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めちゃつえー単話集③

第5話 - 🐺✕🐙 攫って、奪って、それから（後編）

1,159

2025年12月04日

#にじさんじBL

#めちゃつえー

#MECHATU-A

鯱

⚠注意喚起⚠

nmmn,rurb要素。

前回からの続き。

⚠死ネタが含まれます

後編は約6000字

すべてkyng視点

↓以下伏字なし

溜まっていた食器を洗いリビングへと戻る。前まで過ごしていた屋敷のバスルームにも満たないほどの部屋。その隅で俺の服を着ながらこちらを見る紫髪の彼は、今日も幸せそうに笑っていた。

ここは俺が5年前に住んでいた家だ。あの屋敷との始まりは終わりと同様、半ば強制的な雇用だったためガスや電気などを解約する暇はなかった。そのまま多すぎる賃金に圧倒され解約手続きを怠り続けたのが今になって良い方向に働いたのだ。

「悪ぃな。こんな狭い部屋に押し込めて。」

そうとは言え長い脚を折り曲げて座る彼を見るとどうしても罪悪感が募る。思いつきにも近い俺の行動で彼の生活水準をがくっと下げてしまったのだ。

「たしかにここは俺の住んでた場所よりずっと……なんていうか、その…控えめですよね。」

その通りなのだが改めて言われると更に申し訳なくなる。それに気づいた星導は違う違うと手を動かし、少し早口に呟いた。

「でも全然嫌じゃないです！それに、これは多分…俺が願ったことだから……。」

願ったこと？……星に？なんて考える俺に星導は少し恥ずかしそうに言葉を続ける。

「俺ね、星にいつもするお願いごとが2つあったんです。それでその1つが小柳くんともっと一緒にいたい！ってお願いごとで……ね？今のこの状況そのものでしょ？」

星導は存外健気な人間だった。思い返してみれば屋敷にいた時に我儘を言うことはあっても、それに本気で困らされたことはない。誰にでもそうなのか俺にだけそうなのか今となっては分かりようもないものの、自分がその健気さに庇護欲以上のものを感じてしまっているのも事実だ。

「星に2個も願ったの？欲張りすぎん？」

照れ隠しに軽口を叩けば星導はむっとした顔で抗議した。しばらく言い合って、顔を見合わせて笑って、こんな些細で幸せな日々がずっと続けばいいのに……なんてこのときは本当にそう思っていた。

星導の病気が悪化するまでは。

例えば、1日にとれる食事の量が減ったこと。一度、無理して食べようとして結局全てもどしてしまったことがあった。スープなどの胃に優しいものが星導の主食になったのは記憶に新しい。

例えば、横になることが増えたこと。前までは少し外に出て周辺を散歩したり、家の中で俺の家事を手伝うことが多かった。でも最近は寝室にいてもリビングにいても、横になって気だるげにしてることが多くなった。

例えば……、なんて挙げればきりがない。星導の病気は薬でどうこうなるようなものではなく、先天的な免疫の弱さからくるものだ。あの屋敷にいることでどれほど守られてきたのかを俺は嫌と言うほど分からされた。これ以上ここにいてはそれこそ本当に死んでしまうのではないかと日夜思うようになるほどに。

だから俺は、星導に内緒でこっそりとある計画を立てた。次の新月の日、俺はあの屋敷に彼を戻す。自分が連れ出したのだから戻すのも俺がやらなければ、なんて言い訳にも近い責任感が背中を後押しする。星導はきっと嫌がるだろうから彼の寝ている間にすべてのことを終わらせよう。

そして月日は流れ新月の日になった。今日は比較的気分が優れるようで、1日中にこにこと笑いながら他愛のない話をして過ごしていた。後は寝るのを待つだけ。気休め程度の栄養素がとれる錠剤を渡して日常を繕いながら部屋を出ようとした時だった。

