TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ひまわり畑で笑って

一覧ページ

「ひまわり畑で笑って」のメインビジュアル

ひまわり畑で笑って

12 - ホワイトナイト

♥

5,173

2024年08月26日

シェアするシェアする
報告する




ひまわり畑でわらって



桃赤

青赤




















懐かしい夢を見た。











まだ俺が片手で数えられてしまう年齢のとき。

その日は桃くんのお母さんの妹さんが結婚式をあげるため、俺はお母さんとお呼ばれされて会場に来ていた。

白い光の差し込む教会で、真っ白なウエディングドレスに顔にかかった白いヴェール。持っているのは黄色い綺麗なひまわりの花束。


幸せそうに笑い会う2人。


まぶしい、すごい、きれい。


まだ5歳だった俺には初めての体験で、目を輝かせておばさん達を見ていた。すると隣に座っていた桃くんが、少し顔を赤くさせてこっそり耳打ちしてくる。


「あかあか、」

「なぁに?」


お母さん達に怒られないように、幼稚園でならったありさんの声で俺も桃くんにそっと顔を寄せて聞き返す。


「……..このあとね、ちゅーするんだよ」

「….そうなの?」


そうだよ、俺知ってるし。きょとんとする俺に自慢げに話す桃くん。

すると白い髭の長いおじいさんが何かを喋り始めた。


「病める時も 健やかなる時も

富める時も 貧しき時も__」


そして2人の唇がかさなろうとするのをドキドキしながら見ていると、桃くんに両目を塞がれた。


「あかはみちゃダメ」

「なぁんでー!!」


不貞腐れてやっと桃くんに目を離された時にはもう終わっていた。











「じゃー、ブーケストしまーす!!」


その声に若い女の子達がわーっと集まってくる。

俺はどうしてもそのひまわりのブーケが欲しくて桃くんの手を引き、女の子達のそばに行った。

雲ひとつない快晴の空にふわりとブーケが宙を舞う。

そして、何故かぽすんと隣にいた桃くんの手に落ちてきた。

わーっと周りから歓声が送られる。

そんな中、彼はびっくりしたように目をぱちぱちさせた後、無言で俺に花束を握らせてきた。


「え….これももちゃんの」

「あか、ほしいんだろ。やる。」


周りの大人たちはあらかわいいわねぇ、なんて言って微笑ましそうに俺たちを見ていた。


「ありがとう!!….//」

「….ん、//」


俺が嬉しくてはにかむと、桃くんは顔を赤らめてそっぽを向く。

ぶっきらぼうに見えて、どこまでも優しい彼に思わずきゅぅっと胸が切なく鳴いた。

思えば、しっかり恋心を自覚したのはこの時だったのだろうか。



それから俺たちは小学校に上がるまで、よく結婚式ごっこをして遊んだ。

勿論ウエディングドレスなんてものはないから、よく遊びに行くひまわり畑を教会にして、ヴェールは家のカーテンをこっそりとってきて頭にかぶせたり、ブーケはひまわりを何本か摘み取って花束にした。

