テラーノベル
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蒸れたシャツを脱ぐ。
「暑いね」
男が困ったように笑う。
狭い更衣室内ではエアコンがついていない。
本当にケチな店長だ。
そうですね、とテキトウな返事をする。
男は気を悪くした様子もなく、小さく縛った髪を揺らした。
隣から布の擦れ合う音が聞こえる。
自然と目が行ってしまう。
黒いシャツの間から見える
とても痛々しくて
薄い背中には不釣り合いなモノ。
だけど目を背けることができない。
いつも気付かぬうちに見入ってしまう。
ふと視線を感じて、すぐに目を離した。
誤魔化すようにネクタイを結び直す。
汗が首筋を伝っていく。
折角着替えた服が台無しだ。
「気になる?」
そう問いかけてくる瞳は、
熱が籠っているように感じた。
戸惑いながらも、首を縦に振る。
すると、男が笑みを浮かべた。
見た事もない笑顔。
不思議と背中に冷たいモノが走った。
「見ていいよ」
くるりと回る。
その姿は黒いアゲハ蝶に似ていた。
ぱさり、と静かな音を立ててアゲハ蝶は真っ黒い粉を落とす。
あらわになった内側。
瞬間、心臓が何かに掴まれる。
呼吸が苦しい。
鼓動がやけに速くなっていく。
…触れたい。
この絵が、欲しい。
震える指先を伸ばす。
一瞬、ひんやりと感じたが
すぐに馴染んで消えた。
人差し指が肌をなめらかに滑っていく。
「こら」
男がこちらを向く。
「触って良いとは言ってない」
意地悪っぽい笑みを浮かべて
こちらの額を弾いてくる。
呆然としている内に、男はシャツのボタンを付け終えてしまった。
「じゃあね、お仕事頑張って」
ヒラリと、白い手を揺らして男は消えた。
人差し指が、チクリと痛む。
鱗粉が広がるこの部屋で、それを舐めとるように口に含んだ。
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