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『そろそろ抜けるね』
「あ、じゃあ私も」
『えななんも? めっずらし〜、おつかれ〜』
『おつかれさま』
まふゆと同時に抜け出した私は、セカイへと向かった。時刻はだいたい午前三時。昨日、一昨日は二時に抜けていた気がする。まふゆとはいえ、寝てないのは辛いはずだ。
***
セカイに行くと、すぐにリンが駆けつけてきた。
「絵名、こっち」
「ありがとう、リン」
リンの案内の元、早歩きでまふゆの元へと向かう。
すぐにまふゆの姿は見えてきて、体育座りで膝の間に顔を隠した様子が見えた。
「まふゆ!」
「……絵名、どうして?」
「って、酷い顔。そんな顔で学校過ごしてたの?」
「特に何も言われなかったけど……。どうしたの?」
どことなくローテンポに話すまふゆ。やはり疲れている。明白だ。通話越しじゃ、あまり話さないこともあって分からなかったけど、はっきりと分かる。これはダメだ。
「寝てない、みたいな話を聞いたけど。あ、リンからね」
「……ああ。寝てはいるよ。あんまり眠れないだけで」
「それを寝てないって言うんじゃないの?」
「…………」
しかしまふゆはそれに返事をしない。自分でも分かっているみたいだ。
「もういいなら、帰るけど」
「なんでセカイに来てたの」
「……」
「前、まふゆがここにいると落ち着くって言ってたよ」
「ふーん」
「ミク……」
ばつが悪そうな顔をして、まふゆは目を背けた。
ミクももう完全な味方みたいだ。
「なら、ここにいた方がいいじゃない。ミクとリンもそう思うよね?」
「絵名……」
「リンから聞いたけど、私が来たら治った、みたいな。まふゆは私がいると安心するの?」
「……そうだけど」
「っそ、そう」
ここにきて急な肯定。私はつい、間抜けな声を漏らしてしまう。
正直に言うと、もう少し頑固になって認めないと思っていたから、こんなに素直に言われると思っていなかった。しかもあの話は本当だったなんて。
話してくれた喜びと、その事実が入り混じって恥ずかしい。まふゆは静かに私の目を見据えてまた口を開く。
「……あの時、絵名が側に居たときは悪い夢も見なかったから、安心してるんだと思う。それより前からたまに夢を見てて、段々頻度が多くなってたから、今ほどじゃないけど寝れてなかった」
「そう、なんだ」
「絵名のお陰で最近は見てなかったけど、また見るようになった。それも、目を閉じると必ず見るから中々寝れなかった。それだけ」
「内容って、私達が離れていく夢、だっけ」
「うん」
それなら、まふゆがあの時私の手を握ったのは、離れてほしくなかったから。どこにも行ってほしくなかったからってこと。そんなこと、するはずないのに。そんなこと、したくないのに。
「私がいると、いいんだよね?」
「……」
「なら、疲れてるだろうしもう寝ようか。明日学校あるんでしょ?」
「部活がある、けど」
「じゃあ寝なきゃ」
私は座ってまふゆに膝に来るようジェスチャーする。流石に疲れていたのか、案外素直に膝に寝っ転がって私を見上げた。
「手、握る?」
「……うん」
返事をして、私の左手を両手で包むように握った。
背中を撫でていると、まふゆはだんだんと目を閉じていった。そしてすぐに寝息が聞こえてきて、私に寄り添うように体を丸めた。
「…………」
その姿が、少し愛おしいと思った。