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これはこの神社に来てしばらくたったころのことだったと思う。
その日、ぼくは鏡の前で色々なポーズをとっていた。
「何やってるの、コマ兄?」
美子が聞いた。
「いやね、最近“自分探し”って言葉を知って。
まぁ、せっかくだからぼくも探してみようかと思ったんだよ。
で、鏡を見てるうちにとりあえずカッコいいポーズをと…」
「全然わかんない」
美子は笑いながら言った。
それを見ていた女神様も笑う。
「じゃあ、いい機会だから自分探しに行ってみようか」「おぉ〜…きれいな建物ですねぇ」
ぼくは見上げて言った。
「ここ、何の建物?」
美子が聞く。
「博物館よ」
女神様が答えた。
自分探しで博物館…きっとここにはぼくのクローンが展示されて…
いや、むしろぼくがクローンで本物が展示されている可能性も…
「女神様、コマ兄が何か変なこと考えてるよ!」
ぼくを見上げていた美子が言った。
「コマ、ここはいたって安全で健全な博物館よ」
ぼくはハッと我に帰る。
「じゃあ、早速入りましょう」
中に入ると、最初はこの辺りの動物や植物、果ては化石などの展示があった。
「へぇ…普段の生活では気づかないけど、色々な生き物がいますね」
ぼくは鳥の模型を見ながら言った。
「ねぇ、ちょうちょがいるよ、きれいだよ」
美子は蝶の標本を見ながら言う。
「うちの近所にもいるかなぁ?」
女神様が答える。
「多分、山に入って行かないと見つからないね」
「なーんだ、残念」
美子はどこかおかしそうに言った。次の展示は歴史的なものだった。
発掘された甕棺や石器、陶器、刀…今では見ることのないもの…
「この辺りで見つかったんですね」
「歴史のある土地だからね」
女神様は静かに言った。さらに次は、美術品だ。
「絵って美術品にあるものでは?」
ぼくは言った。
「この地域にゆかりのある画家の絵でしょう」
まぁ、いいんじゃないの、と女神様は言って絵を見始める。
どれもとても美しい絵だ。
ぼくたちは黙って一つ一つを丁寧に見た。
ほとんど誰も喋らなかったけど、それぞれしっかり堪能していた。最後の部屋は民俗学。
昔の家の模型、過去に使われていた道具類…
昔の人の暮らしの一端が見える。
「色々な道具があるね…船もあるよ」
漁業や農業で使われていた道具がたくさん展示してある。
この辺りの神社に奉納された船の縮小模型。
「乗れるかな?」
「いや、無理だと思うよ」
ぼくは笑った。
テンションの高いまま、家に帰る。
「楽しかったね」
「また行きたいね」
次に女神様が言った。
「自分探しはできたかしら?」
…
……
………
「そうだった!
全然探してなかった!
警察!捜索願い!」
「何でそうなるのよ」
女神様が笑う。
「今日の感想を聞かせて」
「そうですね、ぼくは自然関係と美術品が好きでした。
自然でも鳥がよかったなぁ…近所でも注意して見てみようかなって…
あとは美術品が好きでしたね。
色々美術館もまわって見たいと思いました」
女神様が頷いて言う。
「そう、好きなものが見つかったのね。
それはよかった。
美子は?」
「私もね、生き物がよかったなって思ったよ。
近所にきれいなちょうちょがいたらいいなって」
女神様は嬉しそうに頷く。
「自分探しってね、自分で自分をもっと詳しく知ることなのよ。
博物館に行くと自分の好きな分野はしっかり見るし、興味のないものはさらっと見る。
だから、自分の好きな分野が見つかったのなら二人とも自分探しは成功ね。
ちなみに、他の博物館でも試してみると同じようになるよ」
そう言って女神様は静かにお茶を飲むのだった。
※ロケ地佐賀県立博物館