意味もわからないセリフも2人で頑張って覚えた。

いつも俺が妻役で桃くんが夫役なのは納得がいかなかったけれど。


「やめるときも、すこやかなるときも、とめるときも、まずしきときも、つまとしてあいしうやまい、かなしむことをちかいますか」

「はい、ちかいます」


俺の言葉に桃くんは俺の頭に被せられたレースのカーテンを上げて顔を寄せる。

それがなんだかくすぐったくてお互いにくすくす笑い合う。

唇が一瞬だけ触れて離れていく、幼いキスだったけど、それがきっと俺にとってのファーストキスだった。


















───


「ん….」


パチパチと何かが燃える音でゆっくり目を覚ますと、目の間に焚き火が燃えている。

ゆっくり起き上がると、俺の体には桃くんのコートが着せられて他にも何枚か上着をかけられていた。


「ここ….どこ….」


当たりを見渡すと、洞窟のようなところらしかった。耳を澄ますと風の音が聞こえるからまだ吹雪が静まっていないのだろう。

ぼんやりしていると、奥から目を丸くした桃くんが出てきた。

彼の持っていた小枝が地面に音を立てて落ちる。


「ももく….」

「赤っ…あか、あか」


勢いよく抱きしめられた、と思ったら名前を何度も何度も確かめるように呼ばれた。そして存在を確認するかのように両手で俺の頬を包み、また強く抱き締めてくる。

「もう目覚まさないのかと思った….っ」


久しぶりの彼の匂いにドキドキして安心して、何故か泣きそうになった。


「赤、….お前俺がどんだけ心配したか….」

「….ごめんなさい」

「怪我してたり痛いとこねぇか?」

「大丈夫だよ….?」

「そうか….ほんとっ….無事でよかった」


しばらくずっと抱きしめられて顔は見えないけど、微かに鼻をすする音が聞こえて、彼が泣いているのがわかった。


「桃くん….顔見せて?」

「はっ……..むり。」

「なんでよぉ」

「俺今すげーダサい顔してるから」


こんな吹雪の中俺を探しに来てくれたんだ。申し訳なさと愛おしいがぐちゃぐちゃになって言葉が出てこない。

それでも何とか声を絞り出す。


「….ありがとう」

「ん、」


彼が泣いているところなんて初めて見た。

素知らぬ顔をして、俺が追いつけないほど遠くを歩くから。いつもその背中を追いかけてきたから。

いつも彼は大丈夫だと俺が決めつけていただけで、本当は全然大丈夫じゃなかったのかもしれない。

今だけだからと、彼の背中にぎゅぅっとしがみつくように手を回した。


桃くんが泣き止んで落ち着いてきたのがわかったあと、俺の頭の中にチラチラと青ちゃんが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えた。このままじゃだめだと、離れようと力を緩めたが、相変わらず彼は俺を強く抱き締めたまま、離れようとしない。


「桃くん….?そろそろ離して….?」


桃くんの背中をポンポン撫でるが、さらに彼は強く俺を抱きしめるだけ。


「あのね、俺青ちゃんと、」

「….知ってるよ。付き合ってんだろ」


俺の言葉を遮って言い切ると、彼は体を離して俺を見る。その目にはなぜだか熱がこもっていて、でも悲しそうで。

どくどくと心臓が音を立てるのがわかった。








「桃く、」

「すき」





「へ….」





「俺、赤が好きだ」











ぶわっと顔に熱が溜まって固まる。


なんて言った、今彼は。







「青に嫉妬してむしゃくしゃして俺、大嫌いなんて嘘言った。….傷つけてごめん。酷いことしてごめん。

青なんかよりも、俺の方がずっとずっと前から好きだった。赤のことなら、なんでも知ってるつもり。」




「っ….」







何も言わない俺に桃くんは、さらりと俺の横の髪を耳にかけて微笑んだ。

青色の綺麗な瞳と優しく目が合う。



「….赤の笑った顔も、からかうと真っ赤になるところも、綺麗な目に涙いっぱい溜めて俺のために泣いてる顔も、抱きしめると俺の腕の中に収まっちゃう華奢な身体も、照れると目が合わなくなるところも、前髪触ると眠くなっちゃうところも、」



言い出したら止まらなくなった、みたいに桃くんはまくし立てるように言った。







「すきだよ、赤」




「っ〜〜//」




───今、俺も好きだと伝えたら、彼の、桃くんの、その瞳も綺麗な鼻筋も、しっとり少し濡れた髪も、今触れられている指のぬくもりも。

全部全部、俺が独り占めできるのだろうか。

俺の心も体も、彼のものにしてもらえるのだろうか。




でも、




『僕、赤くんがすきだよ』




俺には、








「なんで、」








彼にこう言って貰えることを、ずっと望んでいたはずだったのに。





「なんで…………今言うの….?」





目の前の彼が息を飲む。

俺が俯くと、触れていた片手がゆっくりと落ちていった。




「いま、さら…….遅いよ」



俯き続ける俺に桃くんは俺の頭にポンっと手を置いた。そしていつかのようにぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜれた。