「小柳くん！」

呼び止められた声に振り向けば壁にぴとりとくっついてベットにスペースを空けた星導が何か言いたげにこちらを見ている。勘のいい俺はその意図に気づいてしまった。

狭い家にベットが2つもあるわけはないため、俺は星導が来てからはずっとソファーで寝ていた。そんな生活を続けていればやはり身体に負担がかかるのは当然で、昼間の世間話の時にそれを少し漏らしてしまったのがいけなかったのだろう。

「……今日だけ、お邪魔するわ。」

少しの思案の後、そう言って扉を閉めれば緊張していた星導の表情がほっと緩んだ。セミダブルに成人男性2人はさすがに狭いかと思ったがそうでもない。……それは星導がいかに細くなっているかの象徴であり全く喜ばしいことではないのだが。

仰向けに寝転がる俺を星導は横からじーっと見つめて笑っている。なにが楽しいんだと思い顔だけ横に向ければ肩を跳ねさせ照れたように目線をそらされる。少しの興味と悪戯心とに従い尚も見つめ続ければ観念したように視線が再度交わった。

「なに、なんか話したいの？」

いつもなら早く寝ろと一蹴するが今日は最後の夜だから、話したいことがあるのなら聞きたいと思った。俺の問いかけに瞳を彷徨わせた後、彼はおずおずと口を開く。

「小柳くん、あの……変なこと言ったらごめんね。」

前置きでこんなこと言うなんて珍しい。突飛な星導の思いつきには慣れっこなのだから今さら何を言われてもという感じだ。急かすように体ごと星導の方を向けばゆっくりと口が開かれた。

「最期まで、貴方のそばに居させてください。」

全てを見透かされたような言葉に心臓がどくりと脈打つ。

「あは……やっぱりね。ずっと見てきた大好きな人だからなんとなく分かっちゃったんですよ、小柳くんが何しようとしてるか。」

なるべく顔に出さないように努めたのに、この男の前では何の抵抗にもならなかったようだ。もはや取り繕うのは無意味だと感じ、目を逸らさないまま口を開く。

「星導が1番自覚してるだろ？……このままここに居たらどうなるか。」

言霊、とでも言おうか。口に出したらすぐにでも現実になってしまうような気がしてあえてぼかした言い方をした。それでも十分伝わったようで、星導はなにがおかしいのかへにゃりと笑いながら俺の手をとる。

「そりゃあ分かってますよ。でもね、小柳くん。

俺はそれがいい。」

これが星導の本心なのは分かってる。だからこそ聞きたくなかったんだ。かける言葉も見つからずただ眉をひそめた俺に彼は怯むことなく言葉を続ける。

「ねえ小柳くん。これこそ本当に変なこと言っちゃうかもだけど……」

俺だって伊達に5年も仕えてきたんだ。今から星導の口にすることが何となく読めて、でもそれを言ってほしくなくて、幸福そうな弧を描く唇を塞ごうと手を伸ばした。

「俺たち、両思いじゃないですか？」

間に合わなかった後悔と紡がれた言葉の重さが身に染みる。従者という立場だから自分でも無意識のうちに抑制していたのか、それとも二人きりで暮らすことによって芽生えたのか。経緯は分からないものの、その気持ちが俺の中にあることに変わりはなかった。俺の沈黙を肯定だと捉えたのか星導は控えめに身を寄せる。

否定することは簡単。でも今この気持ちを否定してしまったらきっともう二度と肯定することはできない。随分と薄くなってしまった身体を抱きしめ、小刻みに震える肩をあやすように撫でた。

「ごめんね。」

「……謝んなよ。」

謝罪の意味を理解してしまった。星導が目の前でいなくなる瞬間を見ることに俺は怯えていたのだろう。実際今だって怖くてたまらない。だが、こんなに一途に、健気に自分のことを思ってくれる人間の願いを叶えないのは悪魔のする所業だとも思ってしまう。

