ベッドから体を起こしてきょろきょろと不思議そうにしている金髪がいた。おれが部屋に入ってきたことに気づき、おれの方を見る。金髪は俺を見るなり目をぱちぱちと何度も瞬きさせた。
「起きたか」
おれがそう言うが、金髪は何も言わずに未だ何か考えているようだった。
「具合は?」
次にそう聞けば、金髪は間抜けな声で「えっ?」なんて言いやがった。だが不思議と不快感はない。それどころか、どこか懐かしい感じがした。初めて会ったはずなのに、何故かそんな気がしないのだ。
それから再びの診察、軽い自己紹介を済ませると、金髪は俺の名前をいい名前だと褒めた。
「俺はジェイデンだ」
その名前をおれはどこかで聞いたことがあるような気がして記憶を辿っているうちに、金髪――もとい、ジェイデンが誰なのかを思い出す。
「お前、東の海で失踪した第二王子か?」
おれの言葉に、ジェイデンがビクリと肩を揺らした。数か月前に新聞で見た顔写真と、今目の前にいる男の顔が瓜二つだ。多少の変装はしていたみたいだが、髪の色も瞳の色も新聞に書いてあった情報と全く同じだから間違いないだろう。
ジェイデンは何故バレた? とでも言いたげにずっと百面相をしている。隠し事が驚くほど下手くそだな。こいつ。
おれが指摘すれば、ジェイデンはふにゃふにゃした笑顔を見せた。その笑顔に心臓を直に掴まれたような錯覚に陥る。
――なんだ、この感情は。
自分の身に起きている現象が理解できない。ふっとジェイデンから目を逸らし、ジェイデンのこれまでの経緯に耳を傾けた。〝今まで〟を語るそいつの横顔が何だか絵画のようで、無意識のうちに視線が吸い寄せられてしまっていた。