「….わかってるよ….それでも….赤に、俺への気持ちが少しでもあるなら….俺の事も考えて欲しい」



酷い。

酷いよ、そんなの酷いよ。

今更、遅すぎるよ。

おれ、たくさん傷ついたんだよ。

いっぱい泣いたんだよ。

せっかく、忘れられてたはずだったのに。






「返事は、いつでもいいから」




























──────



あの後、救護の人達や先生達が俺達を見つけてくれて無事にみんなの元へ戻ることが出来た。


黄ちゃん達には泣いて沢山謝られた。

俺が悪いのに。皆は何も悪くないのに。

青ちゃんに至っては、俺の姿を見つけた途端抱きしめて大泣きしていた。

それから修学旅行が終わるまで青ちゃんが引っ付いて離れてくれなくて、ずっと手を繋いでいた。

橙くん達には沢山いじられて恥ずかしかったが。




















──────







「あ….か、….く」






「赤くん!!!」





「へ?」



「どーしたの、ぼーっとしちゃって」

「えぁ、….いやなんでもないよ」


放課後、青ちゃんが日直日誌を書いているのを待っていた。

話し掛けられたのに気づかなかったらしい。

伏し目がちに笑いながら誤魔化す。


今は11月末。冬休み前のテスト1週間前で部活も休みだ。

ふと顔を上げると、綺麗な瞳と目が合って彼は無言で顔を近づけて来る。


俺達以外誰もいない教室。


オレンジ色の夕日が彼の輪郭をなぞる。


水色の髪の先が透き通ったように光り、綺麗だなぁなんて他人事のように思う。


そして、微かに彼の唇が触れて、離れていった。



「….僕以外の事考えてる?」

「え….」

「分かるよ、赤くんの事すきだから」


青ちゃんは俺の頬に片手を添えて首を傾げる。


すき。好き。like。Love。


俺には、到底難しい言葉。




何も言わない俺に身を乗り出していた彼は、ふっと笑ってまたシャーペンを握り直し1回手元でくるりと回してから口を開いた。


「修学旅行のときからなんか上の空だよね。……桃くんに告白でもされた?」


「っ!!//」


「….やっぱり」



動揺して目を見開く俺に、青ちゃんは書いている手を止めてパタリと日誌を閉じた。


「わかりやすいよね、赤くんは」

「ち、違うの青ちゃん、」

「僕が今キスした時には無反応だったのに、桃くんに告白されたって顔赤くするんだもん」


妬いちゃうなぁ、悲しそうな顔で青ちゃんはまた俺を見て眉を下げる。


「っ….違う!!」


俺は声をはりあげて身を乗り出すと、青ちゃんのネクタイをぐいっと引っ張った。

驚いてバランスを崩す彼の唇に、無理やり自分の唇を重ねる。


「俺が好きなのはっ、青ちゃんっ….だよ….」


お願いだから、そんな苦しそうな顔しないで。

俺のせいで、あなたを傷つけたくないの。

ぎゅっと彼のネクタイを握りしめた。


「じゃあ、抱いてもいい?」


「え、」




彼の平然とした予想外の言葉に固まってしまう。

段々と顔に熱が溜まるのがわかった。

気づいた時には俺の手のひらから彼のネクタイがするりと抜けていっていた。

反応に満足したのか、青ちゃんはわしゃわしゃと俺の頭を撫でる。


「ふは、冗談だよ」


いたずらっぽくまた笑うと彼は席を立って、日誌職員室に出してくるね、と教室を出ていってしまった。



「あおちゃ….」



小さな呟きが広い空間に落ちる。

俺は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。






──────



「……..」




なんとなく気まずくて、青ちゃんと無言で帰り道を歩く。

手は、彼の温もりに触れたいと思う癖に行き場を失ったまま。


「危ないよ」


俯いて歩いていると、肩をぐいっと引き寄せられた。その途端横から自転車が物凄いスピードで走り去っていく。


「あ….ありがとう」

「ん、」


小さな声でお礼を言うと、彼が俺の手をぎゅっと掴んできた。


「ちょっと、ついてきて」

「え?」


びっくりして見上げると、彼の真剣な横顔が見えた。

















―――





連れてこられたのは、俺が青ちゃんに告白されたひまわり畑だった。

もちろんひまわりなんて咲いてないし、殺風景な場所になっている。

冷たい風が髪を揺らし、オレンジ色の太陽がまさに沈もうとしている。


「ここで赤くんに告白した。覚えてる?」

「….覚えてるよ」


彼は俺の手をまだ握っていて、でも正面を向いたまま。


「赤くんと付き合えた時、本当に夢なんじゃないくらいって幸せで」


俺もだよ。そう言いたいのに声が出ない。


「こんなに人を好きになったの初めてで嬉しくて、赤くんの為なら死ねるよ、僕」


「青ちゃ….」


「好き….ほんとに好きなんだ….だから言わないといけない。」


綺麗な瞳が儚げに、切なそうにこちらに向けられて、途端に息が出来なくなった。


「僕、来月のクリスマスイブの日、アメリカに行く」


「え….?」




















To Be Continued…..?





次回作で多分最後になると思います。

応援してくださったみなさま!

せっかく最後なので感想コメントぜひ残していってください!感謝を伝えたいです!!

描写が雑になってるのは見逃してください泣

ひまわり畑で笑って

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

5,173

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