……未来のことなんて考え出したらきりがないか。彼の心臓はまだ確かに動いているんだ。数少ない時間でも、俺は最期まで星導と過ごす覚悟を決めた。

その2日後から微熱が続くようになった。6日後には食事がほとんど喉を通らなくなった。13日が経った頃には起き上がることもできなくなった。

「小柳くん。」

声を出せるのが奇跡、とでも言おうか。実際それほどに星導の病気は日を追うごとに悪くなっていた。しかし、だいたい星導が俺を呼ぶときの内容は決まってるので続きを聞く前に薄い唇を自身のもので塞いで少ししてから離した。

「今日は呼ぶ回数多いじゃん、そーゆう気分の日？」

何度しても慣れないのか頬を染めながらも、「そーゆうので呼んだんじゃない」と苦笑いを返された。早とちりしてしまったのが少し恥ずかしいが、減るもんじゃないしまぁいいかと思い直す。

「小柳くん俺ね、多分もうそろそろなんだと思う。」

「……分かってるよ。」

照れた表情から一転、真面目な顔でそんなことを言われた。驚きよりもやっぱりかという思いが強く、それを表に出さないように次の言葉を待った。

「だから俺の最期のお願い、聞いてくれますか？」

最期じゃなくてもお前の願いなら全て聞くし、どんな手を使ってでも叶えてやるのに。……なんてことは星導も分かっているのだろう。だから言葉にはせずただ頷いた。安堵したように息をついた口からそのままに言葉がこぼれ落ちていく。

「星に願ってたお願い、1つは前に言いましたけどもう1つはまだ言ってないですよね。……俺、海が見てみたかったんです。」

海……か。確かに屋敷の立地的に海まではかなり距離がある。地位のあるあの家族が家を空けることが難しかったのはもちろん、体の弱い星導は尚のこと出向くことができなかったのだろう。

「昔聞いた話なんですけど、遠くの異国では火葬の後に残った骨を細かく砕いて海に流す文化があるらしいんですよ。それって凄く素敵だなって、思ってたんです…ずっと……。」

そこまで言って目線がちらりとこちらを向いた。自覚はあるのだろう。恋人の骨を自身のもとに置いておくことを許さず、そればかりか海に還す作業を相手にさせることがいかに残酷なことか。でも、

「いいよ、俺がやる。」

そう言われて微笑んだ顔の愛おしさに代わるものなんてないと本気で思った。その日はそのままいつものようにベットで何気ない話をしながら二人で過ごした。やはりそーゆう気分の日だったのは事実だったようでいつもよりキスの回数も多かった気がする。

そして日付が変わってすぐの頃、彼は眠るように息を引き取った。最愛の人を失ってしまった悲しみと、最期の瞬間を看取れたほんの少しの喜びが胸のなかで入り交じる。

涙は流れなかった。それはこれからやるべき事が明確かつ、早急に行わなければならない事だからだろう。どこの浜辺は人通りが少ないとか、骨をすり潰すためには何が必要なのかとか。急いで知識をいれながら準備した甲斐もあり、次の日には家を出ることができる状態になった。

早朝、深いフードを被せた星導を背負い家を出る。寒い時期なこととまだそこまで時間が経ってないこと、それから顔の状態が綺麗だったことも相まってなんの問題もなく目的の場所へ着くことができた。

かなりの遠出なのであたりはもう薄暗い。噂通り人通りも少ないので変な迷いが生まれる前に彼の遺体を用意していた木製の箱に入れて炎に包んだ。人が焼ける匂いなんてもっと酷いと思ってたのに、実際嗅いでみると何とも思わなかった。

ぼーっと眺めて赤い所が見えなくなったところで彼に近づく。病気がちだったから不安だったが、すり潰しても十分なくらいには彼が残ってて安心した。ごり、ばきっと嫌な音をたてながら骨をすり潰す。それを水溶性の袋に移し替えれば準備は万全だ。

予約していた船を受け取りにいった。そもそも人の少ない地域らしく、無人の販売所に本来より多くの金を置いてそこを出た。

二人で船で沖に漕ぎ出してからふと空をみあげるともう月が昇りはじめていた。今日は満月だからあいつもきっと喜ぶだろう。でも彼の骨を撒くのはもっと月が高く昇ってからがいいな。

