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臣桜
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上野文
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「俺も大地の結婚式には参加したいと思ってるから、重ならないように調整できたらいいな」
尊さんが言うと、彼は「ああ」と頷く。
私はその様子をニコニコして見守っていた。
春に予告なしに速水家へ突撃して、百合さん達と和解できてから四か月。
尊さんにとってはぶっつけ本番みたいな感じで、今回の旅行になってしまったから、いまだ百合さんへの緊張はあるんだろう。
でも小牧さんたち従兄妹が、こうやって空気を柔らかくしてくれているから、彼も何とか溶け込められているのだと思う。
昔からちえりさんは尊さんの味方だったし、きっと小牧さんたちも尊さんに同情的だったと思う。
今だって敵視されてる訳じゃないし、アウェイな訳じゃない。
ただ、今まで親戚として付き合う事ができなかった人たちと、急に親しくしろと言われても身構えてしまうのかもしれない。
「……尊」
「は、はい」
急に百合さんに話しかけられ、彼は少し声を上ずらせて返事をする。
「七月、私の誕生日に立派な花をありがとう」
「いえ。……遅れてしまいましたが、お誕生日おめでとうございます」
私は聞かされていなかったので、「おっ?」と思って彼を見る。
すると、斜め後ろからちえりさんが言った。
「なるべく家族の誕生日には食事会をしているんだけど、今年はみんな色々予定が重なってしまって、食事会はしなかったのよね。尊くんからは何年も前にお祖母ちゃんの誕生日を聞かれていて、住所も分かっていた訳だし、……お祝いしてくれたのね。ありがとう。来年はきっと食事会を開くと思うから、その時は朱里さんと一緒に招待するわ」
そう言われ、尊さんはちえりさんを振り向いて会釈する。
百合さんは優しい声で言う。
「百合の花が入ったとても立派な花束と、お菓子と、気持ちの籠もった手紙をくれたわ」
尊さんは前の席の背もたれを見つめたまま、少し耳を赤くしている。
私はそんな彼がいとおしくて、ギュッと手を握った。
「……直接祝いの言葉を言えなくてすみません」
尊さんの言葉を聞いた百合さんは、前を向いたままだったけれど、優しく笑ったのが分かった気がした。
「ありがとう。とても嬉しかったわ」
「どういたしまして」
車内はほっこりした空気になり、みんな尊さんと百合さんの会話の続きを待っていた。
尊さんはキュッと私の手を握り、私もそれを握り返す。
少し絶ったあと、百合さんが話し始めた。
「……とても嬉しいわ。尊が孫として傍にいてくれて、凄く嬉しいの。……でも正直に言うと、私にあなたを孫と呼ぶ資格があるのか分からなくて、嬉しくてこれからも一緒に過ごして、さゆりができなかった分あなたを見守りたいのに、……臆病になっている自分がいるわ。……私は娘と孫を見殺しにしたも同然だから」
「……っ、そんな事ありません!」
尊さんは強い声で言い、唇を引き結ぶ。
「母は一度も恨み言を口にしませんでした。それが母の誇りです。むしろ、期待に添った生き方をできなかった事を悔いていました。……ですから、決してそんな事を言わないでください」
そのあと、車内はしばらく沈黙に包まれた。
やがて、百合さんが絞り出すように言う。
「難しいわね。残るのは後悔ばかり。カッとなって言ってしまった事を、撤回できないと思い知った時の絶望。……あんな事になるなんて思いも寄らなくて、子供が大きくなった頃、いつか歩み寄って和解できると信じていた。……でも、人生ってすべてタイミングの折り重なりだわ。運命の女神の衣を掴み損ねてしまったら、二度と機会は与えられない。……場合によっては再びチャンスを得られる事もあるかもしれないけど、過去に戻れない以上〝同じタイミング〟は絶対にない」
重たい沈黙のあと、尊さんが言った。
「母と妹を喪った俺の痛みと、娘と孫を喪ったあなたの痛みは同じではありません。……俺自身、数え切れないぐらいの〝もしも〟を考えました。でもあなたが言ったように、時間は戻りません。……死者がどう思っていたかを想像しても、想像の範囲を超える事はないんです」
「……そうね。あなたの言う通りだわ」
百合さんは溜め息混じりに言う。
「……母の思い出話なら、沢山聞きたいです。俺も、俺の知る記憶を教えたい。……でも、もう嘆いても二人は生き返らない事は受け入れないと。……俺もみんなも、悲しむだけ悲しんだと思います。二十二年経って、今がある。思い出して懐かしむ事はしても、自分を責めるのはやめましょう。……未来の話をするんです」
私は窓の外を見て涙を流し、尊さんの手を握り続けた。
コメント
1件
もう、このエピソードは心にズシッときたわ……。 百合さんが「娘と孫を見♡♡♡にしたも同然」って自分を責めるシーン、読んでて胸が痛んだ。 でも尊さんが「未来の話をするんです」って優しく返すところ、彼の強さと優しさが滲んでて泣けた。 過去は戻らないけど、だからこそ積み重ねていく今が大事なんだなって思わせてくれる回だった🌸