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「鷹夜殿を信じています。その気持ちの赴くまま、土蜘蛛討伐を最優先して下さい。私の近衛も鷹夜殿は兼ねていますが、現場の状況により臨機応変な行動を優先。鷹夜殿の判断に委ねます。また、それに伴う被害については是非を問いません」
俺に判断を委ねてくれるのは大変ありがたい。
再度ありがとうございますと、深く頭を下げる。鼻先に畳の上に置いた、杜若の花から甘やかな香りがした。
杜若の紫の可憐な花びらを見ながら、考えが過る。
先日の公会堂での会議にて、貴族達に最終的にはこちらの思惑通りに草案を受け入れさせた。
しかも土蜘蛛の出現があり《《察した》》貴族達は今、迅速に対応して行っているのも把握している。
これで、かなり帝都に住む人達の安全性は跳ね上がったと思った。
これで土蜘蛛と戦える。ぐっと拳に力を込めながらゆっくりと頭を上げた。
そして帝の声が続く。
「真守殿。帝都の盾。あなたが誰よりも結界を慮るのは当たり前です。もし、結界が綻びたとしても新たな要に匹敵する神器を梔子家に与えます。八尺瓊勾玉、八咫鏡、草薙剣、辟邪絵、布都御魂。好きなものを持って行って下さい。民の為ならなにも惜しくない。どうかよろしくお願いします」
「神器の下賜……っ!」
真守の驚きの声がする。
そして深呼吸のあと。
羽鳥帝の真摯な言葉に真守は「その御心のままに」と、深く息を吐きながら答えた。
そして最後に帝は珍しく、小さくふふっと笑い声を上げた。
「実は神器達がここ最近。自らの出番だとまるで戦に向かう前の侍のように、奮い立っているのです。きっと民を慈しむ心に神器達も答えてくれるでしょう。私はそれを信じています。そして……鷹夜殿」
「はい」と返事をしてその声に背筋を伸ばすと、なんと目の前の御簾がすうっと上がった。
そこには玉座に座る羽鳥帝が居た。
白鳥のような白髪の髪に、柘榴のような赤い瞳。
純白の狩衣に身を包んだ、幼き帝の姿が目の前に現れた。
「!」
俺も他の四家も突然の拝謁に、部屋に緊張の空気が膨らむ。
しかし羽鳥帝は微笑んだまま。その赤き瞳で俺を見た。
「私ははるか昔。玉藻を守ってやれなかった。人の治世を守ることを選び、彼女を選ばなかった。今世ではどうか玉藻を守って欲しい。それは貴方にしか出来ない。どうかよろしくお願いします」
環ではなく、玉藻。
それは白面金毛九尾の狐が人に化けた時の名ではないかと。帝が何を言っているのか分からなかった。だが帝のお言葉を聞き返すことなど、できるはずも無く。
ただ、はいと言うと。帝は何故か俺を懐かしそうに見つめた。
「本当に鷹夜殿のその紫紺の瞳は晴命にそっくりですね。今度、ぜひ環殿にも会ってみたい」
セイメイにそっくり。
セイメイとはまさか阿倍野晴命かと思ったが、晴命は過去の人間。
他の誰かの空似なのかと思うと鈴の音が鳴り響き、御簾が無情にも下がった。
従者の者が静かな声で「これで御前会議を終わります」と告げたのだった。