テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#一次創作
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
今日も僕は主人公のノアについて行く。そういう役目だから。そういうことになってるから。そう思ってた、ずっとずっと、僕の役目はそれだって、それしかないんだって。
でも、最近はちょっと、不思議な気持ちになって来たんだ。ノアなんていらないんじゃないかって。必要ないんじゃないかって。
だってノアってひどいんだ。僕たちNPCの会話をスキップしたり、僕たちを楽しむために……殺したり。始めのうちは、ちゃんと言葉で説得しようと思ってた。
でも、ノアはずっと「別に良いじゃん」とか「痛覚なんてないんだから」って言って、やめようとしなかった。
それなら、もういっそのこと、僕が彼を直したらいいんだと思って。彼は僕を殺そうとしたり、苦しませたりしてないから、きっと油断しているはず。
僕は僕の友達の為にノアを直すだけで、殺すわけじゃない。きっと、そう。
「……ゼン? 置いてくよ?」
「あ、ご、ごめんね、ノア!」
……殺すわけじゃないって思わないと、僕の心が持たない。本当は嫌だけど、皆が怖がるから、皆が、悲しそうだから。僕は、これをやらないといけない。
手が震えている。僕はこのあと、大切な親友を直すために、人目の付かないところに行かないといけない。場所は決まってる、僕からの誘いなら、ノアもきっと普通についてきてくれる。
「ねぇ、ゼン」
「な、っ……なに?」
「さっきからさ、何に怯えてるの。僕?」
ノアの表情は読めない。顔の輪郭がぼやけていて、とにかく、不明瞭で。僕が彼の顔を認識できたことは、一度だってない。
そして、そんな不気味な顔で見られると、やっぱり怖い。
「……そんなわけないじゃん、大丈夫だよ、ちょっと体調が悪いの」
「フーン……まぁいいけど。カフェでも行く?」
「……め、珍しいね、ノアから誘ってくるなんて」
「文句?」
「ないよ」
ノアに疑われないために、誘いには乗らないと。そして、この街におけるカフェは一つだけ。あそこの店主の女の子は……ちょっと、ノアに怯えている。
あの子は、ちょっと、ちょっとだけ、酷いことをされたから。直接的な被害とかじゃなくて、精神的なもの。
「……い、行こっか、ノア」
僕は、ノアと一緒に居るからって、怖がられることもある。それでも、僕は、いつかノアが反省して謝ってくれると信じて、ずっと待ってたのに。
カフェについた途端、店主の女の子の、多分父親だろう男の人に怒鳴られた。要するにもう来ないでくれって言われた。その人は、ちょっとだけ震えてた。
やっぱりみんな、ノアが怖いんだろう。そして、ノアは動ずることもなく、ただ「フーン……」とだけ言って、僕の手を引いて、その場から去った。
「ね、ねぇノア……僕の家に行ってみない? そろそろさ、僕たち、お友達でしょ?」
ノアは足を止めて、数秒だけ考えるような仕草をした。
断られたらどうしよう、なんて思いつつ、とりあえず平静を装って、愛想笑いを浮かべながらノアからの返事を待っていた。
「いいけど」
「あ……やったぁ! ありがとっ、ノア!」
僕は早く行きたくて、今度は僕がノアの手を引いて、僕の家まで走って行った。ノアは道中何も言わなかったけど、相変わらずあの顔でついてきていたんだろう。
家についてから、とりあえず僕はノアにお茶を淹れてあげた。
「どうかな、ノア」
「……悪くないんじゃない」
「よかった」
ノアがなるべく油断している時を狙いたい。そして、ノアは僕を疑う事をしない。ずっと、ずっとずっと、僕は彼に従順だったから。
息を整えて、震える手を何とか押さえつけて、僕はスコップを手に取った。ノアが来る前にやった、リハーサルでは全然重くなかったスコップが、今はやけに重い。
スコップを引き摺って、ノアの元へ歩く。
「ゼン」
「な、なにかな、ノア」
「これは何」
「あー……アールグレイ?」
「そっか」
ノアとした最後の会話がこれになるのかと思うと、なかなか虚しい。ノアが油断してる今のうちに、僕はスコップを振り上げた。
鈍い音と、ノアが椅子から落っこちて、椅子もひっくり返って、家の中がうるさい。
「いっっ……!? は、ちょ、ぜ、ゼン、なにして……」
「は、はぁっ……ごめん、ごめんね、ごめんねっ、ノア、ごめん、ごめんなさい……!」
床に転がったノアの上に乗って、スコップを振り下ろす。何回も。ノアが意識を失うまで、ずっと。
気が付いた時には、僕の手とスコップは血でぐちゃぐちゃになっていて、ノアの頭は……それはもう悲惨な事になっていた。
「……う、う、おぇっ……」
ノアの死体が、NPCとして生きてきて、初めて見る死体だった。
親友を殺した罪悪感と、生きてるキャラクターの死体を見てしまった衝撃と、血の匂いが混ざり合って、胃から今朝食べたものがせりあがってくる。気持ち悪くなって、そのままノアの死体の上に吐いてしまった。
血と吐瀉物が混じりあって、より悲惨な光景になってしまった。
「……はは、ごめん、ごめんね……」
僕は死んでしまったノアの体を抱きかかえて、泣いた。泣いていると、どんどんノアの体が冷たくなっていって、本当に殺しちゃったんだって思った。
三十分くらい感傷に浸ってから、泣いてる暇はないと思って、とりあえず立ち上がった。ノアだったものの手首を掴んで、庭に引き摺って行く。
前々から掘っていた穴がある。穴を掘るのには時間がかかるから、予めやっておいた。自分の準備の良さに、また気持ち悪くなる。でも、今度は吐かなかった。
穴の中にノアを放り込んで、土と草をかぶせる。ノアを埋めている間も、涙はちっとも止まってくれなかった。気持ち悪いのも、止まらなかった。
「ごめん、ごめんなさい、ノア……」
ノアを埋め終わったころにはもう夜で、その日は何も考えず、そのままソファで寝た。僕たちがこれからどうなるかなんて、知らない。