なんて考えている内に猛烈な睡魔が襲ってきた。2日間働きっぱなしだった身体のことを考えれば当たり前だろう。俺はほんの少しだけ仮眠をとることにしてゆっくりと目を閉じた。

夢を見た。それはたまにある「これ夢だな」と自分で分かるようなタイプのものだった。

夢の中でも俺は船に乗っていて、その目の前には穏やかな笑みを浮かべ海を眺める星導がいた。夢というのは自分の欲に忠実なのか、それとも罪悪感に敏感なのか、と思っていれば彼の視線がこちらへと移る。

「小柳くん、今日はお疲れ様です。俺のために何から何まで全部本当にありがとね。」

あぁなんて都合のいい夢だろう。幻想の彼にこんな事言わせるほど自身の心が弱いことを自覚させられた。にこにこと笑う彼の続きの言葉を遮るように口を開く。

「星導は俺のこと恨んでるだろ？」

生きてる彼には聞けなかった問いかけ。俺の心に正直な夢ならいっそ罵ってくれ。お前のせいで死んだのだと、事実を突きつけてほしい。そうしてくれたらどんなに楽だろうと縋るこの考えも1つの甘えであることに変わりはないのだが。

「恨みなんてあるわけないでしょ。むしろ小柳くんのことを置いてくって分かりながら執着した俺のほうが恨まれるべきですよ。」

期待外れと予想通り。その両方が混ざってごちゃごちゃになった俺に星導はいつものように控えめに身を寄せて近づく。そして「もっと早く言えば良かったかもね、」なんて言って俺を見つめた。

「小柳くん、俺のこと連れてきてくれてありがとう。」

「違う、俺がお前のこと身勝手に攫ったんだろ。」

夢の中でこんなこと言ったって何の贖罪にもならないのに。

「小柳くん、俺の面倒最後までみてくれてありがとう。」

「違う、俺がお前の命を奪ったようなもので……！」

贈られる言葉に耐えきれなくて声を荒げながら否定を繰り返す。

「それから

最期まで愛してくれてありがとう。」

そこで夢から覚めた。否定させてくれないのは彼なりの意地なのか、あるいはそれだけは否定できるわけがないという俺への信頼なのか。

気づけば月はもう真上にまで昇っていた。袋を傾けて船の周りに満遍なく粉を振りまく。道中で見つけた彼の髪によく似た藤の花弁も一緒に浮かべる。

水面を揺蕩う白い粉に月の光が反射して、それはまるで切り取られた宇宙のように見えた。あいつがいつもいつも願いをかけていたものが今はこんなに近くにある。きっとこの光景を見たら彼は興奮しながら俺に笑いかけていたのだろう。

ぐらぐらと揺れる不安定な船の中、辺り一面をより見渡せるように立ち上がった。目に、心に、記憶に、余すことなく焼き付ける。あいつに詳しく伝えてやれるように、そうしなきゃいけないと思った。

船の縁に片足をかけた。頬を季節に似つかない優しく温かい風が撫でて、俺の決意を後押しするようにも感じられるそれに少しばかりあった緊張が和らぐのを感じる。少しでも願いが伝わるように、上へと手を伸ばした。

もう二度と彼が苦しむ人生を歩みませんように。今度はもっと多くの幸福を彼が授かりますように。次は二人で海を見れますように。今度はできるだけ長い時を共に過ごせますように。それから……

こんなにたくさん願うのは強欲すぎるだろうか。星導にはたった2個の願いで欲張りだなんて言ったのに……これじゃ向こうで会った時に怒られても仕方ないよな。

なんて思いながら瞳を閉じ、俺は煌めく星空の波へと身を沈めた。

スクロールありがとうございました。

初めて悲恋を書きましたが納得のいくお気に入りの小説となりました。

あとフォロワーさん700↑もありがとうございます。これこらも細々と活動を続けていきますので何卒よろしくお願いします🙇‍♀

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とても感動しました。文章とか言葉が丁寧で、読んで良かったと思える作品でした😭🫶🏻

鯱

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